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ヒロイン、嫌がらせに対処する 前
しおりを挟むそれは本当に筆記具や教科書を隠したり壊したり捨てたり燃やしたり と些細(?)な事ではあったが、
(えーと、ヒロインて王太子様御一行と一緒にいるから妬まれて嫌がらせされるんじゃなかったっけ??)
ヒロインが学園であうイジメのほとんどは、
「男爵令嬢ごときが学園の憧れの方たちの中に混じるなんて」
「あんな身分の高い方たちと堂々とお付き合いするなんて厚かましい」
と訳せば羨ましい、て嫉妬に起因するものだ。
だからこそ、必死に距離を空けているのに。
完璧に避けてても嫌がらせってされるのかー。
「ま、仕方ない」
対処するとしますか。
その為に色々準備してきたんだし?
そんな訳で、私は今ずたずたに引き裂かれた教科書やばきばきに折られ、踏み潰されたらしく酷い状態の自分の持ち物たちと対峙している。
傍目には呆然と立ち竦んでいるように見える……といいんだけど。
その私に声をかける人はいない。
気の毒そうに見てる人もいるけど、1番多いのは好奇の目線、次に楽しそうな嘲笑かな?
「まあ、酷い」
「メイデン様、どなたかに酷い恨みをかっておられるのではなくて?」
「振られた男性の逆恨みかもしれませんわよ」
「そうよねえ。田舎の男爵令嬢といってもお綺麗ですし…」
なーんてお決まりのセリフをクスクス笑いながら言うさまはお世辞にも上品どころか醜悪だと思う。
私は聞こえない顔のまま私は壊された持ち物に手をかざす。
すると、壊されたものの欠片が光り出し、周りにざわっ とどよめきが走る __のを綺麗に無視して唱える。
『私はアリスティア。この"もの"たちの主。』
ふわり と応えるように欠片たちが浮き上がる。
『壊されし欠片たちよ、破壊した者たちを示せ』
その声に欠片たちは一斉に飛び散った__ように見えるが、その実周囲の人間のうち数人の元へ飛び、その頭上でチカチカと点滅した。
「なるほど。犯人はあなた方5人でしたか」
予想通り、光が示したのはクスクス笑いの4人と少し離れた場所に立っていた1人を示していた。
この子も仲間だったのかー。ぱっと見無害そうなのにな……と私は呆れた視線を向けた。
「なっ、なっ…、」
テンパるご令嬢がたに、
「何、とは?魔法学園の生徒なのですからご存知でしょう?"壊した者を特定する魔法"ですわ。私、自分の持ち物全てにかけておきましたの」
「ーーなんですってっ?」
リーダー格らしい令嬢の声が上擦る。他にも覚えがあるのだろう。
それにしても凄いゴージャスな縦ロールだ。暫定的に縦ロールさん(名前を覚えようとも思わない)と呼ぼう。
因みにこれはこの国に根付いている生活魔法の1つだ。
本来なら親が子供が壊したのに壊してない とか嘘を付いた時の躾用とか、高価な物への保険、つまり賠償責任がどこにあるか明確にする為に使ったりする為の魔法だ。
今回のはまあー…前者に近いかな?特別難しい魔法ではないが面倒なのは1つ1つに持ち主の名前を(書くんじゃなくてしみこませる が近い)刻み事前にかけておかないといけない上に、かけておいても壊されなければ使う機会がない点だ。
この手の生活魔法はこの国の至るところに使われていて、石さえあれば魔力がない人でも使える。逆に得意不得意の関係で魔法使いでも石がなければ使えない人もいれば石無しで使える人もいる。
私は後者だ。この程度の魔法を石無しで何度か使ったところで何て事ない。
舐めるなヒロイン設定(魔力無しの親から突然変異で発生の大量魔力保持+しかも9才まで下町育ち)、やめよう時間と体力の無駄使い(こーゆー真似する暇あったら他にまわせよマジで)。
「ひ、非常識だわっ!いちいち持ち物の1つ1つに魔法かけとくなんてっ!」
それ常識どっかに落っことしてきたアンタが言う?ーー生まれつき欠けてるのかもしれないけど。
「それはこちらの台詞です。教科書一冊にどれだけの手間が掛かってるかご存知ですか?」
「はっ…?」
「教科書というものはまず1番先に元になる文を古い沢山の書物から私達の参考になりそうなものを抜き出しーーこれだけで大変な手間ですのよ?我が校の図書室だけでどれだけの本があるかご存知?2年間毎日1冊や2冊や3冊読んでも到底読み切れないくらいありますのよ?」
「は、は、あ…?」
縦ロールさんは目を白黒させている。
「そうして幾つか用意されてきた資料をさらに教科書の選定員たる方々が厳選し、その上で生徒たちにわかりやすい形になおして…ーここまで でどれだけの手間と労力が掛かってると思います?しかも ですよ?これで 終わりではありません。そこから教科書1冊に収まるように文脈を削ったり或いは表現がわかりにくいところには捕捉をした上で漸く元となる原稿が出来上がります。が、ここからが大変です。幾人もの文字のプロと呼ばれる方たちが次々にチェックし誤字などがないか確認するのです。生徒が間違って覚えてしまったら大変ですからね?そこからまた製本まで」
「ーー何が仰りたいのよ?!」
縦ロールさんがキレた。
けど、頓着してあげる気はない。
「それをこれだけの生徒全員分の数用意するのにどれだけ手間と労力がかかってるか考えたことあります?」
私だって怒ってるんですよ?
