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レイド家の夜会 3(中盤)

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アルフォンスにエスコートされて入ったパーティー会場は更に凄かった。
王城ほどの広さは無いとはいえ、流石王家に連なる公爵家。
絢爛たる広間にはこれでもかと言わんばかりの装飾が施され、国の重鎮たる貴族が集まっていた。
本来ならこの中でも一番身分の低いアリスティアが最後に入るのは無礼にあたるが、ホスト側にエスコートされている場合は別である。
おまけに、
「……子息女の数が少ないわね」
ジュリアが呟いた。

そう、不思議とアリスティアやジュリアと同年代の令嬢令息の姿は少ない。
大規模なパーティーほど、子供を良い縁に繋げようと連れてくるのが常のはずだが、出席の顔ぶれは当主のみか当主夫妻が多く、その子供を伴ってはいないようだ。
そしてその面々は、アルフォンスにエスコートされたアリスティアの姿を認めると次々に挨拶にやってきた。

決してわっと寄って来るのでなく、あくまで前の人が引くタイミングで声をかけてくる。
「流石レイド家が認めた招待客ゲストってところかしら」
そういうジュリアの横には某伯爵家の青年がいる。
「当たり障りのない親戚に頼んだ」と言っていたから、バーネット家の分家筋にあたる青年なのだろう。
躾がゆき届いているらしく、形だけ完璧なエスコートをこなしつつ必要なこと以外一切話さず空気に徹している。

ひと通り歓談が済んだところで、
「レイド公爵、並びに公爵夫人のご入場です!」
という声と共に広間の大扉が開き、公爵夫妻が姿を現すと広間は拍手喝采に包まれる。
レイド家がいかに力を持つ家門か皆わかっているからだ。
拍手の中周囲に会釈を返しながら、レイド公爵夫妻はアリスティアを伴ったアルフォンスのいる場所に向かう。
「今日のお相手は一段と美しいわね、アルフォンス」
「ええ。お話していたアリスティア・メイデン嬢です」
「お初にお目にかかります。アリスティア・メイデンと申します。レイド公爵、並びに公爵夫人にご挨拶致します」
「まあ礼儀正しいこと。けれどそう畏まるのは今日この時が最初で最後よ?ね、あなた?」
「うむ。私が君の後見人となり、レイド家は如何なる時も君の力になると誓おう」

公爵のこの言葉に、どよ、と決して大きくはないが広間が騒めいた。
「あのレイド家が、本当に……?!」
「いち令嬢の後見を名乗り出るなんて!!」
「いや、あの令嬢は確か__……」
「例のお話はやはり……」
等々の声があがるもののどれも純粋な驚きで、嫌味を言っているわけではないからアルフォンスも涼しい顔で流している。

当のアリスティアはレイド公爵夫妻があまりにあっさりしかもはっきりと宣言した事に驚く。
いかに王妃の申し出であっても、渋々といった感じが全くない。
「ねえ私娘が欲しかったのよ。貴女みたいなレディなら大歓迎だわ」
「ああ。養女にという話は断られてしまったが、何かあればいつでも頼ってくれ」
公爵夫人はアルフォンスと同じ黒髪で小柄の女性、公爵は薄い金の髪をした壮年の美丈夫だ。
夫妻を見るにアルフォンスは色は夫人から、骨格その他は公爵から受け継いだらしい。
(見事なまでの良いとこ取り……)
とアリスティアは感心する中、
「まああなた!“何かあれば“なんて、それでは次いつ会えるかわからないではありませんか!何かあった時だけでは、ろくに話も出来ないわ!用がない時はいつでも遊びにいらっしゃい!第二の実家だと思って良いのよ!」
「え……ぇと?」
それは流石に難易度高いのでは、とちら、と隣にいるアルフォンスに目をやる。

「あぁ母が娘を欲しがっていたのは本当なんだ。今回の話もとても喜んでいてね。君さえ嫌でなければ時々遊びに来てやってくれ」
「あ はい」
そう言われてしまえば、こう答えるしかない。
そもそもリライト(以下略)が発動出来ると王家に知られてしまった自分が何の制約も受けずに済んだのはアルフォンスの、ひいてはレイド家のお陰でもあるからだ(檻に囲ったところで壊して出てくるだろうが)。

だが、次の夫人の言葉にアリスティアは固まった。
「まあ嬉しいわ!じゃあ貴女の部屋を用意しなくてはね!うちは男の子しかいなかったから色々揃えなくっちゃ!」
__え?
となったのはジュリアも一緒だ。
(後見人って部屋も用意するんだっけ?)と現実逃避気味な思考に入ったアリスティアと違い、
「いえ、夫人!お気持ちは大変有り難いと私の親友も言っていますが私達は__、」
咄嗟にこう発したのはジュリアだった。
レイド家には話が通っているはずなので通じるだろう。
「まあ そうだけれど。遊びに来た時には必要でしょう?」
来たとしても頻繁には来ないから必要ないと思うのだが。
「メイデン嬢が困っていますよ母上。いきなり娘扱いされても困るでしょう。まず“おばさま“と呼んでもらうところから始めてみては?」

「「え?」」
綺麗にユニゾった私とジュリアに構わず、
「そうね!私としたことが焦り過ぎたわ!メイデン嬢、いえこれからアリスと呼ぶ事にするわね。私のことは公爵夫人でなく、“おばさま“と呼んで頂戴!まず仲の良い叔母と姪のような関係から始めましょう!」
(えぇー……)
(これは本気ね……いずれ息子の嫁にするつもりかしら。いえ実の息子元生徒会長を完全無視スルーしてるからそれはないか__単に可愛い娘が欲しいだけ?そりゃ類を見ない可愛さだけど……圧は感じるけど悪意は感じない)
パニクるアリスティアの横でジュリアは冷静に(にしては一部トチ狂った呟きも混ざっているが)レイド夫人を観察する。

(自分とアルフォンスが親しく行き来する幼馴染ならばともかく、いきなりこう来られても)
と思うアリスティアをよそに、
(だとすれば悪い話ではないわね。レイド家ならいざという時の避難所として申し分ないし)
ジュリアは黙って見守る事にした。




*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

遅くなってすみません!まさか一ヶ月以上開いてしまうとは……!( ̄▽ ̄;)










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