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学園祭が終わって二週間後の日曜日、瑠璃たち読書クラブの部員一行はとある屋内型テーマパークの一角に集合していた。
ゼノ曰く「自分のせいで開けなかった打ち上げの代わりに」と、部員全員を招待したのはこの屋内型施設に初導入されたVRゲームの関係者向けプレオープン。
瑠璃はこういったゲームに馴染みがないのでピンと来ていないし、零は無表情のままだが、他の部員たちは皆興奮気味だ。
「これ、テレビで見た……!国内初の技術の結晶だって……!」
「関係者向けプレ後の一般チケットは半年先まで完売って聞いたぞ、マジか!」
と言った具合で皆一様に感動し、
「さすがゼノくん……」
「ありがとうゼノくん!」
と感謝している。
当のゼノは、
「いや、オーナーも関係者だけでなく若い人たちの体験談も聞きたいから友達を連れてきてくれって頼まれてたのに便乗しただけで何もしてないから」
と困惑顔だ。
(ここのオーナーって、確かゼノ様がCM契約してるゲーム会社の社長だよね。こんなこと直接頼まれたりするんだ?)
そんなことを思いながら瑠璃はゲームの案内に目を通して行く。
このゲームはいわゆる“剣と魔法“の世界を全身で体感出来るというもので、プレイヤー自らが剣か杖を持ち、迷路に入って行くと現れる敵を倒して進んでいく体感RPGのようなものだ。
プレイヤーが手に持つ剣ないし杖がコントローラーになっていて、敵を倒せばポイントがついたり、回復アイテムをドロップしてHPが回復したりする。
もちろん敵は攻撃してくるので避け損ねたり魔法の発動が間に合わなかったりすればダメージを負う。
HPがゼロになったりプレイヤーが手にした武器にリタイヤを宣言したりすればゲームオーバー、というものである。
プレイはペアか単独のみで、ゲームはもちろんそもそも敵を斬ったり魔法で攻撃したりが苦手な瑠璃に“ソロ“なんて選択肢があるはずもなく。
「零、」
一緒に、と言おうとしたところで、
「橅木さん、僕と組まない?」
と声がかかった。
で、
「えぇーー?!なんで?」
今、瑠璃はその仮想世界の中で一人ぼっち迷い子だった。
“自分と組まないか“と言ってきたのは同じ二年生の部員で、トニーの親友のリフ役をやっていた生徒だった。
「「は?」」
と瑠璃と零が異口同音で返すと、
「僕も良いと思うな」
とゼノが加わってきた。
「__なんでお前にそんなことを言われなきゃならないんだ?」
「いや、知り合ったばかりの僕からしても君達の距離感って異常な気がするんだ。二人が付き合ってて将来の約束までしているっていうなら問題ないけど、橅木さんは“付き合ってない“って言ってたよね?それなら、もう少し違う人間と関わる時間を増やしたらどうかなって」
ゼノの言に、零は一瞬言葉をなくし、瑠璃は(い、異常……?)ずっと一緒にいたので正解が分からず、零の顔を不安そうに見やると、
「大丈夫ですって!俺ゲーム得意っすから!橅木さんは魔法使いで防御に徹しててくれれば敵は俺が倒しますから!」
「いや、瑠璃には無理だ」
押し切ろうとする部員に零が待ったをかけた。
「瑠璃はこういうのは苦手だ。敵が仮想だとわかってても、躊躇わずに攻撃なんて出来ない。知らないヤツとそんなとこに入るのは無理だ」
「だーから敵は俺が倒すって言ってるじゃないすか……!それになんですか“知らないヤツ“って、同クラの仲間なのに俺未だにお二人には“知らないヤツ“なんすか?」
「いや、悪い。そういうわけじゃ、」
「なら良いじゃないですか、ゼノくんも言ってたけど、副部長って橅木部長に過保護すぎません?」
「……お前……」
いつもより妙に絡んでくる同級生に零は何か思うところがあったようだが、口には出さず、代わりに瑠璃が「私、見学がいい……」とぼそっと声に出した。
読書クラブ部員十二名のうち、先日怪我をした生徒を除いた部員は十一名。
一人が見学に回れば全員ペアを組めるので悪くない案だと思ったのだが、
「えぇー橅木さんそんなに俺と組むの嫌なんすか?ショックなんですけど」
「人数のことなら心配しなくて良いんだよ?僕がソロにまわるから、他の皆はペアを組めば良いと思う」
「なんでお前が決めてんだよ?元々ソロで行きたいってヤツもいるかもしんねぇのに?」
「君みたいに?」
「俺の話をしてんじゃねぇ、なんでお前が仕切ってんだって話、」
「ちょ ちょちょ、やめなよ亜城くん……!ゼノくんの招待で来てんのに!」
「頼んだわけじゃない、部の行事だから来ただけだ」
「そんな!皆楽しみにしてたんだよ?」
「ああ悪かったな、皆で楽しめ。俺も喧嘩がしたいわけじゃない、帰るぞ瑠璃」
「うん……」
(こんな雰囲気じゃ、皆が楽しめないよね……それにこんな暗い迷路に零以外の人と入るのはやっぱり不安だし)
「「え」」
ゼノ曰く「自分のせいで開けなかった打ち上げの代わりに」と、部員全員を招待したのはこの屋内型施設に初導入されたVRゲームの関係者向けプレオープン。
瑠璃はこういったゲームに馴染みがないのでピンと来ていないし、零は無表情のままだが、他の部員たちは皆興奮気味だ。
「これ、テレビで見た……!国内初の技術の結晶だって……!」
「関係者向けプレ後の一般チケットは半年先まで完売って聞いたぞ、マジか!」
と言った具合で皆一様に感動し、
「さすがゼノくん……」
「ありがとうゼノくん!」
と感謝している。
当のゼノは、
「いや、オーナーも関係者だけでなく若い人たちの体験談も聞きたいから友達を連れてきてくれって頼まれてたのに便乗しただけで何もしてないから」
と困惑顔だ。
(ここのオーナーって、確かゼノ様がCM契約してるゲーム会社の社長だよね。こんなこと直接頼まれたりするんだ?)
