54 / 63
レイド家の夜会 3(中盤)
しおりを挟むアルフォンスにエスコートされて入ったパーティー会場は更に凄かった。
王城ほどの広さは無いとはいえ、流石王家に連なる公爵家。
絢爛たる広間にはこれでもかと言わんばかりの装飾が施され、国の重鎮たる貴族が集まっていた。
本来ならこの中でも一番身分の低いアリスティアが最後に入るのは無礼にあたるが、ホスト側にエスコートされている場合は別である。
おまけに、
「……子息女の数が少ないわね」
ジュリアが呟いた。
そう、不思議とアリスティアやジュリアと同年代の令嬢令息の姿は少ない。
大規模なパーティーほど、子供を良い縁に繋げようと連れてくるのが常のはずだが、出席の顔ぶれは当主のみか当主夫妻が多く、その子供を伴ってはいないようだ。
そしてその面々は、アルフォンスにエスコートされたアリスティアの姿を認めると次々に挨拶にやってきた。
決してわっと寄って来るのでなく、あくまで前の人が引くタイミングで声をかけてくる。
「流石レイド家が認めた招待客ってところかしら」
そういうジュリアの横には某伯爵家の青年がいる。
「当たり障りのない親戚に頼んだ」と言っていたから、バーネット家の分家筋にあたる青年なのだろう。
躾がゆき届いているらしく、形だけ完璧なエスコートをこなしつつ必要なこと以外一切話さず空気に徹している。
ひと通り歓談が済んだところで、
「レイド公爵、並びに公爵夫人のご入場です!」
という声と共に広間の大扉が開き、公爵夫妻が姿を現すと広間は拍手喝采に包まれる。
レイド家がいかに力を持つ家門か皆わかっているからだ。
拍手の中周囲に会釈を返しながら、レイド公爵夫妻はアリスティアを伴ったアルフォンスのいる場所に向かう。
「今日のお相手は一段と美しいわね、アルフォンス」
「ええ。お話していたアリスティア・メイデン嬢です」
「お初にお目にかかります。アリスティア・メイデンと申します。レイド公爵、並びに公爵夫人にご挨拶致します」
「まあ礼儀正しいこと。けれどそう畏まるのは今日この時が最初で最後よ?ね、あなた?」
「うむ。私が君の後見人となり、レイド家は如何なる時も君の力になると誓おう」
公爵のこの言葉に、どよ、と決して大きくはないが広間が騒めいた。
「あのレイド家が、本当に……?!」
「いち令嬢の後見を名乗り出るなんて!!」
「いや、あの令嬢は確か__……」
「例のお話はやはり……」
等々の声があがるもののどれも純粋な驚きで、嫌味を言っているわけではないからアルフォンスも涼しい顔で流している。
当のアリスティアはレイド公爵夫妻があまりにあっさりしかもはっきりと宣言した事に驚く。
いかに王妃の申し出であっても、渋々といった感じが全くない。
「ねえ私娘が欲しかったのよ。貴女みたいなレディなら大歓迎だわ」
「ああ。養女にという話は断られてしまったが、何かあればいつでも頼ってくれ」
公爵夫人はアルフォンスと同じ黒髪で小柄の女性、公爵は薄い金の髪をした壮年の美丈夫だ。
夫妻を見るにアルフォンスは色は夫人から、骨格その他は公爵から受け継いだらしい。
(見事なまでの良いとこ取り……)
とアリスティアは感心する中、
「まああなた!“何かあれば“なんて、それでは次いつ会えるかわからないではありませんか!何かあった時だけでは、ろくに話も出来ないわ!用がない時はいつでも遊びにいらっしゃい!第二の実家だと思って良いのよ!」
「え……ぇと?」
それは流石に難易度高いのでは、とちら、と隣にいるアルフォンスに目をやる。
「あぁ母が娘を欲しがっていたのは本当なんだ。今回の話もとても喜んでいてね。君さえ嫌でなければ時々遊びに来てやってくれ」
「あ はい」
そう言われてしまえば、こう答えるしかない。
そもそもリライト(以下略)が発動出来ると王家に知られてしまった自分が何の制約も受けずに済んだのはアルフォンスの、ひいてはレイド家のお陰でもあるからだ(檻に囲ったところで壊して出てくるだろうが)。
