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救出
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「猫の声……?何故学園の室内から?もう今日はどこの教室も閉じられて_…」
「メイデン嬢が可愛がってた魔力持ちの猫がいただろう?寮監の話ではかなり魔力が強いらしい、何か知らせようとしてるのかもしれない」
言いながら声の方へ歩みを進めるアルフォンスの後を追いながら、
「お前たちは反対側からまわれ!」
とアルフレッドが出した指示に、
「「はっ!!」」
と応えたギルバートとアレックスは即座に行動に移した。
アルフレッドとアルフォンスは程なくして鳴き声が発される場所に到着した。
「これは……!」
「魔法空間だな。しかも随分念入りに作り込まれてる」
コン、とアルフォンスが叩いた場所には何もない。
一見、ただの教室だ。
だが、見えているのに進むことができない。
見えない魔法空間に遮られているのだ。
猫の声はここから聞こえてくる。
何もない空間に見えない壁があり、その向こうから聞こえてくるのだ。
「アルフレッド、壊せそうか?」
「やってみる」
言うと同時にアルフレッドが魔法を放つ。
強力な魔法攻撃は効いたかに見えたが、魔法を受けてぐにゃりと歪んだ空間はすぐに元に戻った。
「なっ……?!」
「これは_…!跳ね返すでなく吸収したのか……?だとしたら厄介だな。クッションのように吸収するだけか、それとも取り込んでいるのか__」
「取り込む?この結界がそんな力まで備えていると?」
「仮定だ。これだけの魔法空間を維持できる魔法使いは多くない。だが今この向こうに術者が控えているのならばともかく、そんな気配なはい。だがただの結界魔法にそんな生きた人間のように学習機能を持たせるのは無理だ。ならばこの場で一番手っ取り早い方法は_……、」
「「ぶち壊す」」
一拍おいて、二人の声が重なった。
オルフェレウスに薬で眠らされていたノエルが目覚め、空間の狭間にカリカリと爪を立てて声をあげていたのでアルフレッド達は辿り着く事が出来、完全に壊す(そんな事をしては中に連れ込まれているはずのアリスティアの身も危険なので)ことは無理でも、人ひとりが通り抜けられる分だけこじ開ければ良かったのでそう時間はかからなかった。
奴が“マイワールド“と呼ぶこの空間は、普通に魔力を辿るだけでは見付けようがない魔法空間だ。
何故ならそれは、昨日今日でなくもっとずっと前から形成されていた空間であったからだ。
この広大な学園内には元々結界が多い。
そして、生徒も教師も〝元々張ってある魔法〟はそういうものなのだと思い込み、あっても気にしないし踏み込もうともしない。
その特性を、この男は利用したのだ。
『ここには何か張ってあるが何か理由があるのだろう』と誰も気にしなかった。
しかもその境目は準備室の奥に据え置かれたデスクと壁の間__気にする人など皆無だった。
オルフェレウスも誰にも気付かれない絶対の自信があったのだろう、背後にも全く気を配っていなかった。
目の前の少女の肌にひたすら夢中だったのだ。
いきなり喉元に突き付けられた刃に、いつもの余裕をかなぐり捨てた男の態度は予想通りなものだった。
「馬鹿なっ、!あの入り口を見つけただとっ、貴様がっ?!」
「魔法大国の王子を舐めんなよ?」
オルフェレウスが後ずさった分、剣の切っ尖も自分の首筋を追ってくる。
本当のところ、結構苦心した__というか、アルフォンスと一緒でなければ無理だった。
そのアルフォンスは万が一コイツがまだ隠し札を持っていた場合を考えて姿を隠している。
だが、そんなこと__おくびにも出すものか。
「ばーか。魔法大国の王子たるものコレくらい看破出来なくて務まるかよ?」
余裕たっぷりにアルフレッドは嘯く。