そんなことを思いながら瑠璃はゲームの案内に目を通して行く。
このゲームはいわゆる“剣と魔法“の世界を全身で体感出来るというもので、プレイヤー自らが剣か杖を持ち、迷路に入って行くと現れる敵を倒して進んでいく体感RPGのようなものだ。
プレイヤーが手に持つ剣ないし杖がコントローラーになっていて、敵を倒せばポイントがついたり、回復アイテムをドロップしてHPが回復したりする。
もちろん敵は攻撃してくるので避け損ねたり魔法の発動が間に合わなかったりすればダメージを負う。
HPがゼロになったりプレイヤーが手にした武器にリタイヤを宣言したりすればゲームオーバー、というものである。
プレイはペアか単独のみで、ゲームはもちろんそもそも敵を斬ったり魔法で攻撃したりが苦手な瑠璃に“ソロ“なんて選択肢があるはずもなく。
「零、」
一緒に、と言おうとしたところで、
「橅木さん、僕と組まない?」
と声がかかった。
で、
「えぇーー?!なんで?」
今、瑠璃はその仮想世界の中で一人ぼっち迷い子だった。
“自分と組まないか“と言ってきたのは同じ二年生の部員で、トニーの親友のリフ役をやっていた生徒だった。
「「は?」」
と瑠璃と零が異口同音で返すと、
「僕も良いと思うな」
とゼノが加わってきた。
「__なんでお前にそんなことを言われなきゃならないんだ?」
「いや、知り合ったばかりの僕からしても君達の距離感って異常な気がするんだ。二人が付き合ってて将来の約束までしているっていうなら問題ないけど、橅木さんは“付き合ってない“って言ってたよね?それなら、もう少し違う人間と関わる時間を増やしたらどうかなって」
ゼノの言に、零は一瞬言葉をなくし、瑠璃は(い、異常……?)ずっと一緒にいたので正解が分からず、零の顔を不安そうに見やると、
「大丈夫ですって!俺ゲーム得意っすから!橅木さんは魔法使いで防御に徹しててくれれば敵は俺が倒しますから!」
「いや、瑠璃には無理だ」
押し切ろうとする部員に零が待ったをかけた。
「瑠璃はこういうのは苦手だ。敵が仮想だとわかってても、躊躇わずに攻撃なんて出来ない。知らないヤツとそんなとこに入るのは無理だ」
「だーから敵は俺が倒すって言ってるじゃないすか……!それになんですか“知らないヤツ“って、同クラの仲間なのに俺未だにお二人には“知らないヤツ“なんすか?」
「いや、悪い。そういうわけじゃ、」
「なら良いじゃないですか、ゼノくんも言ってたけど、副部長って橅木部長に過保護すぎません?」
「……お前……」
いつもより妙に絡んでくる同級生に零は何か思うところがあったようだが、口には出さず、代わりに瑠璃が「私、見学がいい……」とぼそっと声に出した。
読書クラブ部員十二名のうち、先日怪我をした生徒を除いた部員は十一名。
一人が見学に回れば全員ペアを組めるので悪くない案だと思ったのだが、
「えぇー橅木さんそんなに俺と組むの嫌なんすか?ショックなんですけど」
「人数のことなら心配しなくて良いんだよ?僕がソロにまわるから、他の皆はペアを組めば良いと思う」
「なんでお前が決めてんだよ?元々ソロで行きたいってヤツもいるかもしんねぇのに?」
「君みたいに?」
「俺の話をしてんじゃねぇ、なんでお前が仕切ってんだって話、」
「ちょ ちょちょ、やめなよ亜城くん……!ゼノくんの招待で来てんのに!」
「頼んだわけじゃない、部の行事だから来ただけだ」
「そんな!皆楽しみにしてたんだよ?」
「ああ悪かったな、皆で楽しめ。俺も喧嘩がしたいわけじゃない、帰るぞ瑠璃」
「うん……」
(こんな雰囲気じゃ、皆が楽しめないよね……それにこんな暗い迷路に零以外の人と入るのはやっぱり不安だし)
「「え」」
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