ヒロインはゲームの開始を回避したい(第一章 完結)レジュール・レジェンディア王国譚 転

詩海猫

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ヒロインはヒロインをやる気がない 2

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そして、意気揚々とアリスティアが部屋を辞した後、残された人々は。

「……やりすぎたね」
「だが、目的は達成出来たろう。これでミリィの不安も解消されたのだから喜ぶべきかもしれん」
「馬鹿言わないで!〝大いなる災厄〟は私達が在学中に訪れる事がほぼ確定的になったのよ?!その時に超希少魔法を顕現する可能性の高い彼女がいるのといないでは大違いだわ!それをわかってて言ってるの?!」
と怒鳴りつけたのは次期騎士団隊長ギルバートの婚約者、カミラ・カルディ侯爵令嬢。
「あー…」
そうだった、誰ともなく声があがり、全員が「しまった」という顔になる。
件の情報はなに分先程降りてきたばかりなので、皆脳に染み込んでいなかったのだ。
「とにかくギル、直ぐに部下に命じて彼女が馬車を使おうとしたら適当に言い繕って出さないようになさい!それから彼女の教育にあたってた人物のリスト作成!早く!」
 婚約者に命じられて慌ててギルバートが去ると、
「まず、女官長辺りからかな?」
「そうだな、女官長を呼べ」
と双子が頷きあった。



やって来た女官長に話をきき、部屋にいた面々は頭を抱えた。
「ええ。とにかく甘やかさないように、との殿下のお達しの通り厳しく指導致しましたわ」
「その厳しく とは具体的にどんなものだ?」
「朝食後、同時間帯に食事をした者全員の分の後片付けから皿洗いまでしておくように言いつけました。働かざるもの食うべからずでしょう?マナーレッスンにはそれが終わったら行って良いと言っておきましたよ」

___終わるわけがない。
それは本来、台所勤めの女官何人かでやる仕事だ。
女官長は朝の仕事以外は夜に繕いものを言いつけるくらいだ と言っていたがその繕いものの数もまた多かった。
夜にそれを渡され朝までにやっておくように と言われたなら寝る間もなかったろう。
 他にも、図書室では雑務と資料整理、図書室とその他執務室への資料運びで何往復もさせ、彼女が図書室で勉強したり本を読んだりしているところは見た事があるか?との問いには揃って見たことがない、という答えが返ってきた。
 さらには他の侍女や女官達も丁度良いとばかりに彼女に雑用を押し付けサボってた事が発覚し、王子達は頭を抱えた。

「何て事だ……」
「これじゃーただの苛めだよね。彼女良く二カ月もったよね?」
「人ごとみたいに言うな!」
「実際人ごとみたいなもんだと思うけどね。兄さんが溺愛する婚約者の為に仕組んだことなんだし?」
「言うな……」
確かに、ヒロインだという事をハナにかけて大きな顔が出来ないように、と各所に厳しく接し、“決して甘やかすな“と通達を出したのは自分だ。
 だが、何をさせても良いなどと言ったつもりはない。ないのだが、同じ事だ。
彼女は数々の仕打ちに耐えかね、学園入学まで知らないうちに取り下げてこちらとの縁を切ろうとしている。

 それは困る。

 彼女が学園生活中に発動する希少魔法はこの国にとって重要な意味を持つ。

 とにかく早々に謝罪をし、機嫌をとって学園へ入学してもらわなければ。
 そう思って彼女の部屋に使いをやると、
「あの子ならもう出てったわ。この部屋はわたしがもらったの」
と言う。
 
驚いて女官長にきくと、今日中に出て行くと言っていたが“殿下がたが使いをやるから部屋で待つように との伝言はきちんと伝えた、言われた通り仕事も言い付けてない“との返答があり、ますます王太子達は混乱した。
極めつけは馬車所に確認したところ言われた通り追い返したがその際、
「どこまでやれば気がすむのか?」
という旨の発言をしていたとの事__ますます不味い。