だが、オルフェレウスも立ち直りは早かった。
「生憎私は芸術を堪能するのを邪魔されるのが大嫌いでね」
「婦女暴行を芸術呼ばわりすんな、芸術に失礼だろうが」
言うが早いか斬りこもうとしたアルフレッドの目の前でオルフェレウスの手に剣が現れる。
「っ、チッ!」
ここは奴の形成する空間の中だ。それくらい出来てもおかしくない。
アルフレッドが舌打ちすると同時に、オルフェレウスは手にした剣をふりかざしてきた。
オルフェレウスの剣筋は意外にも正確で早かった。
アルフレッドももちろん負けてはいないが、奴は手の剣を弾いてもすぐ別の剣が手に現れる。厄介だ。
「ふふ…私の邪魔をした罪は重いですよ?アルフレッド殿下」
「てめーこそ、王城の足元でふざけた真似してくれやがって!その余裕ぶったツラ、二度と出来ねぇようにしてやる!」
「若いですねぇ、王子といえど所詮子供だ」
整った造作は少しも崩れてはいないのに、にやりと歪められた口元はその整った造作では補えないほど醜悪だった。
「こんなテで睡姦かますのが大人だとでもいう気かっ、このコンプレックス野郎!」
「__何だと?」
ピクリ、とその額に筋がはしる。
「てめぇは王族の落とし胤で、母親譲りの美貌を父親はじめ周囲に絶賛されはしても王位継承権は認められなかった。産みの母親の身分が低かったからだ。なぁ、納得出来なかったろ?ガキの頃からモテてモテてモテまくって、年増から幼女まで自分に媚びて擦り寄って来るのが当たり前で、何でも卒なくこなしてしかも兄弟の誰よりも美しいのにお飾りの公位だけは与えられたが王位継承権は認められず、寄って来るのは自分より劣る者ばかり。おまけに王家とは縁もゆかりもない侯爵家の娘と縁組させられそうになった。自分はもっと高みにいるはずなのに、本当なら王子として大国の姫さえ娶れる立場なのに。何故、自分は選べない、選ばれない?そう思ってたんだろ?__教えてやろうか、その理由を」
「黙れぇっ!」
「てめぇは自惚れが強くて自分の容姿に絶対の自信を持ってて、自分の容姿に惹かれて来る奴らを心底軽蔑してるクセに称賛されなきゃ逆ギレして、穢して堕とさなきゃ気が済まない低俗思考の持ち主だからだよっ!」
「っ巫山戯るな!私はそんな低俗思考の持ち主ではない!」
「だったら何で薬で眠らせて犯そうなんて発想になんだよ自信があんなら普通に口説けばいーだけだろうがっ?」
「ふん。だからガキだと言うんだ。私は彼女達を無垢なまま〝保存〟してやろうとしただけだ」
「……保存だと……?」
「そうだ。彼女達は芸術品だ。男の感触など知らないままで良いのだ。何も知らないまま、私に愛され だが 愛された事すら気付かないままー…ぐぇっ?!」
高説が途中でヒキガエルの潰れたような声になったのは、アルフレッドの足が腹部にめり込んだからだ。
因みにこの会話の間も二人は早い太刀筋で斬り合っていた__器用な事に。
「単なる悪趣味をさも高尚な言葉にすり替えんな、反吐が出る!」
アルフレッドは腹にめり込ませた足にさらに力を加える。
「違うっ!私はー…ぐぇ!」
「黙れっつってんだろーが。大体、誤魔化しきれてねぇんだよ、てめーは」
「何だと?」
「いっっくらその整った紳士ヅラでごまかしてもなぁ、見てればわかるんだよ普段からその目の奥に薄汚い欲望がちらついてんのがなっ!」
アリスティアをずっと目で追っていたから気付いた。
そのアリスティアに向けられる恋情というよりは陰惨な欲望に塗れた視線を、その悍ましさを。
「なっー…何故だっ?私は彼女達を愛しただけだー…っ」
「だったら正面突破を目指すべきだったな。彼女は、俺たちが見てきたアリスティア・メイデンはっ!そういうのが一番嫌いなんだよ!てめぇずっと見てた癖にわからなかったのよ?!」
普通に正面きって口説いていたなら、違う結末になっていたかもしれない。
ミリディアナに聞いた話では、二人の運命的な出会いは確かに果たされていたのだから。