だが、次の夫人の言葉にアリスティアは固まった。
「まあ嬉しいわ!じゃあ貴女の部屋を用意しなくてはね!うちは男の子しかいなかったから色々揃えなくっちゃ!」
__え?
となったのはジュリアも一緒だ。
(後見人って部屋も用意するんだっけ?)と現実逃避気味な思考に入ったアリスティアと違い、
「いえ、夫人!お気持ちは大変有り難いと私の親友も言っていますが私達は__、」
咄嗟にこう発したのはジュリアだった。
レイド家には話が通っているはずなので通じるだろう。
「まあ そうだけれど。遊びに来た時には必要でしょう?」
来たとしても頻繁には来ないから必要ないと思うのだが。
「メイデン嬢が困っていますよ母上。いきなり娘扱いされても困るでしょう。まず“おばさま“と呼んでもらうところから始めてみては?」
「「え?」」
綺麗にユニゾった私とジュリアに構わず、
「そうね!私としたことが焦り過ぎたわ!メイデン嬢、いえこれからアリスと呼ぶ事にするわね。私のことは公爵夫人でなく、“おばさま“と呼んで頂戴!まず仲の良い叔母と姪のような関係から始めましょう!」
(えぇー……)
(これは本気ね……いずれ息子の嫁にするつもりかしら。いえ実の息子を完全無視してるからそれはないか__単に可愛い娘が欲しいだけ?そりゃ類を見ない可愛さだけど……圧は感じるけど悪意は感じない)
パニクるアリスティアの横でジュリアは冷静に(にしては一部トチ狂った呟きも混ざっているが)レイド夫人を観察する。
(自分とアルフォンスが親しく行き来する幼馴染ならばともかく、いきなりこう来られても)
と思うアリスティアをよそに、
(だとすれば悪い話ではないわね。レイド家ならいざという時の避難所として申し分ないし)
ジュリアは黙って見守る事にした。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
遅くなってすみません!まさか一ヶ月以上開いてしまうとは……!( ̄▽ ̄;)
391
お気に入りに追加
1,531
あなたにおすすめの小説
記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承
詩海猫
恋愛
王立魔法学園の入学式を終え、春の花が舞う敷地に一歩入った途端、
「あれ……?」
目にした景色に妙な既視感を感じ目を擦ったところでぱきん、と頭の中で何かが弾け、私はその場に倒れた。
記憶が戻った伯爵令嬢セイラはヒロインのライバル認定を回避すべく、まずは殿下の婚約者候補辞退を申し出るが「なら、既成事実が先か正式な婚約が先か選べ」と迫られ押し倒されてしまうーーから始まる「乙女ゲームへの参加は避けたいけど、せっかく憧れの魔法学園に入学したんだから学園生活だって楽しみたい」悪役令嬢の物語、2022/11/3完結。
*こちらの延長線上の未来世界話にあたる「ヒロインはゲームの開始を回避したい」が一迅社より書籍化済み(続編カクヨムにて連載中)です。キオ恋の方が先に発表されてるので派生作品にはあたりません*
♛本編完結に伴い、表紙をセイラからアリスティアにヒロイン、バトンタッチの図に変更致しました。
アリスティアのキャラ・ラフはムーンライトノベルスの詩海猫活動報告のページで見られますので、良かったら見てみてください。
*アルファポリスオンリーの別作品「心の鍵は開かない」第一章完結/第二章準備中、同シリーズ「心の鍵は壊せない(R18)」完結・こちら同様、よろしくお願いします*
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる