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野外講習、危機一髪

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コメント返信が遅れていて申し訳ありません。改稿・加筆を間に合わせるだけで精一杯な状況なので、気長にお待ちいただけるとありがたいですm(__)m




*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


「今のままじゃ、全員振られると思う」
メイデン領から帰ってきたアルフレッドの第一声はこれだった。
ぽかんと口を開けて固まるアッシュバルトに代わり、
「どういうこと?」
とカミラが促すと、
「そのまんまの意味だよ。彼女が俺たちをそういう意味では一切狙ってないことは見ればわかるよね?それだけじゃなく、友人にすらなれないと思う。彼女にとって魔法学園は大して重要な場所ではないんだと思う_…父親の男爵もいつ辞めても構わないって言ってるみたいだし、メイデン領での王都の評判は最悪だよ?__テコ入れが必要だね」





だが、夏期休暇が終わって中期が始まってすぐの野外授業で事件は起こった。
学園の敷地内ではあるが、学舎からは大分離れた森の中に男女混合4人1組で配られたヒントを元に効率良く魔法を使ってクリアポイントに到着すれば合格、というオリエンテーリングタイプの授業だった。

 それ自体は別に問題ない。問題はチーム分けだった。

「チーム分けを発表する。今回はそうだな、名前のアルファベット順だ。アリスティア・メイデン、アレックス・ランバート、アルフレッドー…」

__はいィ?!

 仰天する私に構わず、続いて呼ばれた名前はアッシュバルト。

 あ゛ー確かに。

 全員Aから始まりますねっ!これならカミラ様やミリディアナ様と一緒は絶対無理ですねっ?!
 て、いうかこの4人でって何の罰ゲームですか先生っ!駄犬ギルバート付いて来ないだけマシかもですけどっ!

「あ」

 そういえば、あのゲーム内でヒロインが"今日は授業の一環で森の中で魔獣を倒しながら進み、グループで上手く切り抜けるか"を競う授業があって攻略対象みなさまと一緒のグループになった。
そのプログラムを通して少しだけあの方たちに近づけた気がする、嬉しい。的な呟きをする場面があったな?
 あれ、これのことか。イベントでなかったのはヒロインの名前が自由入力ランダムだからか?いやでもー…、
「せ、先生…」
 それでもさすがに男性3人と私1人はないだろうとそろそろと声を発したが、
「ん?全員女子ならヒントを多く出すなどハンデを与えるがこのグループには必要ないだろう。全員成績上位者だ」
そういう問題なの?
いや2人1組でこの中の誰かと組まされりよりはましか?マシなのか?
 毎回こんなグループ分けなら対策が必要だが、この先生の組ませ方は本当にランダムでそれこそ成績順だったりその時たまたま近くに立ってた者同士など、ほんとにその場の思いつきでやってる感じだし名前のアルファベッド順なんて事毎回はないだろうがーー今回だけは理由付けて休むべきだったなー、失敗した。

と心中で毒づく私に、
「よろしくね、メイデン嬢」
とアルフレッドがいつもの笑顔で声をかけてくる。
「あ、はいよろしくお願いします…」
 あゝ周囲の視線が痛い。
 そんなに羨ましいなら変わって欲しい。名前は交換出来ないけど。
「だいじょーぶ。これでも鍛えてるから頼ってくれていいよ?ああでも何においても優秀な君なら先頭きって進む方がいいのかな?」
「まあ。とんでもない、私は皆様の足手まといにならないよう後ろからついていかせていただきますわ」
「学園内でも飛び抜けて優秀な君の台詞とは思えないけどね?」
「過分な評価痛み入りますわ殿下」
 〝あはは〟とか〝うふふ〟とかが背景に書きこまれそうなにこやかな会話であるのに何やらどす黒い空気が渦巻いてることに何人の人間が気付いたろうか、近くにいた(弟のこの気質によく慣れてるはずの)王太子さえ呑まれて黙っていた。
その顔色も若干青かった。

 そんな空気のまま出発した彼等だったがーーー思いのほか行程は順調だった。
何故なら叩く無駄口がない、というか互いに必要なこと以外発しないので進みが速かったのだ。

「なーんか、期待外れかもね」
「油断は禁物だぞ」
「だーってさあ、いくら授業の一環たって雑魚すぎじゃない?」
確かに進路妨害に出て来るのは小さな魔獣レベルなので倒すのが簡単なのだ。
尤もそれは彼等が優秀だからであって魔法攻撃力が弱いグループならば苦戦するのだろう。
 そんな道中、いきなりシュー…という耳障りな音が聞こえてぴたりと脚を止める。
彼等にも聞こえたようで場に一気に緊張感がはしる。
同時にざわりとおぞましい気配を感じ周囲を見回すと、
 がさり。
という茂みを掻き分ける音と共に音の主が姿を現した。

「「「「!」」」」
体長が10メートル、胴体は下に向かうに連れて細くなってはいるが頭の部分は幅70センチはありそうな蛇だった。
絵面からすると笛を吹くと壺から出てくるタイプの蛇の醜悪巨大版て感じだろうか。
シューという音の正体はこいつの舌だ。
 
あれ、色からして絶対毒持ってるよね?

