ヒロインはゲームの開始を回避したい(第一章 完結)レジュール・レジェンディア王国譚 転

詩海猫

文字の大きさ
上 下
32 / 63

乙女ゲームとは?〜ヒロイン、考える。

しおりを挟む
 そんな私の胸中に関係なく(主に彼等からの接触過多のせいで)、
「アリスティア様は最近アレックス様と親しくされている」
「アルフレッド殿下との身分違いの想いに身を焦がしている」
「ヴィオラ先生と生徒会長とを天秤に掛けている」
等々あらぬ嫌疑をかけられ始めた私だが、中でも有力なのが、
「ヴィオラ先生とアリスティア様はこの学園の薔薇の庭園で互いにひと目で恋に落ちたが教師と生徒という立場ゆえ互いに想いをひた隠しにしておられる」
というものらしい。

「でも、アリスティア様は模範生よ?先生とそんな関係になるなんてあり得ないわ」
「まあ、ヴィオラ先生は教師といってもまだ24才よ?あり得ない話ではないわ」
「確かにー…それに、並ぶと とてもお似合いではあるけれどー…」
「そう!そうなのよ!ヴィオラ先生が初めてこの学園に来た日、私も見ていたのだけどまるで1枚の絵画のようだったわ!」
と1人がうっとりとして言うと、
「私も見たかった…」
「私も」
「私だって!」
という声が次々あがる。
「ヴィオラ先生は本当にお美しいものね。確かに隣に並ぶならアリスティア様くらいでないとー…」
「そうよ!ミリディアナ様やカミラ様もお美しいけれど、ご婚約者がいらっしゃるし__その点、お二人は婚約者もいらっしゃらないしお似合いだわ!私、お2人を応援するわ」
「私も!」
と当人の望まない方向で盛り上がっていた。



一方でアリスティアはそんな話は知らないが、事件は起こった。
 
移動中、結構な高さの階段から突き落とされたのだ。
 
すれ違いざまとん、と押された体は手すりを乗り越え、2の階段に向かって落下した。
(ここ、4階ー…!!)
慌てて浮遊魔法を使おうとしたが落下速度の方が早い。
予測不可能だったのだから当然だ。

私は声をあげる間も無く落ち、周囲からは悲鳴があがった。
さすがに受け身の練習はしていない私は床に叩きつけられるのを覚悟したが__。

__あれ?痛くない。

 目を開くと、目の前にヴィオラ先生の麗しい顔があった。
「怪我はないかい?メイデン嬢」
 心配げに問うヴィオラ先生の声に、
「何故こんな真似をしたっ?!」
 上からの生徒会長の恫喝が重なった。

 驚いて見上げると生徒会長が1人の女生徒を拘束していた。
どうやら、犯人を捕まえてくれたらしい。
「わ、私は何もっ…!」
明らかに狼狽しつつ言い逃れを計る令嬢に、
「嘘をつけ。確かに見たぞ、君がすれ違いざま巧妙にメイデン嬢を突き落したのを。それだけじゃない、君は絶妙に距離を測りメイデン嬢があの場所に差し掛かるまでは離れて張り付いていたのにあの場所に彼女が近づくと同時に歩を早めた。さりげなくしていたつもりかもしれないがはたから見れば一目瞭然だ。計画的だな?話はゆっくり指導室で聴く」

「犯人も無事捕まったようだね。医務室に行こう」
同じくその様子を見上げていたヴィオラ先生が改めて私を抱き上げる。
周りから先程とは違う悲鳴があがる。
「せ、先生…!私怪我してませんから!」
「あの高さから落ちたんだ。気付かない場所に負ってるかもしれないだろう?」
「だとしても医務室までくらい歩けます。運んでいただくには及びません」
「ここで降ろしたら私の方が悪者になるよ」
それこそ世の乙女ゲー信者が卒倒しそうな笑みで、美形の音楽講師は言った。

