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ヒロイン、王宮に行く 後(Steady,Go!)

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つまり「今愛しく想う殿方はここにはおりません」とにこやかに告げるアリスティアの様子にちょっとだけ、あくまでちょっとだけ、ショックを受ける攻略対象達だった。

受けた王妃は微笑み、
「ふふ、わかったわ。メイデン男爵に改めて取らせる事に致しましょう。今夜は来てくれてありがとう」
「とんでもございません。お会い出来て光栄でした、国王陛下、並びに王妃殿下」
そうして退出する国王夫妻を見送って、その場はお開きになった。
緊張が解けて軽く息を吐いたが、そのまま帰らせてくれるわけではないらしく、王子たち五人と別室に案内され、
「__今回はすまなかった」
と王太子が頭を下げてきた。

今回"は"?
"も"じゃなくて?

なんてツッこみは隠して、無言のままその顔を見返す。
「君がいてくれて助かった。感謝している__ありがとう」
「私からもお礼を。殿下の命を救ってくれてありがとう」
とミリディアナが続く。
「いち国民として当然の事をしたまでです。まだ何かお話がおありなのでしょうか?」
「っメイデン嬢!その態度はないだろう、殿下がたがこんな時間にわざわざ__」
それは、
「うるさいです、この似非騎士」
こっちのセリフだっての!!

「え、似非騎士?」
「ええ。初めて会った時からの貴方の態度は嫌味・暴言・脅迫じみた忠誠の促しばかり、紳士的な態度とはほど遠く、騎士道精神の欠けらも感じられない。貴方にとって私は淑女ではないからこその態度だったとしてもありえません。礼儀を母君のお腹に忘れてきたのですか?私から見た貴方はただの躾のなってない狂犬です!」
「なっ……」
「前々から思ってましたがいい加減にして下さいませ!です!私がいつ城に招いて欲しいなんて言いました?!入学前も今回も、そちらが頼みもしないのに呼んだんでしょうがっ!それとその人が話してる間に割り込む癖、どうにかなりませんの?!そんなことではいずれあるじである殿下の品性まで疑われ、部下の方にも“あの上司はどうせ最後まで言わせてもくれずまともに聞く耳を持たない方相手だから話そうとするだけ無駄だ“と、本来真っ先にされるべき報告もされなくなりますわよっ?!」
「っ!!」
「そもそも言いたい事があるならいちいち横から突っ込んで来るのでなく、正面から一人で来られませ!それともそんな事も貴方はひとりではできませんの?本っ当に、見掛け倒しですわね!」

妃の座も、逆ハーも狙ってない私が何故こんな扱いをされなければいけない?
放校でも退学でもいい、この国に留まってこんな奴らの部下になるのごめんだ。

「何を勘違いされているか知りませんがお城に呼ばれただけで喜ぶ女の子がいるわけないでしょう、女の子は紳士的で優しい騎士や王子様にお姫様扱いされるからこそ嬉しい気持ちにもなったりするんです、こんな時間に呼び出されてこんな扱い受けて有り難みを感じるとでも?!勘違いも甚だしいですわ、こんな事も言われないとわからないくせに女性を馬鹿にするのもいい加減になさい!ええ本当に!二度と私に話しかけないで、そしてできれば二度とその顔も見せないでいてくださるとありがたいですわ。今度同じ事をされたなら、私二度と貴方と顔を合わさずに済むように他国に移住しますからそのおつもりで!」

ギルドのトップはギルドマスターだ。
それも各国にあり、ランクアップするにつれ出入り自由な国も増える。
別の国にだって、実力で行けるようになればいい。
そうすれば、国の許可なんて要らないのだ。
私はこの人たちを主として仕えるつもりなんてない。

言うだけ言ったらちょっとすっきりした。
固まったギルバートを前に、
「帰ります」
とさっさと踵を返した。

黙ってそのやり取りを見ていた四人が一斉に反応する。
「私も寮に戻るわ。行きましょうミリィ」
「ッカミラ、でも__、」
「彼女を連れ出した以上、無事に寮に帰す義務が私達にはあるのよ。マダム・ラッセルも寮監の先生もお待ちだわ」
カミラはさっさとミリィの手を取ってアリスティアの後に続く。
ギルバートの方は見なかった。

「この件については彼女に賛成だよ。全く、僕がまだちゃんとお礼言えてないのに……仕える相手を最上位に据えて動くこと自体は間違いじゃない、けど自分の忠誠を誰彼構わず強制するのは違う」
アルフレッドが冷たく行ってその場を後にする。
棒と立ったまま動かないギルバートに、
「お前が私、いや王家に忠誠を誓っていることはありがたく思うよ。だが、何事にもやりすぎは禁物だ。尤も、俺も他人ひとの事は言えないが」
と王太子が労わるように、ぽんと肩を叩いた。



