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ヒロインと生徒会と元会長
しおりを挟む「全く……なんでああまでして生徒会に入れたいのかしら?」
とジュリアは憤りを隠せない。
会長なら、この娘の保護に丁度いいと思って近付くのを容認していたのに誤算だった。
「……せっかくのチャンスだったのに」
ぼそりと呟いた言葉はアリスティアには届かなかった。
アリスティアも頭の中も罵倒でいっぱいだったからだ。
何なのよ?
まさか会長は奴らの仲間なの?公平な人だと思ってたのに。
考えてみれば公爵家なのだから当然王室とは縁続き、ミリディアナには従兄にあたる人なのだ。
現役員達に何も言わず今回のことに至ったとは考えづらい__うっかり信用すべきではなかった。
これで2年になってすぐ転校、は難しいどころか絶望的だ。
いくら現在のアレックスが自分に好意的であっても、城でのあいつの言動は根強く記憶に残っている。
「学園、辞めたいなぁ…」
だって、彼等からしたら準備が整ったことになる。
悪役令嬢とヒロインの立ち位置を入れ替える準備が。
ここの生徒会には男子には女子が、女子には男子の補佐が付くという妙な伝統があるのだが、補佐に人数制限はないので役職付きでない補佐の方が当然多い。
元々は私とジュリアをアルフレッドとアレックスの補佐にするつもりだったらしいが、流石にそれはやりすぎだろうと却下されたらしい。
当人不在で何やってんだ。
まあ元々王族が役員になった場合、その婚約者を補佐に付けといた方が色々と面倒がないって理由から、らしいけど。
「もー、義姉上ってばヒヤヒヤしたよ」
「でも、卒業する先輩に対してあれは…、」
「あれはわざとだよ。誰かがあの時無礼だの学園に相応しくない だのって挑発に乗っていえばあの2人はそのままじゃあ私達は相応しくないのでこの話なかった事で良いですねってなった筈だよ?」
「あ……」
「でしょ?だからこそ会長は挑発には乗らず悪役に徹してくれたんだ」
「そうでしたの…考えてみればそうですわよね。すみません私ったら…」
「いいや?私達もドキッとしたからな。なにしろ会長は誰を指名するか〝その時までのお楽しみ〟とか何とか言ってギリギリまで教えてくれていなかったからな」
「ま、何にせよ僕達にとっては良いことずくめじゃない?無事あの娘を生徒会に入れる事が出来たし、そしたら自然ヴィオラ先生との距離だって開かざるを得ないしね」
「辞める理由は必要ないって言ってたけど……」
「それはそれで難しいわよね、何か辞めても仕方ないレベルの失態おかすとか?」
「__どうやって?」
「思いつかないけど、新入生の入学式が済むまでは普通に手伝うしかないでしょうね。新入生に罪はないもの」
「…貴女らしいわ」
だから付け込まれてるわけだけどね、とは落ち込んでる親友には言えないし言うつもりもないがー…せっかく、この娘と異国の地で、同じ教室で、学んだり週末は一緒に出掛けたり、上手くすれば相部屋寮生活とか…!出来ると思ったのに。
会長め、最後の最後にやってくれた。
憂鬱ながら私とジュリアは役員として入学式の差配を手伝い、代表として新入生歓迎の言葉を述べる新生徒会長に歓声をあげる生徒を冷めた目で見ながら務めを果たした。
あーあ。
卒業式から入学式までの休みは短いので帰省しない生徒も多いが私はもちろん帰るつもりだった。
そしてお父様に相談するつもりだったのだ、他国への留学について。
だが、入学式を取り仕切る役目がある生徒会役員にはほぼ休みなどないも同然だった為帰れずじまいー…マジで生徒会長、許さん。
そんな決意を固めた入学式の後、会長が(のこのこと)生徒会室にやってきた。
「やあ。入学式お疲れ様」
「「会長!」」
ギルバートとアレックスが慌てて席を立つ。
「今は会長ではないよ。研究室にも慣れてきたから様子を見ておこうと差し入れを持ってきたのだが、」
苦笑して告げる会長が言い終わる前に、
「私、お茶を入れますわね」
すかさず私が席を立ち、
「手伝うわ、アリス」
とジュリアが続いた。
「何か困ってる事はないか?それからー…」
目線がこちらを指しているのは感じるが全員に向けて言ってるのだろうと勝手に断じて私とジュリアは聞かぬふりを貫いた。
