没落貴族の姫君は愛の言葉を信じない レジュール・レジェンディア王国譚 起 

詩海猫

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「……どういうつもりだい」
「すまない、貴女の以前の仕事先を調べさせていただいた」
「そうかい、それで?」
全く動揺を示さないソレイユに一瞬呑まれたフェルディナンドだが、
「失礼なのは承知している。だが、貴女はどうしても__ただの森に住む薬師には見えなかった」
「だろうね。わからなかったらおしまいだよ」
「__っ、わかってて、助けてくださったのか……」
「馬鹿言うんじゃないよ、助けたのはあの子だよ。せいぜい感謝しな」
「わかっている。その、彼女は俺、いや私のことは……?」
「知るわけないだろう、ただ森で拾った瀕死の男の正体なんざ」
「そうか、よかった」

明らかにほっとしたフェルディナンドに、
「あんた、今ゴタゴタの最中だろう。あの子にこれ以上近づくんじゃないよ?まさか巻き込むつもりじゃないだろうね?」
「とんでもない!巻き込むなんてそんな、」
「そうかい、じゃ荷物をおろしたらすぐに帰っとくれ。そこの従僕のフリした魔法使いもね」
「!すまない、最低限の護衛は必要だったんだ」
「んなこたぁわかってる。礼は有り難く受け取ったよ。礼はもう充分だ、だか「また来ても良いだろうか」ら、はぁ?!」
「一度きりで命の礼に適うとは思っていない。キャルの事も_…」
「“キャル“、ねぇ」
「いや、これは彼女が最初にそう名乗ったからで!」
「そりゃそうだろうね。まああの子も同年代の友人を持っても良い頃だ、いずれにしろあの子が決める事さね」
「感謝する」
「節度は守っとくれ、戯けた真似したら承知しないよ」



以降、毎週のようにフェルディナンドは何かしらの手土産を携えて訪ねて来るようになった。
フェルディナンドは色んな国に行ったことがあるらしく、異国の話をよく聞かせてくれたのでキャロラインはフェルの訪れを楽しみにするようになっていった。
高価な物よりそんな話を強請り、瞳を輝かせるキャルにフェルディナンドはどんどん惹かれていったが、一方でこの森への道はどんどん険しくなっていった。

初めて森から出て行った時はまるで木々が避けるように道が開け、街にすぐ着いた。
最初にお礼の品を運んで行った時も思ったより森の奥深くだったと思いはしたものの迷うことなく着いた。
二度めに馬で行った時は前回の馬車より時間がかかった。
三度めにはとうとう道に迷った。
自然に任せた森なので当然立札や道案内があるわけではないが、自分は方向音痴ではないし、記憶力には自信がある。
だが、森の道は何故か毎回違いをみせ、その記憶が役に立たないのだった。

「どう思う?ヘリオス」
最初従者に扮して同行させたのをソレイユにあっさり見破られ、釘を刺されてからは「友人だ」とキャルには紹介し、今ではすっかり茶飲み仲間になっている幼馴染兼最側近に訊ねる。
「そりゃー貴方が歓迎されてないからでしょう、森の魔女どのに」
「やはりそうだろうな……回避する方法はないのか?」
「あの森の主が歓迎していない以上、無理でしょうね」
「お前の魔法では効かないのか?」
「私のテリトリー内に引き込めば別ですが、あの森は彼女のテリトリーですから」



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