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ヒロイン、眠らされる
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1位(ぶっちぎり) メイデン男爵領での夏期休暇
2位(早い!) 招待状は要りません、私は裏方でお願いします。
3位 続・ヒロイン、考える
4位以降は横並びの数字なのですが、この3話が頭ひとつ分抜けている状態。考えられる理由としては……ジュリアの出番が多い🤔?
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
終業式、私とジュリアは裏方なので当日始まるまでが忙しかった分、逆に始まってしまえば暇になる。
「ふー…終わったわね」
ジュリアが伸びをしながら言い、
「パーティー自体は始まったばかりだけれどね」
私が苦笑しながら返す。
彼等はみな表方なので今日は、というか私達の出番はもう終わりだ。
現に今日はもう帰省して構わないと言われている。
実際役員やその他諸々の手伝いや補講がある一部を除いて殆どの2年生は帰省済みであり、寮はがらんとしている。
私は寮に戻って猫をモフってから帰省しようと思っている。
ジュリアとは夏期休暇中に会うので取り立てて挨拶するでもなくじゃあまたね、と言って別れた。
別れて寮へ向かい始めてすぐ黒猫を抱えたヴィオラ先生に出会した。
「え ヴィオラ先生、その猫もしかしてー…」
「そう。君の寮の寮監のペットですよ。ミセス・ナタリーが探すのを手伝っていたんです」
苦笑しながら黒猫を抱き抱える美男子イケメン、絵になるなぁ。
この人なら絶対描くより描かれるの方が向いてる気がする。
そんな事を思いながら、
「私、ちょうど寮に戻ってノエルに会ってから帰ろうと思っていたんです。よろしければ私がミセス・ナタリーのところに、」
「おや、眠ってしまったようだ」
被せるように言われて見ると、本当に先生の腕の中でノエルがうとうと と微睡んでいる。
(あれ?珍しいな)
飼い猫になっても警戒心はそれなりに強い猫なのに。
「良かったらこの猫が起きるまでお茶でも如何ですか、メイデン嬢」
「ですが、先生は本日のパーティーで演奏を披露される事になっていらしたのではー…」
「ええ。これから行くところなんですが緊張して喉が乾いてしまって……、私の出番は時間的にもまだ余裕がありますし。それまでこの猫ちゃんに付き合ってもらおうと思っていたんです」
「まあ…」
「少しでいいんです、付き合ってもらえませんか?」
「そう、ですか…_そういう事でしたら」
ノエルも連れ帰らなければならない事だし。
ヴィオラ先生はそのまま美術室へ向かい、カフェテリアに向かうのかと思っていた私は怪訝な顔になる。
それを見越したように、
「ちょうど今絵の仕上げをしていて、明日までは私の貸し切りにしてもらっているんです。皆今夜か明日には帰省してしまうでしょう?どなたかに感想を聞きたかったのです」
「まあ、私でよろしいのですか?」
私は別に美術とか得意科目じゃない。
それ以前に美術の担当教師だってこの学園にはいるのだしと思ったのが顔に出ていたのか、
「専門にしている方になんて益々聞けませんよ。私の専門はあくまで音楽、絵は趣味というか娯楽ですからね。下手の横好きというやつです」
「そう、なの ですか…」
「それで、美術室を出て1番先に会った誰かに感想を聞こうと思ったら猫を探しているミセス・ナタリーに遭遇して、その猫を探す手伝いをして漸く猫を見つけたところ君に遭遇したというわけです」
なるほど、そういう事情なら頷ける。
「そういう事でしたら」
私は頷き、先生の後に続いて美術室に入った。
だが、
「?」
美術室の中には何もなかった。
いや、正しくは元々美術室にあるべきものは正しく棚に納まっており、きちんと掃除されている状態だった。
今日が前期の終わりなのだから当然といえば当然なのだが、要するに使われた形跡がないという事だ。
先生は絵を描いていたと言わなかったか?
