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乙女ゲームモード、継続中(ヒロイン置き去り)

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*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

月がいつになく明るい夜に、それを見上げ1人の少女を思い浮かべる男たちがいた。

場所も立場も違えど思い浮かべる相手は同一だった__アリスティア・メイデン。



1人目は、
「今度同じ事をされたなら2度と顔を合わせなくて済むように他国に移住する」と言わしめた騎士。

そんなつもりではなかった。

自分に真っ向から意見してくる者は少ない。
そして、いつも気を張っているさまは知らず周りを威嚇していたらしい。
だから、気が付かなかった。
自分が知らずとんでもなく傲慢になっている事に。
平等を促す公平な騎士であろうと努力してきたつもりが、いつの間にか。
「ヒロインはその美しさで殿下や自分を堕落させ、ミリディアナ様を陥れる可能性のある人物である」
事前にそう、聞かされてしまったから かも知れない。
アルフレッド殿下の言う通りだ。
自分は何も見えていなかった、見ている気になっていただけだ。
そしてその思い上がりは彼女から最悪の言葉を引き出してしまった。

ーまだ、間に合うだろうか。
ーー許してもらえるだろうか?
「朝晩は、冷え込むようになってきたな…」
この程度の寒さに堪える程柔ではないが、秋も深まり、冬が近い。
「次の生徒会主催イベントに、彼女は参加してくれるだろうか……」





2人目は、

「冬が来ても、彼女の周りだけは暖かいのだろうな……」
彼女は木漏れ日の様に笑う。寒くなり始めた時期だというのに彼女の周りだけが春のようだった。
あの微笑みを、自分に向けてはくれないだろうか。
自分に、できれば自分にだけに__つい、そう思ってしまうのを止められないほど、彼女に焦がれて溜息をついた顔は、まさに恋する男そのものだった。





♦︎♦︎3人目は、

「はぁ__猫になりたい」
とため息と共に意味のわからないことを呟いていた。
「あのふかふかした胸に……」
顔を埋めてすりすりしたい。
そしてあの子に撫で撫でしてもらって、そのお返しに僕も彼女のあんなとこやこんなとこを撫で撫でして、くすぐったがるあの子に爪を立ててー…でもってそのうち歯も立てて、ゆくゆくは別のとこも__。

違った。
意味不明なのではなく、煩悩に塗れた呟きだった。
それは既に猫ではない、ただの雄だ。

そう突っ込む人間は、残念ながら近くにいなかった。




4人目は、夜闇に姿を隠した者。

透き通った肌、黄金色の髪、薔薇色の唇ー…彼女は本当に美しい。
見た目によらず機転が利いて気が強いところもまたいい。あの唇に口付けしたらどんな反応をするのだろう。
肌に舌を這わせたらどんな味がするのだろう、あの華奢な腕を組み敷いて純潔を奪ったらどんな風に鳴くだろう?
始めは泣いても、すぐに啼きだすだろう、あの天使のような少女が女性に羽化していくさまはどんなものなのかー…あゝはやく見たい。彼女をこころゆくまで犯したい。
隅々まで、時間をかけて。
そんな事を美しい口元から囁く男の顔は、月に隠れ見えなかった。





「全く……」
彼等を出来るだけつぶさに観察し、もし彼女に害がある事があれば守れ、とはー…御大も無茶を言うものだ。
見守り、必要とあらば手を貸すことは言われなくともするつもりだった。
だが、一方的に見張るという行為には賛成しかねる。
「どうにか双方に、良い方向へ持っていきたいところだが__…」
現状を見る限り難しいだろう。

最後の1人は、月を見上げて疲れた溜息を吐いた。



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


「はあ…」
疲れた。
授業の合間、ジュリアしか側にいない状態で私は盛大に溜息をついた。
生徒会長とのお昼は、主に生徒会の活動内容説明に終始したと言える。
勧誘こそしてこなかったが、良ければジュリアと一緒に生徒会入りしてはどうか?という主旨の会話にもっていかれることが多い。

断ったらそれきりかと思ってたのだが、それ以降週イチの割合で会長はお昼やお茶に誘いに来る。勿論2人きりではないのだが。

 その合間を縫うようにしてアルフレッドやアレックスも誘って来る。
生徒会長に関してはあまり無下にも出来ないので3回に1回くらいはご一緒しているが、この2人に関しては一貫してお断りしている。

 案の定、就任と共に女生徒達から絶大な支持(いや、好意?)を受けているヴィオラ先生だが、何故か行く先々に現れる。

 今日も図書室で本を探している所に声をかけられた。
「やあメイデン嬢、探し物かい?」
「はい。次の授業の参考になる資料を探しに」
「ならば私も手伝おう」
「いえ、それはー…」
 対外的に色々マズいのでは、と断りを発する前に、
「1人の生徒に過度な接触は感心しませんよヴィオラ先生」
「アルフレッド、授業の下準備の手伝いをしようとしただけだが?」
「彼女は手伝いなど必要としていないし、必要なら自分の友人に頼むでしょう」
「やれやれ、頭が固いね。今たまたま近くにいる私がやるのがいちばん手っ取り早いだろう?」
「たまたま __ねぇ、どうもいち教師としては距離が近過ぎるような気がしますが?ただでさえ先生は女生徒達から熱視線を浴びられているのですから、特定の生徒と親しげになさるのは控えられた方がよろしいかと?そもそも先生が担当なさってる授業ではないでしょう」
「やれやれ、〝王子様〟兼生徒会役員のお達しとあらば仕方ないことですね。ではまた、金の姫君」
 憤るでなく不満を顔に出すでもなく、まるでお伽話の騎士のような礼を取って恭しく去るヴィオラ先生に沢山の視線がふりかかる。本当に隙のない人だ。



こんな風にヴィオラ先生とエンカウントするとかなりの確率でアルフレッドの牽制が入り、ヴィオラ先生は大げさに嘆いて去っていく。
いくら断ってもアレックスもやたら懐いてくるし、私にはわけがわからない__ていうか、おかしい。

ゲームの開始は回避した筈だし、互いに好感度が上がるような何かも起こってはいないのに。

なんで乙女ゲームの逆ハールートみたいになってるんだ?そんなの薔薇オトには元からない。
いや、王太子とギルバート、婚約者持ちは来てないからある意味間違ってないのか?
生徒会長が隠しキャラなのかと思ったけど、もうすぐ卒業だし口説かれているわけではないから違うー…よね?
ヴィオラ先生も隠しキャラっぽいけど…、いやむしろ乙女ゲームの王道中の王道っぽい人だけど。
甘い台詞を吐かれたからといってドキッとするとかは別にないし。

 むしろ、彼等の誰か1人でも側に来ると注目の的なので来ないで欲しいのだが。
そんな私の心中をわかっているのか、それとも敢えて無視しているのか、
「ごめんね、邪魔して?」
 デフォルト笑顔で言ってくるアルフレッドに、
「いえ。元々手伝ってもらうつもりではなかったですから」
と返すと、
「相変わらずだね。安心した」
と苦笑して去っていく。

「相変わらず〟なんて台詞が出る程親しくなっていないでしょうに……」
去るアルフレッドの背中に毒づいた。

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