 だが何といっても美貌の彼女は目立つ。城中に聞き回ったところ、
「ああ、あの子なら出て行きましたよ。昼前だったかな?この通用門から。今日もお使いかい?てきいたらうぅん、もう実家に帰るのって言うから。狙ってたヤツ多かったんスけどねぇ。馬車を借りなかったのか、てきいたら私みたいな者に貸す馬車はないって言われたって。ちょっとヒドいっすよねー。あの子可愛いし良くお使いに出されてたけど俺たち門番にもいつもお疲れ様ですって挨拶してくれるいいコだったのに。とにかく充てがわれてた部屋ももう次の娘が入ってお前のいる場所はないって言われちゃったから帰るしかないって。もう会う事もないと思うけどお元気でって挨拶されましたよ」
との報告をうけ絶句した。

 そんな事までさせられてたのか。
そのせいで門番には完全に小間使いとして認識されていたとは……更にはその門番にもう会う事もない、と告げたという事は。
二度とこの城へ来るつもりはない、という意味だ。

「捜索隊を出せっ!」王太子は即座に命じた。



当の本人アリスティアは捜索されてるとは夢にも思わず、宿屋の一室で疲れた足を休めていた。
昼前から歩き出して、昼過ぎにカフェで休みながら食事を取り、辺りが暗くなり始めると同時に宿探しを始めて極めて全うな商売をしてるであろう女将さんの仕切る宿に一室を取った。
 意地だけで夜通し歩き続けて身を滅ぼすほど愚かではない。
この辺りの地図は頭に入っているし、ここらへんに宿や店があるのを承知で、元々一泊かけて歩いて帰るつもりで出たのだ。
 
あれだけ働かされて給金などびた一文貰っていないが、元々実家は裕福である。
手持ちの荷物にも帰る旨を告げた手紙の返事にも、お小遣いは添えられていた。
それに自分は下町育ちだ。全うな宿とそうでない宿の区別くらいつく。
あの人たちみたいに温室育ちではないのだから。

仲良く出来ると思ってた人達にあそこまで冷たくされたのはショックではあったが、元々会ったばかりの他人なのだ。
これ以上気にするのはよそう。

そう思っていたのに、いきなり宿の階下が騒がしくなり、やがて私の部屋のドアがけたたましくノックされた。
(え?まさか野盗?!)
咄嗟に身構えたががきこえてきたのは、
「アリスティア嬢!いるか?!」
と叫ぶアルフレッド王子の声だった。
「…………」
正直足も疲れているし無視したかったが王子が相手ではそうもいかない。宿にも迷惑だ。

仕方なくドアを細く開け、
「ーーまだ私に何か?」
迷惑そうな表情を隠そうともせず尋ねる。
「メイデン嬢!無礼であろう!」
五月蝿い。
この騎士絶対私のこと嫌いだろう、私も嫌いだムカつく。
あんた達は馬とか馬車とか魔法だろうけど、こっちは徒歩だっつの。
「良い。黙れギルバート。今の場合こっちが悪い。淑女を尋ねる時間ではない……無事で良かった」
 心底ホッとしたように見えるが私の心は動かない。何しにきたんだ?
「すまない。君がどんな扱いを受けてたか調査してるうちに君は城を出て行ってしまってーーしかも徒歩で。夜は王都でも危ないのに何て無謀な と思ってね。こんなにちゃんと宿を取ってるとは思わなかった」
馬鹿にしてるの?
「わざわざそれを確認に?」
「面白い事言うね」
どこが面白いんだ。
「まあ、詳しい話はあとだ。とにかく一旦城へ戻ろう。」
フレッド王子が手を延ばすが、私はその手をとらない。
「何を言ってるんです?あのお城は、私の帰る場所などではございません」
あの城は王子達にとっては家だろうが私には違う。

私が帰るべきなのは、この人たちがバカにした田舎の男爵家なのだから。
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