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フィルが何の音沙汰もなくキャルを訪ねなくなって三ヶ月後、いつもより畏まった様子のリオが手紙を携えてやって来た。
元々来客の対応は特別な時以外は足腰の弱っているソレイユでなく、キャロラインが受けるのが普通だったが、名前を聞いて扉を開ける手が止まった。
「勝手を言ってすまない。フィルから手紙を預かってきたんだ。大事なことが書いてある、開けてもらえないだろうか?」
怒鳴って追い返してやろうかと思ったが、その声があまりに真剣だったので渋々扉を開け、手紙を受け取った。
読み終わるまでここで待つと言うので、仕方なくリオを立たせたまま(客人扱いする気はなかったので)手紙を開いた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
親愛なるキャルへ
あの日は俺から誘っておきながら急に先に帰ってごめん。
その後も連絡できなくてすまなかった。
家で、色々騒動があって身動きが取れなかったんだ。
でも、それももうすぐ決着がつく。君に会いたい。
できればこのままリオについてこちらに来て欲しい。
君が以前見逃した演し物をやる一座が街に来ているから、一緒に見よう。
その時、俺が怪我をしていた理由や暫く連絡できなかった理由も話すから来て欲しい。
待っている。
フィル
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「……誘拐犯の呼び出しみたいな手紙ね」
「すまない、手紙では書けない事も多くてな。一緒に来てくれればあいつの口から説明させる」
「行くと思う?」
申し訳ないが、良い人ぶった貴族の遊び相手にされたとしか思えなかったのだ、ここ三ヶ月ほど。
貴族という生き物はいとも簡単に人を切り捨てる。
最初からそうだろうと見当をつけてはいたが、フィルは違うと思っていた__思っていたかった。
それはきっと幻想なのだろうけど。
だが、
「頼む。アイツは今……闘ってる最中なんだ。君と連絡をとらなかったのはま…、いや、それも俺の口からは言えないが、奴は本気で君に会いたがってるんだ。何か言いたいことがあるなら会ってぶつけてやればいいだから__、」
「貴方に伝言でも構わないんじゃない?向こうだってそうしてるんだから」
「!っ、俺は幼馴染ではあるが同時にあいつの家臣でもある。だから__」
「ご主人様の命令しか聞かないってわけね、でも私は貴方のご主人様の家臣じゃないわ!もう帰って」
と扉を閉めようとしたが、リオ改め忠実な家臣が扉の隙間に体を押し込んで止めた。
「頼む!あいつに会ってやってくれ!」
「嫌だって言ってるでしょう?!帰って!!そしてもう二度と来ないで!!」
「君の為でもあるんだ!!」
「私の、ため?」
(どういうこと?)
フィルの開いた瞳を初めて見た時、その青さにドキッとした。
格好からして貴族だろうと気付いていたけれど、いくら貴族が嫌いでも見殺しにするわけにいかなかった。
怪我が治って出て行った後律儀にお礼に来て、その後街に連れ出してくれて色々な景色を見せてくれて、話を聞かせてくれて楽しかった。
彼は話し上手で、いつもさりげなく気を使ってくれるのが嬉しかった。
彼は他の貴族とは違う、そう信じたかった。
だが三ヶ月前、彼は私を街に置き去りにしたきり連絡を絶ってしまった。
(何だ、結局他の貴族と変わらないじゃない)
もう忘れよう。
こっちは通りすがりに助けただけ、あっちは平民の小娘をちょっとからかっただけ__きっとその程度の認識なのだ。
だが、目の前の忠犬もとい自称家臣が違うと言う。
「あの方は、そのような真似をする方ではありません!!」
急に変わった言葉使いに本人も気付いていないようだ。
走り書きのような内容の手紙だが、使われている紙は上質で高価なもの。
知らない紋ではあるが封蝋はされていた。
「……わかった」
面倒だがあとは、自分で確かめるしかないだろう。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
元々来客の対応は特別な時以外は足腰の弱っているソレイユでなく、キャロラインが受けるのが普通だったが、名前を聞いて扉を開ける手が止まった。
「勝手を言ってすまない。フィルから手紙を預かってきたんだ。大事なことが書いてある、開けてもらえないだろうか?」
怒鳴って追い返してやろうかと思ったが、その声があまりに真剣だったので渋々扉を開け、手紙を受け取った。
読み終わるまでここで待つと言うので、仕方なくリオを立たせたまま(客人扱いする気はなかったので)手紙を開いた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
親愛なるキャルへ
あの日は俺から誘っておきながら急に先に帰ってごめん。
その後も連絡できなくてすまなかった。
家で、色々騒動があって身動きが取れなかったんだ。
でも、それももうすぐ決着がつく。君に会いたい。
できればこのままリオについてこちらに来て欲しい。
君が以前見逃した演し物をやる一座が街に来ているから、一緒に見よう。
その時、俺が怪我をしていた理由や暫く連絡できなかった理由も話すから来て欲しい。
待っている。
フィル
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「……誘拐犯の呼び出しみたいな手紙ね」
「すまない、手紙では書けない事も多くてな。一緒に来てくれればあいつの口から説明させる」
「行くと思う?」
申し訳ないが、良い人ぶった貴族の遊び相手にされたとしか思えなかったのだ、ここ三ヶ月ほど。
貴族という生き物はいとも簡単に人を切り捨てる。
最初からそうだろうと見当をつけてはいたが、フィルは違うと思っていた__思っていたかった。
それはきっと幻想なのだろうけど。
だが、
「頼む。アイツは今……闘ってる最中なんだ。君と連絡をとらなかったのはま…、いや、それも俺の口からは言えないが、奴は本気で君に会いたがってるんだ。何か言いたいことがあるなら会ってぶつけてやればいいだから__、」
「貴方に伝言でも構わないんじゃない?向こうだってそうしてるんだから」
「!っ、俺は幼馴染ではあるが同時にあいつの家臣でもある。だから__」
「ご主人様の命令しか聞かないってわけね、でも私は貴方のご主人様の家臣じゃないわ!もう帰って」
と扉を閉めようとしたが、リオ改め忠実な家臣が扉の隙間に体を押し込んで止めた。
「頼む!あいつに会ってやってくれ!」
「嫌だって言ってるでしょう?!帰って!!そしてもう二度と来ないで!!」
「君の為でもあるんだ!!」
「私の、ため?」
(どういうこと?)
フィルの開いた瞳を初めて見た時、その青さにドキッとした。
格好からして貴族だろうと気付いていたけれど、いくら貴族が嫌いでも見殺しにするわけにいかなかった。
怪我が治って出て行った後律儀にお礼に来て、その後街に連れ出してくれて色々な景色を見せてくれて、話を聞かせてくれて楽しかった。
彼は話し上手で、いつもさりげなく気を使ってくれるのが嬉しかった。
彼は他の貴族とは違う、そう信じたかった。
だが三ヶ月前、彼は私を街に置き去りにしたきり連絡を絶ってしまった。
(何だ、結局他の貴族と変わらないじゃない)
もう忘れよう。
こっちは通りすがりに助けただけ、あっちは平民の小娘をちょっとからかっただけ__きっとその程度の認識なのだ。
だが、目の前の忠犬もとい自称家臣が違うと言う。
「あの方は、そのような真似をする方ではありません!!」
急に変わった言葉使いに本人も気付いていないようだ。
走り書きのような内容の手紙だが、使われている紙は上質で高価なもの。
知らない紋ではあるが封蝋はされていた。
「……わかった」
面倒だがあとは、自分で確かめるしかないだろう。
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