没落貴族の姫君は愛の言葉を信じない レジュール・レジェンディア王国譚 起 

詩海猫

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プロローグ

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「もうすぐ雨になるからね、ほどほどにして戻るんだよ」
「わかってるっておばあちゃん。必要な分だけ取ってすぐ戻るから」
そう答えたキャロラインはいつも通り薬草の採取に森の奥に入っていた。

この森の奥は危険とされ、人は滅多に近づかないが幼い頃からこの森に住む自分とおばあちゃんにとっては庭も同然だ。

人が入ってこない故に、荒らされず森の恵みにありつけるうえ薬草の宝庫。
おばあちゃんと二人、たまに薬草を売るがてら買い物に行くぐらいしか森の外に出ることはなかったが、この穏やかな生活をキャロラインはとても気に入っていた。

今日も金色に森を光らせる太陽に感謝しながら森の奥へと入っていくと違和感を感じた。
「……?……」
(何か、いつもと違う)
その違和感の正体はすぐに知れた。
周辺の木の枝のあちこちが折れている。
自分の身長より少し高い部分、おそらく成人男性くらいの高さだろう木の枝が不自然に折れ曲がっている。
(侵入者?それとも道に迷った旅人?)
この森にはたまに稀少な薬草や違法な狩りをする侵入者や、道に迷った旅人などが入り込む。

道の整えられた街道は通行料を取られるからだ。
森を通り抜ける(それも迷わず抜けられたらの話だが)分には通行料は発生しない。

引きずるような足跡もよくよく見れば地面に残っている。
(まさか、怪我してる?)
キャロラインは急いで人が通ったらしい形跡を追う。
ただし足音は立てないよう、細心の注意を払いながら。
相手が密猟者だった場合、いきなり襲われることがあるからだ。

そうして行きついた先には、血まみれで倒れている青年の姿があった。
キャロラインがひゅっと息を呑むのと同時に、黒い雲が先程まで明るかった空を覆い出していた。












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