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ちょっとだけ乙女ゲームモード(かも知れない)

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「で?」
「で?じゃないよ、だって僕達彼女のあんな顔見た事ある?ないよね?実際すぐ〝可愛い猫だね〟って話しかけたらあっという間に貼り付いた笑みに戻っちゃった」
「“話しかけるな“って言われてすぐによく行ったわね……それで、どうしたいわけ?」
「話しかけんなって言われたのはギルバートだけでしょ?それに__、今は言わない」
どうしたいか、なんて言ったって仕方ない。
話しかければ答えてはくれるけど誘いには応じてくれないし、自分を見る目は冷たい。
どころか"殿下のファンの女生徒の皆様に怨まれるのであまり近付きすぎないで下さい"ってお願いされてしまうのだ、凍りついた笑みを貼り付けた彼女に。
だが、ここで引く訳にはいかない。

さっきの猫を助けた時の観察力と行動力、それに見合う魔力、更にそれを制御する能力チカラ__確かに彼女ならば相応しい。
彼女が本当に〝伝説の乙女〟ならば、学園ここにいてもらわなければ困るのだ。
「どうすればいい……?」
もうひとりも、誰に訊くでなく呟いた。



アルフレッドがひとしきり嘆いて去った後、話を聞いていたカミラは年齢に似合わない重い息を吐いた。
アッシュバルトは現在ここには来ていない。というか、ここ最近別行動の事が増えた。
「このままでは生徒会長への指名は難しい」と言われた事がよほどこたえたのか、もっと職務をこなさなければとの思いからか飛び回っている。
別に〝王太子だから〟〝王子だから〟生徒会長、生徒会役員にならなければいけないというわけでない。
一種の慣例というだけだが、「代々の王太子は皆この学園で会長を務めてきたのに自分は不甲斐ない」と思ってしまうのが彼らしいといえばいえるのだが。
因みにギルバートもそんな王太子に付き従っていて今は不在、いるのはミリィとカミラの女子二人だけだった。

だが、ミリディアナの思考は別な方向へとんでいるらしく、
「イベントだわ……」
「イベント?」
「そう!ここに至るルートは幾つかあって誰が通りかかるかはその時までわからないのよ!王太子殿下が通りかかった場合、"淑女たるものが人前でする事ではないよ"って注意されるんだけどー…」
「確かに言いそうだけど」
「その後"だが、子猫を速やかに助けようとするその気持ちは尊い"って優しく言うのよ!」
「それちょっと苦しくない?」
「誰が通るにせよ、その後の展開を左右する大事なポイントになるのよ!」
「で?それ、アルフレッドならどーなるわけ?」
「え "可愛い猫だね"ってまず微笑んで……」
「そこは合ってるわね」
「で?ヒロインの反応は?」
「 誰にせよヒロインは"も、申し訳ありません!"て可愛らしく頬を染めるんだけど」
「……ないわー」
「……確かになさそうね」
ミリディアナはしゅんとした。

 

件の黒猫は南寮の寮監のペットとしてノエルと名付けられ、女生徒達のマスコットとして定着し、アリスティアを筆頭として女生徒がしょっちゅう連れ歩く姿が見られるようになった。

生徒会との距離感は相変わらずだったが、そんな中一人だけいつもと違う行動を取る者がいた。
「メイデン嬢、ちょっといいかな?」
当のアリスはもちろん、彼女を囲む一団にちょっとした衝撃がはしる。
中でもジュリアは明らかに眉を顰めた。
そんな親友を尻目に、
「まあ。一体何のお話でしょう?ランバート様」
「い、いや大した事ではないのだが、君に先日のお礼を……」
あゝ蛇から助けた事か。
あのまま意識戻ってなかったからあの後の騒ぎにも参加してないんだっけ、この人。
辺境伯の跡継ぎがコレで大丈夫かって正直ちょっと__いやかなり__不安だな?

「〝大した事じゃない〟と思う礼なら、しなくても一緒なのではなくて?」
 私が何か言うより先にジュリアが突っ込んだ。
「何だと?!あっ、いや、」
一瞬気色ばんだアレックスだが、相手がバーネット侯爵家の娘だと認識すると口籠った。
(__わかりやすいなあ)
〝辺境伯〟は代々続く家柄ではあるが伯爵家。
ジュリアの家は歴史は浅くとも侯爵家。
家格だけでいったらジュリアの方が上なのだ。

このボンボン、社交にも向いてなくない?
剣も魔力もそこそこ使えはするが突出してる、とも言いがたい。
少なくとも魔力や成績だけでいえば私の方が上だ、顔は良いけど。
紫の瞳と黒い髪の美少年だし、背もそこそこ高い。
けど体格は攻略対象の中では一番華奢で、何ていうか辺境伯っていうより宮廷の貴公子って感じ。
いや乙女ゲーキャラとしては良いんだろうけど、いざって時に頼りにならなそう__ていうか、ならなかった。

「い、いやその、すまない決して命を助けられた事を〝大した事ではない〟と思ってるわけではなく、伯爵家として正式に何か、と。その話を」
アレックスの殊勝な態度に面喰らったジュリアがどうする?と目で合図してくる。
私もアレックスのこんな態度は初めてだ。
「そうですわね。伯爵家として、と仰るならそれは家同士の話ですから__父 男爵を通して下さいませ」
「!い、いや、それだけでなく僕個人としても君にお礼を言いたいんだ。次の週末に時間を貰えないだろうか?町に良い店があるんだ。そこの個室を押さえたから良かったらー…、」

(はぁ?!)