はなから失敗してまともに出会えなかった自分たちと違って_…、だが今はどうでも良い。
ひたすら、目の前の男に腹が立った。アリスティアに確かに存在を受け入れらていた男の醜悪さに。
アルフレッドの足がぐりぐりとめり込むので、オルフェレウスは悶絶したまま応じる言葉を吐けずにいる。
「~~っ!」
それでも絶え絶えに口内でぶつぶつと呪いの言葉を吐いてはいたがアルフレッドは無視した。
そこへ、
「殿下、騎士団到着しました」
「魔法師団、結界の除去を完了しました」
ギルバートとアレックスの登場と報告にアルフレッドの足下で足掻いていたオルフェレウスの動きが止まる。
見れば、アルフォンスは既に姿を現し、アリスティアに自分の上着を掛けていた。
「まるで下級悪魔の遊戯だな、下司め」
と険しい目で睨みつけながら。
「なっ……?!」
「お前みたいな用意周到な毒蜘蛛の巣にひとりで来るわけないだろ?拘束しろ」
そう言ってアルフレッドはアリスティアの方へ足を向ける。
つられてそちらに目をやった二人も言葉を失った。
「成る程、風景画、ね……これに彼女を足すと完成なわけだ」
感情を押し殺した声で言い、アルフレッドも自身のマントでさらにアリスティアの身体を覆う。
アルフォンスの上着だけでは心もとなかったからだ。
胸元をはだけさせられたアリスティアが座らせられていたのは巨大なカンバスの前だった。
広大な森の中光が差し込み、足下には可憐な野草が咲き乱れ、差し込む光は中心にいる少女に祝福を注いでいるかのようだった。だが、その少女だけは生身であり、その風景に溶け込むように計算されつくしたポーズで座らせられていた。
絵自体は素晴らしい出来なのに、生身の少女を絵の一部にするというおぞましい演出に、見ていた側は怖気が走った。
アルフォンスとアルフレッドが周囲の目からアリスティアの姿を隠しながら連れ出すと、ギルバートとアレックスもおぞましい者を見る視線で、オルフェレウスを呼び出した兵と共に引っ立てていった。
「メイデン嬢が可愛がってた魔力持ちの猫がいただろう?寮監の話ではかなり魔力が強いらしい、何か知らせようとしてるのかもしれない」
言いながら声の方へ歩みを進めるアルフォンスの後を追いながら、
「お前たちは反対側からまわれ!」
とアルフレッドが出した指示に、
「「はっ!!」」
と応えたギルバートとアレックスは即座に行動に移した。
アルフレッドとアルフォンスは程なくして鳴き声が発される場所に到着した。
「これは……!」
「魔法空間だな。しかも随分念入りに作り込まれてる」
コン、とアルフォンスが叩いた場所には何もない。
一見、ただの教室だ。
だが、見えているのに進むことができない。
見えない魔法空間に遮られているのだ。
猫の声はここから聞こえてくる。
何もない空間に見えない壁があり、その向こうから聞こえてくるのだ。
「アルフレッド、壊せそうか?」
「やってみる」
言うと同時にアルフレッドが魔法を放つ。
強力な魔法攻撃は効いたかに見えたが、魔法を受けてぐにゃりと歪んだ空間はすぐに元に戻った。
「なっ……?!」
「これは_…!跳ね返すでなく吸収したのか……?だとしたら厄介だな。クッションのように吸収するだけか、それとも取り込んでいるのか__」
「取り込む?この結界がそんな力まで備えていると?」
「仮定だ。これだけの魔法空間を維持できる魔法使いは多くない。だが今この向こうに術者が控えているのならばともかく、そんな気配なはい。だがただの結界魔法にそんな生きた人間のように学習機能を持たせるのは無理だ。ならばこの場で一番手っ取り早い方法は_……、」
「「ぶち壊す」」
一拍おいて、二人の声が重なった。
