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ヒロイン、入学する(not 出会いイベント)

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伝説の乙女~薔薇の祝福~

*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

男爵家の令嬢は急いでいた。
実家から余裕を持って出たつもりが運悪く途中の道で馬車が事故に遭ってしまい、前夜に着いてる筈が到着が遅れ、今日は入学式がもうすぐ始まってしまう。
学園の門に漸く着くと、彼女は勢いよく馬車から飛び降りた。

そこに、生徒達を無駄に騒がせないように敢えてギリギリに登校した王子達(婚約者やギルバート達は伴っていない)と出会う。
すたん、と目の前で馬車扉から綺麗に着地した少女は降り注ぐ春の陽射しと相まって背中に羽根でもあるかのようで、王子たちは目を見張る。

出会いがしらの無礼を慌てて詫びる令嬢に、
「ーーまるで天使が舞い降りたかのようだな…」
と王太子は呟き、
「本当だ。君、名前は?」と双子の弟王子も名を問い(ここで好きな名前をプレイヤーが登録する)、「僕たちも入学式の会場に向かうところなんだ。一緒に行こう?」と優しく微笑み、共に会場に向かう。
王子達にエスコートされて到着した入学式の会場でギルバート、アレックスとも出会い魔法学園で彼らと共に学ぶ生活が始まるー…

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

___と、本来ならなる筈の入学式。



アリスティアは急いでいた。
攻略対象たち彼らと出会わなくて済むように。

王子達はギリギリって事は私は早目に行けばエンカウントしなくて済むって事よね?と、朝門が開くのと同時に学園へ足を踏み入れようとしたのだが。

「おはよう!メイデン嬢。早いんだね~僕たちも早く着き過ぎちゃったんだけど」
それは良い笑顔でチャラ王子が目の前に現れた。

何故だ。

固まる私の更に横で、
「おはよう。今日から学友となるのだな。無事来てくれて良かった」
と呟く王太子。

 なんだその挨拶?
 
意味不明の台詞を吐く王太子に目をやると、
「おはようメイデン嬢。今日からよろしくね」
とにこやかに言う悪役令嬢ミリディアナ様__の背後にカミラ様とギルバート。
全員揃ってやがる(あ、アレックスがいない)。
そんな彼らのさらに背後を見やると彼らを乗せてきただろう馬車と家来さん達。

まさか"出待ち"ならぬ"私待ち"をしていた…とか。
(いやこれは自意識過剰か、自意識過剰だよね?)
 と気をとりなおして、
「おはようございます。王太子殿下、王子殿下、シュタイン公爵令嬢、カルディ侯爵令嬢、クレイグ様。入学前に沢山の贈り物を届けて下さりありがとうございます」
 と深々とお辞儀をした。
「えー…と?何度か会ってるのになんでそんな他人行儀なの?」
と顔をひくつかせるアルフレッドと、
「そうだ。同じ生徒なのだからー…」
と続ける王太子に、
「まあ。(タダで使える小間使い扱いしといて何言ってやがる)身分の者が数回挨拶を交わしただけの皆さまのような方に親しげにお声掛けする なんてとんでもない(御免被るっつの)。こちらこそよろしくお願いいたします。では御前失礼いたします」
 とその場を離れた。



「えぇー…」
置いて行かれたアルフレッドの間の抜けた声は朝の空気に溶けて消える。
「…やられたわね」
 入学前の使者は逆効果だった彼等はヒロインの読み通り待ち伏せして接触をはかっていたのである。
 学園内は一応"学園内において生徒は皆平等である"という建前がある。
故に学友同士は名前で呼び合うのが一般的とされている。
 彼らの場合王太子なら通常がアッシュバルト様、親しい者ならアッシュ様、もっと親しくなったらアッシュと呼び捨てーー尤も王太子であるアッシュバルトをアッシュと呼ぶのはプライベートでのアルフレッドくらいだが。
 この双子は顔立ちこそ そっくりだが王太子が人を寄せ付けない無表情なのに対してアルフレッドはにこにこと人懐こい笑みを浮かべてるのでまるで雰囲気が違う。
アルフ、と呼ぶ人も多い。
もちろん、身分の差やそれに伴う考えや態度の差は度し難いものであるから許容出来ない者が名前呼びを拒絶しても 逆に畏れ多い、と敬称を変えられなくても罰則があるわけではない。

 だが、今のは。

 私の方は親しげにお声掛けしませんからそちらも掛けないで下さいね?という意思を明確に感じた。
 本来なら、出会いイベントの(筈の)場面で一線を引いた付き合いを宣言されてしまった形である。

 

思惑が外れてしおしおと出席した入学式が済み、すぐに生徒会役員が任命された。
が、ここでも彼らの思惑は外れることとなる。

この学園は2年制で、役職付きは2年生のみ。
1年は全員が補佐である。
成績上位者から生徒会に指名され、補佐を務めた役員の中から次の生徒会長達が選ばれ、役職に付かなかった者もそのまま補佐(補佐の人数は限定されていない)を務めるのがこの学園の生徒会の仕組みだ。
 王太子、アルフレッド、ミリディアナ、カミラ、ギルバート、アレックスらは当然指名され役員になった。
 ヒロインであるアリスティアも指名されたが、「私には荷が重すぎます」と辞退してしまったのだ。
 指名されても強制ではないので断るのも自由だが"この学園で生徒会役員を務めた"というのは一種のステータスなので断る者はほとんどいない。
皆無と言っても良い。
 そもそもゲームのストーリーでは一緒に生徒会室に毎日通い、攻略対象達との絆も深まって行く予定のはずで。