 と私が心中ツッコミするのと同時にジュリアが、
「婚約者でもない女性をいきなり二人きりの食事に誘うなんて……非常識が過ぎるのではありませんか?」
「!妙な邪推をしないでもらいたい。ただ食事をするだけだ!」
「だったらわざわざ個室でなんて必要ないではないですか」
「人が大勢いる場所では落ち着いて話も出来ないだろう という配慮からだ」
「配慮?婚約者でもない年頃の男女が個室で二人きりになる事を周りがどう見るかの配慮はないのですか?」
「そんな邪推をする輩は放っておけばいい」
うわぁ、何その自己完結?
「何ですって?!」

ああヤバい、ジュリアがキレそう。もう半分キレてるけど。
「ジュリアの言う通りですわ。婚約者でも身内でもない男性と個人的に二人で食事に出掛ける気はございません。例えそれがただの〝御礼〟だったとしても です」
そもそもなんだって全く好意を持ってないこいつと週末出掛けなきゃならんのだ?
「!」
「確かに周囲の何もわかってない方の雑音など気にする必要はございません」
「っそれならな…「__ですが」?!」
 そこんとこ、わかってない。
「それは〝私がそこまでしてしたい行動か〟によります。そもそも私とランバート様はそこまで親しくはありませんよね?私、初めて会った時から叱責ばかりされておりましたもの」
さり気に城での雑言三昧を差していってやるとアレックスの顔が青褪めた。
「あ、あれはそのっ、」
「御礼の言葉は今受け取りました。ランバート家から何かしたいと仰せならメイデン家の方に。私への個人的な礼はこれ以上は不要ですわ。失礼します」
言い返す隙を与えずにその場を去った。
「お見事」とジュリアが小さく言ってくれたが、珍事はそれだけで終わらなかった。
放課後生徒会長がわざわざ一年生の授業終わりにやって来て、「メイデン嬢。明日の昼食を一緒にどうかな?」と言ってきた。
 (は??)

「えぇと……」
(なんで??)
「君とは一度ゆっくり話したいと思っていたんだ。勿論二人きり というわけじゃない、こちらはクラリス嬢に同席してもらう。君の方もいつも一緒にいる友人と来るといい。勿論明日が無理なら別の日でも。君に合わせよう、いつなら可能かな?」
しかも、アレックスと違って誘い方に隙がない。
ちらりと横のジュリアを見ると構わない、と目で返されたので
「はい。では、明日」
と答えて帰寮した後頭を抱えた。

なんで??
アレックスに何があった??
しかも生徒会長ってゲームじゃ名前すら出て来なかったよね??
先に卒業しちゃうキャラだし、まさか一年のうちに攻略したら出て来る系の隠しキャラとか??いやでも口説かれたわけではないし。

(__わからん)














「それでどう?あの子は学園に残ってくれそうかしら?」
「現状ではその可能性は低いでしょうね。彼女にとっては相手が王子であろうが騎士であろうが路傍の石みたいなものでしょうから」
「__そこまであの子たちは嫌われているの?」
先程まで王子達息子を叱責していた王妃が美しい柳眉を顰める。
「ええ、まあ。“二度と話しかけるな““視界に入るな“と言われるほどですから。メイデン嬢があそこまで激昂するとは驚きました」
アルフォンスはあの時、影からあの場面を見ていた。
アリスティア・メイデンは感情豊かな少女ではあるが決して礼儀知らずではない。
「肝心要の行儀見習い出会いから失敗したようですからね、まさか入学前に城に呼んでいてしかも盛大にやらかしていたとは知りませんでした」
「貴方は生徒会長を引き継いだばかりだったものね……全く、どこで育て方を間違えたのかしら?可愛らしい令嬢にあんな仕打ちをするなんて」
「それは私も驚きました。アッシュ達はたとえ身分が低くとも令嬢にあんな仕打ちをするタイプではなかった。何か私にも知らせない理由があるのかもしれません」
「そうね……私たちも“伝説の乙女“はあの子たちの同級生である確率が高いことからあの子たち任せにしていたのが不味かったみたいね。これからは私たちも動けるようにしておきましょう。学内でのことは頼みましたよ、アルフォンス」
「承知いたしました、王妃様」













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