 それに、
「どう見ても先生が実地授業用に放ったものじゃないな」
ですよねー。

 でかさもさることながら目もギラギラ光ってるし、毒持ちという事は見かけ倒しでもない。
それにこれ、純粋にその辺に生息してる生き物じゃない。この感じはどちらかといえば、
「キメラ…?」
と私は呟く。

 この世界には魔法が溢れていて魔獣も普通にいる。
 魔法大国であるから、魔獣=敵ではない。
魔獣も動物と同じで人に慣れてパートナーになる(魔女と黒猫みたいな感じで)物もいれば害獣として人に殲滅されるのもいる。
その辺は普通の動物と一緒だ。違うのは魔力持ちかどうかで、これはぱっと見区別が付きづらい。
魔獣も動物も、同族同士でしか番わないものもいれば異種間でも全く気にしないのもいるからだ。
だから人間の認識では普通の動物かと思えば魔獣だったりすることがある。

 異種間交配が進みすぎて、見ただけでは魔獣と動物の区別がつかなくなっているのだ。
だが、そうした理由でなくこちらが思いもよらない魔獣が被害をもたらす事もあるー…魔術師が人的に魔獣を掛け合わせ作り出す魔獣、つまり合成生物キメラだ。
そんな風に魔獣を生み出すのは勿論違法だ。
だが自然種か違法合成かを明確に分ける基準はない。
それ故、野放しになってるのが実情である。

ではあるが、生徒の実習中に魔法学園の敷地内にこんなものがいるはずはない。
どう考えても犯罪ーーてかこの面子で思い浮かぶものといったらーーキメラによる暗殺?
 双子の王子もその可能性は真っ先に思い至ったらしく、
「僕らで殲滅する。メイデン嬢、下がって。アレックス、彼女の保護を頼む」
と王子2人が剣を構え、
「はい」
神妙に頷き私を庇うように剣を構えて前に立つアレックスはそれなりにさまになってはいた。
なってはいたが次の瞬間、
「うわぁっ?!」
と頓狂な叫び声をあげた。
アレックスの目の前にもう一体、大きさこそ最初のやつの半分だが頭が2つ、双頭の蛇(ていうかコブラ?)がにゅ、と出て来たのだ。
「アレックス、倒せるか?」
御意はい!」
と剣を構えた刹那ぴゅ、と蛇の口から何かが放たれた。
「っ?!」
アレックスは手にした剣でそれをはたき落としつつ、
「此奴、毒針を吐く様です!殿下がたお気をつけー…」下さい、までは言えなかった。
毒針は避けたが蛇の胴体が速い動作で彼に巻き付いたからだ。
剣を持ってる右腕ごと。
 アレックスは当然魔法を使って脱け出そうとしたが、詠唱する前に蛇の胴体に締め上げられてオチてしまった。

 ーーうわぁ。
これ、ゲームなら王子様が助けてくれるとこなんだろうけどーーゲームじゃないからなぁ。
 私はす、とポケットの中の目的のものに手を伸ばしながら静かにアレックスに巻きついた蛇と対峙した。

 遠見を発動しているので王子達の様子はわかる。2人がかりで苦戦している。
こっちどころじゃなさそうだよなぁ、あれ。

 私は手にしたカードを4枚まとめて双頭の蛇の目を狙って投げた。
 狙い違わずカードは蛇の目にヒットした。
 よし!!!
シャーッ…!と蛇が不快な声で足掻くのに王子達が反応して目を丸くしている。
こっちに反応しなくていいからそっちに集中して下さい!

 目をやられたから毒針は狙って吐けないだろうけど、めったやたらに周囲に吐きうちまくる可能性はある。
私は距離を保ったまま様子を見る。
やはり潰された目の仕返し とばかりにいくつか毒針を放っていたが急遽、ぐるん、と鎌首を自分が絡みついているアレックスにもたげた。

 あ。不味い。

 私は再度カードを放ち、それを追うように蛇に近づくと、蛇の口の中に持っていた玉(自己防衛の為の魔法玉だ)を放り込む。
これ、1個しか持ってないんだから、ちゃんと効いてよね?

玉は蛇の口の中でバチバチと光って蛇の口内を電気ショック状態にした。
これ、「もしまた暗がりに引きずりこまれる事とかあったら使ってやろう」と思って持ってたアイテムなんだけどーー電気ウナギを作ろうと思ったわけでは断じてないーのだがー…ギャ!!といちいち放つ音が不快な蛇は悶絶した。

 よし!
片方が感電したら片割れもちゃんと止まった!良かった!その隙にずるずるとアレックスを引きずり出して蛇から離す。
いつまた蛇が起きるかわかんないし?

 そんなさまを間の抜けた顔で見ていたアッシュバルトに、
「アッシュ!目を逸らすな!」
アルフレッドの叫びとコブラもどきがシュッと襲いかかるのは同時だった。
それを目にした私も手早く残りのカードを投げた。
的はでかいが距離がある。そしてあの図体の割に動きは速いので1枚だけ目を掠めたが残りは空を切った。
 一瞬コブラもどきの動きが鈍ったところにアルフレッドが渾身の一撃を叩き込み、
「ーアッシュ!」アルフレッドの合図にすかさず王太子がトドメを刺す。
 さすが双子。息ぴったりだな。
 ーーなどと感心していたが、
「ありがとう、メイデン嬢助かった」
とアルフレッドが息をつくのとは対象的に、
 王太子は不審げに
「随分良い手際だったなーーこうなることを知っていたのか?」

 何だと?
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