だが、そんな空気は察してないのか単に気付かない振りをしているのか__多分後者だろう、前会長は私の方へ近付きながら懐から何かを取り出す。
「メイデン嬢、これを」
それはブルーのリボンをかけられた正方形の小さな包みだった。
「?」
私が疑問の視線を投げると、
「卒業式の翌日が誕生日だったろう?あの後折を見て渡すつもりだったのだが、君達はあの後すぐに会場から去ってしまったからね」
「?!」
私だけでなく、部屋にいた全員が息をのむ。
「15才の誕生日おめでとう」
「…………」
艶やかに笑う元生徒会長の差し出す包みに手を伸ばす事はせず、
「頂く謂れがありませんので。お気持ちだけで結構です」
私は凍り付いた方の笑みで言った。
「そんなにかまえる程高価な物ではないよ。軽い気持ちで受け取ってくれればいい」
……いらん、そんなもの。
軽い気持ちで公爵令息からの物なんか受け折れるか。
「まあそのようなこと、、軽い気持ちでレイド公御子息から下賜されたものなど受け取るわけには参りません__もう後輩でもないのに」
はっきりと毒と棘を滲ませた声に同学年のメンバー(ジュリア以外)は青くなるが前会長は特に気にした様子はなく、
「これは、手厳しいな」
と苦笑する。
「まあ。私はただ無事学園を卒業されて研究の道に進まれた(はずなのに暇か!)高貴な方の気を散らす存在にはなりなくない(×真っ平ごめんな)だけですわ」
「……私は王族ではないよ、メイデン嬢」
流石に声を低めた前会長に、
「でも、それに次ぐ方でいらっしゃる」
私はすかさず返した。
「私は…ーいや、やめておこう。これ以上可愛い後輩に嫌われたくはないからね」
何言ってんだか。信用出来なくなったので距離を置いてるだけだっつの。
物に罪はないが、
「レイド小公爵様ならば、贈る女性には事欠きませんでしょう?」
だから、私は受け取らない。
(前)会長の行動も勿論だが、それに対してのアリスティアの拒絶の仕方があからさま過ぎてアルフレッド達も驚く。
だが、彼女はそんな事はお構いなしに、
「ああレイド様が会長時代、生徒会にはいなかった私が皆様の思い出話の邪魔をしてはいけませんわね」
と言いながら前会長の席に紅茶を置くと、
「私達は失礼致します。お疲れ様でした」
勝手に話を畳んで出ていってしまう。もちろんジュリアも一緒に。
確かに、入学式が終われば今日はもう自由帰寮だ。生徒会の面々はこの執務室で無事終えられたことにほっとし、「お疲れ様」と互いに言い合ってたとこだ。
ゆえに、かろうじて、
「お、お疲れ~…」
と応じたカミラですらどこか茫然としていた。
彼女が(前)会長のことをあそこまで拒絶するとは。
自分達にはとことん拒否の姿勢を崩さない彼女も、生徒会長であり、何度も助けられているアルフォンスにあんな態度で接する事はなかった。
お昼やお茶などの誘いも何度か応じていたし、どちらかといえば好意的に接していたと思ったのだがー…。
「やれやれ、すっかり嫌われてしまったな」
当の本人はあまり気にしてないようで、受け取ってもらえなかった小箱をあっさり仕舞うと、
「君達は受け取ってくれるだろう?まあ、こちらはただの菓子だが」
「ありがとうございます、会長」
一拍おいて立ち直ったらしいカミラが包みを受け取って開けるべく食器の並ぶ棚に向かうと、ミリディアナも続いた。
「あ、あの…、今のは」
震えながらも手を挙げ質問したアレックスに、
「ん?」
レイドは微笑んで先を促す。
「か 会長は、彼女に個人的な感情が…?」
「まあ、気になる事は確かだね」
「何を贈ろうとしてたんですか?」
すかさずアルフレッドも突っ込むが、
「女性が喜びそうなちょっとしたものだよ。まあ、受け取ってもらえなかったのだし突っ込むのはそこまでにしてくれ」
気にはなるが こうまで言われては何も言えない。
そしてレイドが部屋を辞したあと、
「僕だってプレゼント用意してたのにー!!
「俺だって贈ろうと準備してたのにーー!!」
という絶叫が同時に響いた。
用意した物は勿論、声も本人には届かない。
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