そうした蛇騒ぎがあってヒロインとの距離が広がった数日後、は何やら人が集まっているのに気付く。
場所は中庭だ。そしてどうやら中心にいるのは当の彼女らしい。
__また何かあったのか__?
“ヒロイン“という存在には、とにかくイベントという名のハプニングがついて回る物らしい。
あちらに気取られないよう、そっと近づいて物影から覗きこんだ。

木の上で子猫が降りられなくなっており、アリスティアはじめ何人かの生徒がそれを助けようとしている。
「どこから迷いこんだのかしら?」
「先生を呼んだ方が……」
という生徒たちに対し、
「それでは下での騒ぎに驚いて余計に上にいってしまう可能性の方が高いわ。それに、」
何か考えるようにアリスティアが言い、
「じゃあどうするの?」
とジュリアが訊ねると、
「ちょっと行ってくる」
と、捲れあがらないようにスカートの裾を抑え、ふわりと体が浮き上がった。

見ていた方は驚いた。
__無詠唱で自身を浮かせる事が出来るのか!

アリスティアはあっさりと高い木の上まで到達し、
「はい怖くないからねー?落ちついて?ね?」
いきなり目の前に浮かびあがってきた人間を威嚇する猫に笑顔で手を伸ばす。
そのふんわりと微笑うさまに猫も助けてくれる相手とわかったのか、威嚇をやめおとなしくなる。
そうしてその猫を柔らかく腕に抱き、アリスティアは木の下に降りてきた。
ジュリアも目をぱちぱちさせているし、(覗き見含め)周りの生徒も言わずもがな。



浮遊魔法、それも軽い物__生き物となれば、尚更難しい魔法__を、持ち上げる事はできても正確に思った通りの場所に降ろせるレベルの魔法使いは珍しい。
しかも、無詠唱であっさりやる魔法使いなんて見たことがない、という顔だ。
だが、これだけ自在に使えるなら。

案の定、ジュリアが怪訝そうに、
「猫だけ降ろせば良かったんじゃないの?」
「魔力持ちの猫ちゃんじゃ反発されるかもしれないじゃない」

確かに、魔力のある動物でしかも自覚がない場合身の危険を感じれば知らず魔力で反発する。
反発して、周りに魔力の残滓が広がったらこの場にいる全員が危険だ。
そこまで瞬時に見越して行動したのだ。
ジュリアは呆れと感心が入り混じった瞳で溜息を吐いた。



因みに物陰から覗き見ている人間も同じ顔をしていた。

「この抱いてみてわかったけどやっぱり強い魔力を持っているわ。だからここに入って来れたんじゃないかしら?」
「そうなの?私にはわからないけれど……」
「うん。私も見ただけでは微かにしかわからなかったけど、先祖に魔獣の血でも混じってるのかしら?」
長く続いた魔獣と魔獣でない生物の自然交配の結果、こうした動物は少なくない。
そして特に害がない限り、人間側も何かするわけでもない。
見た目は普通の動物と変わらないし、魔力の遺伝率は低い。

「それにしても、」
「……可愛いわよねぇ」
ジュリアと私は顔を見合わせた。
「寮監の先生に、お願いしてみましょうか」
寮生のペットは禁止だが、寮監には生徒に危険を及ぼさない限り許可される。
「それがいいわね」
盛り上がって寮に向かう彼女らを見送って、彼は姿を現わし呟いた。
「あんな顔も、出来るんだな……」

因みに反対側から見た人間も似たような想いを抱いたことに気付いたものはいなかった。

だが、場所は違えどそれを目にしての二人の感想は同じだった。

『「まるで天使の微笑みだ」』と。

『知らなかった、あんな春の陽だまりみたいに笑う少女ひとだと』
「あんな笑顔かお、見た事ない」

『なんで今まで気がつかなかったんだろう?』
「……どうして今まで見せてくれなかったんだ」

『そんなの決まってる』
「そんなの当たり前だ」

自分達が、笑わせる努力をした事がないからだ__

__ある意味気付けただけで僥倖かもしれない。
彼らのように高い身分だけでなくそれに見合った容姿とくれば、人は勝手に寄って来る。
だからこそ、それが通じない、容姿にも身分にもとくに頓着しない女性を振り向かせたいなら好かれる努力が必要だということを教える人間がいなかったし、家同士の契約で婚約・結婚する貴族は大抵知らないままでも生きていけるからだ。


*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

タイトル、毎回投稿時直感でつけてますが
ヒロイン、プチ切れる
とか
八卦良~い、残った!!
とかのが良かったかな(~_~;)?

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