オルフェレウスに薬で眠らされていたノエルが目覚め、空間の狭間にカリカリと爪を立てて声をあげていたのでアルフレッド達は辿り着く事が出来、完全に壊す(そんな事をしては中に連れ込まれているはずのアリスティアの身も危険なので)ことは無理でも、人ひとりが通り抜けられる分だけこじ開ければ良かったのでそう時間はかからなかった。
奴が“マイワールド“と呼ぶこの空間は、普通に魔力を辿るだけでは見付けようがない魔法空間だ。
何故ならそれは、昨日今日でなくもっとずっと前から形成されていた空間であったからだ。
この広大な学園内には元々結界が多い。
そして、生徒も教師も〝元々張ってある魔法〟はそういうものなのだと思い込み、あっても気にしないし踏み込もうともしない。
その特性を、この男は利用したのだ。
『ここには何か張ってあるが何か理由があるのだろう』と誰も気にしなかった。
しかもその境目は準備室の奥に据え置かれたデスクと壁の間__気にする人など皆無だった。
オルフェレウスも誰にも気付かれない絶対の自信があったのだろう、背後にも全く気を配っていなかった。
目の前の少女の肌にひたすら夢中だったのだ。
いきなり喉元に突き付けられた刃に、いつもの余裕をかなぐり捨てた男の態度は予想通りなものだった。
「馬鹿なっ、!あの入り口を見つけただとっ、貴様がっ?!」
「魔法大国の王子を舐めんなよ?」
オルフェレウスが後ずさった分、剣の切っ尖も自分の首筋を追ってくる。
本当のところ、結構苦心した__というか、アルフォンスと一緒でなければ無理だった。
そのアルフォンスは万が一コイツがまだ隠し札を持っていた場合を考えて姿を隠している。
だが、そんなこと__おくびにも出すものか。
「ばーか。魔法大国の王子たるものコレくらい看破出来なくて務まるかよ?」
余裕たっぷりにアルフレッドは嘯く。
だが、オルフェレウスも立ち直りは早かった。
「生憎私は芸術を堪能するのを邪魔されるのが大嫌いでね」
「婦女暴行を芸術呼ばわりすんな、芸術に失礼だろうが」
言うが早いか斬りこもうとしたアルフレッドの目の前でオルフェレウスの手に剣が現れる。
「っ、チッ!」
ここは奴の形成する空間の中だ。それくらい出来てもおかしくない。
アルフレッドが舌打ちすると同時に、オルフェレウスは手にした剣をふりかざしてきた。
オルフェレウスの剣筋は意外にも正確で早かった。
アルフレッドももちろん負けてはいないが、奴は手の剣を弾いてもすぐ別の剣が手に現れる。厄介だ。
「ふふ…私の邪魔をした罪は重いですよ?アルフレッド殿下」
「てめーこそ、王城の足元でふざけた真似してくれやがって!その余裕ぶったツラ、二度と出来ねぇようにしてやる!」
「若いですねぇ、王子といえど所詮子供だ」
整った造作は少しも崩れてはいないのに、にやりと歪められた口元はその整った造作では補えないほど醜悪だった。
「こんなテで睡姦かますのが大人だとでもいう気かっ、このコンプレックス野郎!」
「__何だと?」
ピクリ、とその額に筋がはしる。
「てめぇは王族の落とし胤で、母親譲りの美貌を父親はじめ周囲に絶賛されはしても王位継承権は認められなかった。産みの母親の身分が低かったからだ。なぁ、納得出来なかったろ?ガキの頃からモテてモテてモテまくって、年増から幼女まで自分に媚びて擦り寄って来るのが当たり前で、何でも卒なくこなしてしかも兄弟の誰よりも美しいのにお飾りの公位だけは与えられたが王位継承権は認められず、寄って来るのは自分より劣る者ばかり。おまけに王家とは縁もゆかりもない侯爵家の娘と縁組させられそうになった。自分はもっと高みにいるはずなのに、本当なら王子として大国の姫さえ娶れる立場なのに。何故、自分は選べない、選ばれない?そう思ってたんだろ?__教えてやろうか、その理由を」
「黙れぇっ!」
「てめぇは自惚れが強くて自分の容姿に絶対の自信を持ってて、自分の容姿に惹かれて来る奴らを心底軽蔑してるクセに称賛されなきゃ逆ギレして、穢して堕とさなきゃ気が済まない低俗思考の持ち主だからだよっ!」