「大きいカンバスなので準備室を使わせてもらっています。こちらでは生徒の授業の邪魔になりますから」
ノエルを私に預け、お茶を淹れながら先生が言う。
「…ーあぁ…」
言われてみればそうだ。
生徒が普段授業で出入りする場所になど大きさの問題がなくても置いてはおかないだろう、ただの趣味ならば尚更。
「さ、どうぞ。座って下さい。ここのお茶も捨てたものではありませんよ?差し入れで色々頂くので」
湯気の立つカップをソーサーごと手にして立つ姿すら絵になる音楽講師は笑う。
(それはそうだろうな)
絶大な人気を誇るヴィオラ先生の事だ、差し入れも引きもきらないに違いない。
「ありがとうございます。すみません、お手伝いもせずに」
私は椅子に掛けてノエルを膝に乗せたままという状態なので、先生は目の前の机にそれを置いてくれた。
「私が誘ったのだから当然ですよ、くつろいで下さい。この紅茶はリラックス効果があるんです。良い香りがするでしょう?」
言われて紅茶に口を付けると、甘い薔薇の香りが広がる。
「__本当に。とても良い香りがしますね、ローズティーなのはわかるんですが…」
ここまで薔薇の香りが強いものは珍しい。
かと言って香りが強すぎて飲みづらいというわけでもなく、すぅ、と身体に暖かさが浸み込んでくるようだ。
リラックス効果があるというのは確からしい。
「あの、この紅茶はどちらの?」
「私の元いた国のものなんです。知り合いが送ってきてくれたものなんですよ。この国では珍しいでしょう?」
成る程。馴染みがないはずだ。
「その国というのは、どちらの?」
以前いた国の話は幾つか聞いたが茶話会皆勤賞というわけではないから、聞いた事のない国なのだろう。
「……私が生まれた国ですよ。あまり良い思い出はありませんがー…」
先生の言葉が、急に遠くなった。
(あ れ …?身体に力が入らない……)
カシャン、と持っていたカップが手から落ちる。
なのに、膝の上のノエルが目覚めない。
いけない、ノエルが落ちないようにしないと__、
手を延ばそうとするのに、動かない。
それに、ノエルは飼い猫になったとはいえ元々警戒心の強い猫だ。
知らない人の腕の中でなんか眠らないし、寝ていても近くで大きな音がすれば飛び起きる。
(ノエル、なんで起きないの…?)
「ノ…_…、」
そう発しようとした言葉は声にならず。
私が机に突っ伏すと何故かはっきりとしたヴィオラ先生の声が耳に響く。
いつもとは全く違う、声と口調。
「ふふ…アルフレッドや元生徒会長がやたら絡んでくるので心配していたのですが、良かった。貴女が私の誘いを受けてくれて」
そう、先生が言ったのが耳に入ってはきたけれど。
身体が、瞼が、とても重くて、重すぎてー…私の視界はゆらゆらと点滅するばかりで。
「どういう意味ですか」と訊く事が出来なくて。
私の身体は言う事をきかず、瞼が閉じた。
薄れてゆく意識の中、先生の腕の中で眠っていたノエルの寝顔に感じた違和感が何なのか、わからないまま私は深い眠りに落ちた。
ことん、とアリスティアが眠りに付くと、
「おやすみ黄金の姫君。__ようこそ 私の世界へ」
美形の音楽講師は呟いた。
完全に意識の落ちたアリスティアを用意していた場所に運び、邪魔が入らぬよう幾重にも魔術結界を施して。
オルフェレウスは〝自分が彼女の為に用意した場所〟にアリスティアが納まっているのを見て何とも蠱惑的な笑みを浮かべた。
「ああ__やはり素晴らしい。貴女は最高の芸術品ですよ。アリスティア・メイデン」
そう呟いて、目の前の少女に手を延ばした。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
次話、書き替え部分が多い為間が空いてしまったら申し訳ありませんm(_ _)m
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