「なのにっ!辞退ってどういう事?!あの娘の成績なら生徒会やりながらだって余裕じゃない?!お城と同じ面子付き合わせてどうするのよっ?!」
「まあ、カミラの言うところの"好感度グラフがマイナス"の今の状態なら無理ないんじゃない?元々成績が下がったら除名されるのが通例の役員の指名を"学業と両立させる自信がありません"て理由での辞退は認められてるんだし」
「っそうよ!だからせめて入学式での出会いくらい似た演出になれば と思ったのにー…やっぱり王子達だけにするべきだったかしら?男共がダメなら女友達から と思ったんだけどー…」

 確かにカミラとミリディアナは離れの宮での苛めに加担してはいないが、どちらかと言えば元凶に近い。
自業自得ではあるがアリスの警戒レベルは全員に対してMAXのまま である。

そして、彼女の警戒体制は"生徒会を辞退"だけではなくあらゆるところで発揮された。

 まず、同じ学内なのに会わない。
 たまに被る幾つかの授業中を除けば、それこそ逆に被る授業(それすらギリギリに教室に入ってくるうえ終了と共に出ていくのが早すぎて声をかける間もない)がなければ毎日ちゃんと来てるのか 疑ってしまうくらいのレベルで姿を見かけない。
 廊下ですれ違う事もなければ図書室で見かける事もない。
昼休みすら、ランチは食堂でも良いし購入したものを中庭で広げたりカフェテリアでとったりも自由で、彼らもその日の気分であちこちで昼食をとるのだか、見かけた事が一度もない。
他の生徒にきいてもわからない、そういえば見かけない との答え。
一体どこでどうしているというのか?
「凄いよねーあの娘」
「…笑って言う事か」
「笑うしかないじゃーんだって、いくら避けようとしたって同じ学内なんだし普通いやでもエンカウントしちゃうもんなのに完璧に避けてるって凄くない?」
「ーーそうね。完璧だわ」
「へぇ。カミラでもそう思うんだ?」
「だって私達とのマナーレッスンですら声をかける隙がないのよ?」

 この学園のマナーレッスンはもちろん男子・女子に分けられていてさらに初回レッスンで学年に関係なく初級・中級・上級に分けられる。
人数に制限はなく完全に当人のレベルに合わせて分けられる為中級が1番多く、その次に初級、上級クラスは求められるレベルが高いので本当に僅か一握り。
もちろん上達すれば就学中にクラスがあがったりする場合もあるが下がる事はまずない__はずである。上級なら尚更。
そんな訳で現在の上級クラスは僅か10名。うち新入生はミリィ、カミラそしてアリスティアを含む5名。
「ヒロインは(ゲームでは)中級クラスだったのに…」
「しかも中級ギリギリだったはずよね?マナーは苦手って」
「ええ…そのはず、だったのだけど…」
「初めて会った時から綺麗に出来てたじゃない?最初の挨拶だけきちんと練習してきただけなのかとも思ったんだけど…」
「ーーそれは僕も思った。アレ?想像してたのと違うって。で、実際のレッスンではどんな感じ?」
「基礎はその辺の令嬢なんかよりよほど完璧。ミセス・ラッセルは厳しいから注意も良くされるけれどあの娘は同じミスはしないし上達も早い」
 カミラが手元のカップを持ち上げながら言う。
「その指導を受ける際の態度は?」
 という王太子の質問に2人は顔を見合わせて、
「「あのクールなマダムがつい熱くなっちゃうくらい、熱心」」
 という声が揃って返ってきた。
「…そもそも行儀見習いなんて必要なかったんじゃない?あの娘」
「向こうもそう思ってるわよ。だって、」


 
あの時一緒に、いやほぼ一緒ではなかったが、行儀見習いに来ていた令嬢は全員が中級だった。
 私はといえば家で教わっていた教師にお墨付きをもらっているとはいえ、この学園でどの程度通用するのかはわからなかったがー…出来ればミリディアナとカミラあのふたり一緒になるのは避けたかった。
避けたかったので、最初のクラス分けが決まる授業でミスをしようか とも思ったが、それでは熱心に教えてくれた先生に申し訳ない。
何より、教師を付けてくれた父に申し訳が立たない。
ついでに彼女らが、
「あの方、私達と一緒にお城に行儀見習いにあがっていたのにレッスンをサボってばかりいらしたのよ」
「まあー…令嬢とはいっても所詮は田舎の男爵家の庶子ですもの。お城のレベルには付いていけなかったのはわかるんですけれどね?」
「いくらお顔がお綺麗でもやはりそれだけではー…ねぇ?」
と変わらずクスクスやってたのがうざかったので全力でやった。
その結果私は上級クラスに決まり、彼女らはミセス・ラッセルのきつい目に若干萎縮しつつも胸を張って(いや張ってもあんまり胸なかったけど、制服だとコルセット付けらんないし?)こなしたものの「ー基本がなっていませんね」と一刀両断され固まったのと、私が上級クラス、と判断された時の青褪めた顔は見ものだった。
やって来た事は無駄ではなかった、と胸を撫で下ろしもした。

だが、それはそれであらぬ恨み(逆恨みにすらなってないが)を買ってしまったらしい。
 その後すぐに彼女らを筆頭に下位の者への洗礼とも言うべき嫌がらせが始まった。

確かあの令嬢がたアレらは私と違って妃候補としての見極めも兼ねて とかゆってなかったっけ?
だとすると王太子とギルバートにはもう婚約者がいるわけだからアルフレッドの妃候補って事になるが、…ひと言いわせてもらって良いですか?

趣味悪。





*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

♕ひと口メモ……ミセス・ラッセルとキオ恋のマナー講師ミセス・エッセルは血縁者です(笑)
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