「っ巫山戯るな!私はそんな低俗思考の持ち主ではない!」
「だったら何で薬で眠らせて犯そうなんて発想になんだよ自信があんなら普通に口説けばいーだけだろうがっ?」
「ふん。だからガキだと言うんだ。私は彼女達を無垢なまま〝保存〟してやろうとしただけだ」
「……保存だと……?」
「そうだ。彼女達は芸術品だ。男の感触など知らないままで良いのだ。何も知らないまま、私に愛され だが 愛された事すら気付かないままー…ぐぇっ?!」
高説が途中でヒキガエルの潰れたような声になったのは、アルフレッドの足が腹部にめり込んだからだ。
因みにこの会話の間も二人は早い太刀筋で斬り合っていた__器用な事に。
「単なる悪趣味をさも高尚な言葉にすり替えんな、反吐が出る!」
アルフレッドは腹にめり込ませた足にさらに力を加える。
「違うっ!私はー…ぐぇ!」
「黙れっつってんだろーが。大体、誤魔化しきれてねぇんだよ、てめーは」
「何だと?」
「いっっくらその整った紳士ヅラでごまかしてもなぁ、見てればわかるんだよ普段からその目の奥に薄汚い欲望がちらついてんのがなっ!」
アリスティアをずっと目で追っていたから気付いた。
そのアリスティアに向けられる恋情というよりは陰惨な欲望に塗れた視線を、その悍ましさを。
「なっー…何故だっ?私は彼女達を愛しただけだー…っ」
「だったら正面突破を目指すべきだったな。彼女は、俺たちが見てきたアリスティア・メイデンはっ!そういうのが一番嫌いなんだよ!てめぇずっと見てた癖にわからなかったのよ?!」
普通に正面きって口説いていたなら、違う結末になっていたかもしれない。
ミリディアナに聞いた話では、二人の運命的な出会いは確かに果たされていたのだから。
はなから失敗してまともに出会えなかった自分たちと違って_…、だが今はどうでも良い。
ひたすら、目の前の男に腹が立った。アリスティアに確かに存在を受け入れらていた男の醜悪さに。
アルフレッドの足がぐりぐりとめり込むので、オルフェレウスは悶絶したまま応じる言葉を吐けずにいる。
「~~っ!」
それでも絶え絶えに口内でぶつぶつと呪いの言葉を吐いてはいたがアルフレッドは無視した。
そこへ、
「殿下、騎士団到着しました」
「魔法師団、結界の除去を完了しました」
ギルバートとアレックスの登場と報告にアルフレッドの足下で足掻いていたオルフェレウスの動きが止まる。
見れば、アルフォンスは既に姿を現し、アリスティアに自分の上着を掛けていた。
「まるで下級悪魔の遊戯だな、下司め」
と険しい目で睨みつけながら。
「なっ……?!」
「お前みたいな用意周到な毒蜘蛛の巣にひとりで来るわけないだろ?拘束しろ」
そう言ってアルフレッドはアリスティアの方へ足を向ける。
つられてそちらに目をやった二人も言葉を失った。
「成る程、風景画、ね……これに彼女を足すと完成なわけだ」
感情を押し殺した声で言い、アルフレッドも自身のマントでさらにアリスティアの身体を覆う。
アルフォンスの上着だけでは心もとなかったからだ。
胸元をはだけさせられたアリスティアが座らせられていたのは巨大なカンバスの前だった。
広大な森の中光が差し込み、足下には可憐な野草が咲き乱れ、差し込む光は中心にいる少女に祝福を注いでいるかのようだった。だが、その少女だけは生身であり、その風景に溶け込むように計算されつくしたポーズで座らせられていた。
絵自体は素晴らしい出来なのに、生身の少女を絵の一部にするというおぞましい演出に、見ていた側は怖気が走った。
アルフォンスとアルフレッドが周囲の目からアリスティアの姿を隠しながら連れ出すと、ギルバートとアレックスもおぞましい者を見る視線で、オルフェレウスを呼び出した兵と共に引っ立てていった。
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