かくして、私は美形の音楽講師にお姫様抱っこで医務室に運ばれる事になった。

が、
「女生徒の医務室への付き添いが男性教師というのは感心出来ませんよ先生」
 犯人を拘束したままの会長から待ったがかかった。
「もちろんそんなつもりはないよ。医務室まで運んだあとは速やかに退出する。付き添いはバーネット嬢が適任だろう。君、伝言を頼めるかな?」
素早く周囲を見回し、近くにいた女生徒に伝言を託し会長の顔を窺う。
「それならば良いでしょう。こちらからもクラリス嬢を向かわせます。よろしくお願いします、先生」
 会長が踵を返すと、ヴィオラ先生が何とも言えず不敵に笑った__のは、会長を凝視していた私は気が付かなかった。

 〝ヒロインが階段から突き落とされる〟って乙女ゲームには鉄板イベントだけど、あのゲームにはなかったはず__なのに、何故?という思考に頭が占領されてたから。







「イベントだわ」
「やっぱりイベントなの?」
「ええ。階段から突き落とされたヒロインをオルフェ様が受け止めるっていうイベントがあったわ。でも、生徒会長が犯人を捕まえる、なんて出来事はなかったはずよ」
「それにその場合突き落としたのって〝悪役令嬢〟であるミリィって事になるんでしょう?」
「私が指示した取り巻きの仕業って話になってたわね、確か」
「貴女がやる訳ない、て事はー…」
「生徒会長が調べている。じき明らかになるだろう」
「そうすんなり行けばいいけど。生徒会長の存在ってイレギュラーでしょ?僕たちも大概イレギュラーな行動してるけど、それはメイデン嬢も一緒だし」
「彼女の場合は我々がイレギュラーに行動した結果だろう?」

「うん……その結果“だけ“だといいね」
気に入らない。このところあの男と彼女はどんどん距離が近くなっている気がする。
あいつ、教師のクセにいち女生徒に距離近過ぎなんだよ……!




 ~伝説の乙女~…通称、〝薔薇オト〟。
あのゲームに〝階段から突き落とされる〟イベントなんてなかった筈なのに、いきなり突き落とされてしかもいかにも乙女ゲームの攻略対象っぽい人に抱き留められてさらにお姫様抱っこで医務室に連れてかれるって、なんの公開処刑イベント

まさかー…知らない間にゲームが始まってる?

 いや、でも私は誰の攻略にも動いてないし、そもそも出会いイベントすら発生していないのだからそれは有り得ない。

あり得ない__はずだ。

とにかく、わかってるのは攻略対象の私に対する立ち位置が変わってきた事だ。

まず、王太子 。
元々好意的ではないがやけに挑戦的な態度だったのが最近なりを潜めつつある。

アルフレッド 王子。
この人は当初からあまり変わらない。ただ、ヴィオラ先生に対して妙に敵愾心を抱いてるような言動が目立つ。

アレックス ・ランバート。
あんなに悪態ついてたのが嘘のように愛想よく寄ってきてはお茶に誘ってくるようになった……そう、みたいな態度に変化した。

ギルバート・クレイグ。
あんなに事あるごとにキャンキャン吠えてたのに、最近会話どころか姿すら見かけない。
まあ、ありがたいけど。

生徒会長 。
隠しキャラなのか、それとも単にカミラのようにゲームとは関係ない関係者なのかわからないが、何故か絡みが多い。

ヴィオラ先生 。
限りなく隠しキャラっぽいし、やけに親しげに寄ってこられる気がするが真意は不明。

こんな感じか。

でも、当の私は甘いセリフを囁かれてもドキッとなんかしないし、話してて楽しいとか会えて嬉しいとか、何にもない。

むしろ、ジュリアと話してる方が楽しい。

「…………」
私って、つくづくヒロイン向いてないんじゃない?
「…いつの間にかヒロインすり替わってましたーとか、ないのかな…」
そうすりゃいらん事考えないで済むのに。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...