「ーっ?!」
「確かに我が男爵領は王都から見れば田舎です。私は庶子で、下町育ちです。だからこそ知っています。教科書にしても貴女達を着飾ってる物も、私達が食べている物1つとっても、作っている人がいて初めて成り立っているのですよ?そんな領民の、町で働く人たちの努力を知っているからこそ、我が家では"物は大切に使う"というのが家訓ですの。この制服も、学業に必要な物も、父 男爵が与えてくれたもので私自身の力で手に入れた物ではない。壊したり無くしたり(盗まれただけなら主の手元に戻る。ただしより強力な魔法に遮られている場合その限りではない)してしまったら申し訳ない、と言う想いで念のためにかけておいたのです。ーーまさかわざわざ壊す人がいるとは思いませんでしたが」
名門たる学園でこんな真似してるとか。
高位貴族ほど痛いよね?此の手の醜聞。
「ーーっ!」
まあ保険(魔法)かけたのは一度壊されたあと、1番手を出しやすい場所に置いてあるこれらの物だけに限りますし、うちにそんな家訓はないですけどね?
そんな家訓なくてもみんな物を粗末にしませんから、あなた方と違って。
「そ、そうですの」
令嬢はどもった声で髪を弄りながら言葉に詰まる。
「ーー弁償すればよろしいのでしょう?」
と目を泳がせたまま言う。
全っ然わかってないな。
まあ、元々嫌がらせ止める(ついでに暴く)為だけに張っといた魔法だけどー…有耶無耶には終わらせませんよ?
「つまり、壊した上で知らない振りで笑っていましたのね?」
「なっ…何よ!たかが田舎男爵の娘のくせに」
「そんな話はしていません。壊した上で誰かの恨み買ってるのね、なんて笑って楽しいですか?」
「っ、………」
沈黙がおりる。言い返されると思っていなかったのだろうが、ここでやめてあげる程私は優しく__もとい、まめな人間ではない。
毎回相手にするのは面倒なのでここで終わりにしてもらうため、私にこういう事しやがったらこういう目に遭いますよーと知らしめる為、徹底させていただく。
「この際だから申し上げておきます。あなた方がいくら私を見下そうと構いませんがーー両親を馬鹿にする事は許しません」
「なんですってっ?!いったい何の権限があってー…」
「貴女こそ、何の権限があって他人の親を馬鹿にするのですか?ーー学園にいる間は皆いち生徒のはず。私に限らず貴女が誰かの親を馬鹿にする権利はありません。あなた方のやってる根拠のないただの子供っぽい嫌がらせはこれ限りにして下さい」
まともに勉強してる人に迷惑でしょーが。
「言わせておけばっ…!あなたのそれはただ手が滑って落っことしただけよ!わざわざあなたごときを相手にそんな事する訳ないでしょう?!」
「そ、そうよ!手が滑っただけよ!」
「そんな事あげつらうなんてどうかしてるわ!」
我が意を得たり、とばかりにロール仲間さん達も喚き出す。
「つまり、手が滑って粉々になるまで踏んづけたりばきばきに折ったりしてしまったんですね?ーー随分そそっかしい手や足ですこと」
笑って言えばさすがに黙る。
「まあ、今回はそういう事にしておきます。次回から気をつけて下さいね?それからーー5人揃って手や足を滑らすなら1人で行動されては?」
訳:こんな稚拙な嫌がらせくらい、1人でやれ。
である。
が、
教室外から人が駆けてくる気配を感じとって私は目の前のご令嬢の手元の筆記具をはたき落とした。
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