ヒロインはゲームの開始を回避したい(第一章 完結)レジュール・レジェンディア王国譚 転

詩海猫

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ヒロインと美貌の音楽講師

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「アリスティア様!今日の放課後ヴィオラ先生と私達で音楽談義のお茶会がありますの!是非いらして下さいませ!」
ある日、唐突に友人の1人が朝1番に言ってきた。

友人といってもジュリア以外とはさほど親しくない私には、ほんとに僅かな付き合い(一緒に教室移動とかたまーにグループでランチとか放課後にお茶とか…まあそんなくらいだ)ではあるのだが。
ジュリアは〝アリスわたしの信奉者シンパ“と呼んでいるが私はそんなものを作った覚えはない。

「えぇと…、それ どういう集まりですの?」
初めて聞く話なので戸惑いがちに訊ねると、
「あ 難しく考えないで下さいませね?ただ色々な国を廻っておられるヴィオラ先生を中心に音楽についてお茶でも飲みながら語りあいましょう、ってだけの会ですの。男女問わず参加は自由で、お茶や菓子は各自持ち寄りの簡単な集まりです。その…、授業だけでは聞けないお話とか色々ありますでしょう?ヴィオラ先生の都合の良い時に何度かやっているのですけど、そのー…」
もじもじしだした女生徒に、
「その、何なの?」
もじもした様子に苛々してきたのだろう、ジュリアがやや強い口調で先を促す。
「あ、アリスティア様とジュリア様は生徒会入りしてしまってからめっきりご一緒に過ごせる事がなくなってしまったので!たまには私達の集まりにも参加して下さらないかと!」
顔を赤くして怒鳴るように言ってる言葉に私とジュリアは顔を見合わせた。

嗚呼、そういう事か。

確かに、生徒会に入った分彼女達との時間は減った。
それ以外もジュリアと2人で作戦(避ける方法とか会わずに済む方法とか早く辞める方法とか?)を練ってることが多いので、基本2人で人目を避ける事が多くなった。
生徒会では油断出来ないし、いつもどこか緊迫した感じになりがちではあった。

__たまに息抜きは良いかもしれない。

何よりヴィオラ先生は生徒会と関係がないし教師だ。
この学園は教師の選定も厳しいから(名門子弟多いし)問題のある人物なわけはないし、近付いても1番問題ない人物に思える__今の時点では。
言動がやたら気障だけれど嫌味には感じないし、女子だけにえこ贔屓するわけでもなく、授業内容も的確で面白い。行ってみるのも良いかもしれない。

ジュリアに目線で良いかと尋ねると頷かれたので、
「なら、お邪魔してみましょうか」



「メイデン嬢!バーネット嬢も。良くいらして下さいました」
相変わらず全く隙のない立ち居振る舞いで迎えてくれたヴィオラ先生や友人達との語らいは存外楽しいものだった。
ヴィオラ先生は授業より朗らかな様子で以前居た国の事などを面白おかしく語り、それについて生徒が質問したり、この場合、自分だったらどうするか?他の人はそれをどう思うか と下手したら議論になりそうな内容をあくまでゆったりとしたお茶会のペースを崩さずに語り合う。
「これは授業ではなく息抜きだからね」
というヴィオラ先生の発言のせいもあるのだろう、皆リラックスして話に花を咲かせている。

(悪くないわねこういうのも……)
お茶を手にしたまま思う。
そもそも、生徒会というのは強制ボランティアに近い。
他の人はどう考えるか知らないが、私にとってはそうだ。
生徒会役員には専用執務室だけでなく専用休憩室もあるのだが〝役員に限り出入り自由〟であるその部屋は私には休憩場所にはならない。

ヴィオラ先生は何か話したそうな生徒にはそれとなく話を振り、話したくなさそうな生徒からはさりげなく話題を逸らす。
見事な仕切りっぷりだ。
そうした場にいながら特に何も求められず(意見とか仕切りとか雑務とか)お茶を飲んでいられるのは楽だった。
それに、ヴィオラ先生の体験談は聞いていて楽しい。声が良いからだろうか、聴いていて耳に心地よい。
それに、異国の話は聞いておきたい。ついつい話し手をじっと見つめて聞き入ってしまっていた。
大半の女生徒はそもそも最初から見惚れっぱなしなので問題はない。

「あの集まり、気に入ったみたいね」
顔に出ていたのだろう、終わって帰る途中のジュリアの問いに、
「まあそうね。気晴らしになったわ」

この娘アリスからしてみたら自分が注目されないから居心地良かったのかもしれないけど、男子生徒はこの娘を見てたし、女生徒にしても「あぁアリスティア様とヴィオラ先生、並ぶとほんとにお似合い…!」「尊い……」なんて密かに溜め息つく連中が混じってたのはー…言わない方がいいんだろうな。
正直あの皇女マセガキが鬱陶しかったし、アレックスやアルフレッドの誘いを避けるにちょうど良かったのもあって、以降私はヴィオラ先生の教室に良く行くようになった。








「良いか?この学園は生徒が平等に学ぶ場であって己の身分を誇示するところではない。それは皇族であっても同じ事だ」
「私は叔父に貴女の事を頼まれてはいるが無条件に甘やかすつもりはない。学園のいち生徒として学ぶ手伝いをするだけだ」
だから、今後あのような真似は絶対にしてはいけない。
あの一件の後、ギルバートが懇懇と子供に言い聞かせるように諭し、納得させた。

筈、

なのだが。

またしても勝手に生徒会の集まりタイムに勝手に乱入してきたマセガキが今日も1人ではしゃいでいる。
「この魔法学園へ留学するのは我が皇室の伝統ですから皆幼い頃にその質を確認し、魔法の才があるものはそれを伸ばす教育を受けますの。もっとも皇族といえど必ずしも魔力があるとは限らず、この学園で求められる魔力は高いので魔力があるからといって必ず留学出来るとも限りません。何しろ私の前はクレイグ候に嫁いだ皇女殿下が最後でここ数十年、私ほど魔力が高い皇族は出なかったと驚かれましたの。ですからー…」

変わってない。
多分、あの時いた中で今ここにいる全員がそう思った。

『そりゃあ、元々隣国は魔法使い自体少ないし』
『この皇女様、帝位継承権に於いても遠いわよね?』
と私とジュリアが目で会話してる横で、

「あの時は神妙に頷いていたが、頷いていただけ、か…」
と頭を抱え、
「ダメだ。何度言っても脳に染み込まない」
と嘆くギルバートだったが、そもそもアリスティアが行儀見習いにあがった際の自分達がそうだった自覚があまりないので、アリスティアの(生まれついての王侯貴族ってみんなこんなかー)というツッコみに気付くことはなかった。

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