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「今日は転校生を紹介する」
入って来るなり担任が告げ、教室がざわめく。
今は二年生の十月だ。
学期の変わり目でもなく、校内が学祭に向けて動き出している今のような時期の転校生は珍しいからだろう。
が、
件の転校生が教室に入って来た途端、皆の驚きは別のものへと変化し、次いで狂喜の悲鳴に変わった。
「う、嘘ぉーー!剣城瀬音ーー!?」
とクラスの中でもミーハーな女子が叫び、その悲鳴が次々に連鎖した。
主に女子生徒に。
例に漏れず瑠璃も、
「本物の、ゼノ……?!」
と目を見開いて驚愕していた。
「初めまして。剣城瀬音と言います。仕事の都合で通信教育を受けてましたが、やはり一度しかない高校生活を同年代の人達と過ごしたいと思い、こちらに通わせてもらうことになりました。どうぞよろしく」
そう挨拶して席に着いたゼノこと剣城瀬音は当然休み時間になった途端多くの生徒に囲まれた。
瑠璃も近くで見たかったがあの囲いを突破するほどの強心臓は持ち合わせていない。
仕方なく自分の席で耳だけを澄ます。
「ねえねえゼノ、いえ剣城君はクラブ活動とかどうするの?仕事が忙しいからやっぱ帰宅部?」
「ゼノでいいよ。本名呼びにくいでしょ?毎日顔を出すのは無理だけど出来れば入りたいと思ってるよ」
「本当?!じゃあ演劇部とかどーかな?!」
「え、ずるい!ゼノ様なら合唱部でしょ!超歌上手いし」
「いやいや~ダンス部だろ、あんだけ踊れんだから」
男子まで勧誘に加わってる。
やっぱ、自分たちの部に入って欲しいよね。
お近づきになりたいし、もうすぐ学祭だし?
そう思って成り行きを見守っていた瑠璃の耳に、
「お前らいい加減にしろよ」
聞き慣れた険のある声が響いた。
「どの部にしろ今から入部していきなり学祭に出すなんて無茶だろ。どの部も春から学祭に向けて準備してるってのに」
「そ、そりゃそうだけど、ゼノ君だし……!」
ダンス部に誘った男子生徒がしどろもどろながら反論する。
「だから?客寄せになるからって春からもしくは前年度からこの発表に向けて練習してきた生徒の成果披露の場を潰すつもりかよ?それともお前が抜けるから代役やってくれって?」
「そ、それは__、」
今度は彼も反論できず、しん……と辺りが沈黙に包まれた。
(間違ってないけど……)
相変わらず、空気を読まない奴だ。
「えぇと……、君は?」
「亜城零だ」
「亜城くん、ね。君は何部なの?」
「読書クラブ」
「図書委員じゃなくて読書クラブ?それって何するの?」
「図書委員は単に図書司書の手伝いだろ。うちのクラブは本を絵付きで紹介して掲示したり、数人が役ごとに分かれて読み聞かせしたり、学祭でこの一年一番読まれた本のベストランキングを発表したりだ」
「へぇ。面白そうだね」
「地味な本好きの集まりだよ、部員も少ないし歴史も浅い」
「ちょ……!」
間違ってはいないのだが零の言い様に腹が立って反論したくなるが、零の目線で黙殺され、うっと止まってしまった。
が、
「面白そうだね。俺、本が好きなんだ。入部資格は?」
とゼノ様が微笑んで言って来たので瑠璃は別の意味で固まった。
「ポーズじゃなく本が好きで本の補修が出来て読書家な奴」
(へっ……?)
ポーズでなく本が好きで読書家というのは合ってる。
このクラブの発足者は誰あろう瑠璃だ。
いつも瑠璃に付き合って図書館に通っている零がそのまま瑠璃の補佐として副部長になり、“ポーズだけの幽霊部員はとっとと強制退会“というルールを敷き徹底して実行しているので部員は実際少ない。
瑠璃的には、
「本好きならそこまで厳しくしなくても……」と思うのだが零が許さなかった。
「部長は私なのに」と愚痴ったところで何かしらトラブルがあった時に上手く対応してくれるのは零の方なのであまり強く出られないのだ。
それ以前に__本の補修なんて、瑠璃にだって出来ない。
いつ追加されたのだろう?
首を傾げる瑠璃に零は視線を移さず、ゼノを睨むように見ていたが、やがてゼノが口を開いた。
入って来るなり担任が告げ、教室がざわめく。
今は二年生の十月だ。
学期の変わり目でもなく、校内が学祭に向けて動き出している今のような時期の転校生は珍しいからだろう。
が、
件の転校生が教室に入って来た途端、皆の驚きは別のものへと変化し、次いで狂喜の悲鳴に変わった。
「う、嘘ぉーー!剣城瀬音ーー!?」
とクラスの中でもミーハーな女子が叫び、その悲鳴が次々に連鎖した。
主に女子生徒に。
例に漏れず瑠璃も、
「本物の、ゼノ……?!」
と目を見開いて驚愕していた。
「初めまして。剣城瀬音と言います。仕事の都合で通信教育を受けてましたが、やはり一度しかない高校生活を同年代の人達と過ごしたいと思い、こちらに通わせてもらうことになりました。どうぞよろしく」
そう挨拶して席に着いたゼノこと剣城瀬音は当然休み時間になった途端多くの生徒に囲まれた。
瑠璃も近くで見たかったがあの囲いを突破するほどの強心臓は持ち合わせていない。
仕方なく自分の席で耳だけを澄ます。
「ねえねえゼノ、いえ剣城君はクラブ活動とかどうするの?仕事が忙しいからやっぱ帰宅部?」
「ゼノでいいよ。本名呼びにくいでしょ?毎日顔を出すのは無理だけど出来れば入りたいと思ってるよ」
「本当?!じゃあ演劇部とかどーかな?!」
「え、ずるい!ゼノ様なら合唱部でしょ!超歌上手いし」
「いやいや~ダンス部だろ、あんだけ踊れんだから」
男子まで勧誘に加わってる。
やっぱ、自分たちの部に入って欲しいよね。
お近づきになりたいし、もうすぐ学祭だし?
そう思って成り行きを見守っていた瑠璃の耳に、
「お前らいい加減にしろよ」
聞き慣れた険のある声が響いた。
「どの部にしろ今から入部していきなり学祭に出すなんて無茶だろ。どの部も春から学祭に向けて準備してるってのに」
「そ、そりゃそうだけど、ゼノ君だし……!」
ダンス部に誘った男子生徒がしどろもどろながら反論する。
「だから?客寄せになるからって春からもしくは前年度からこの発表に向けて練習してきた生徒の成果披露の場を潰すつもりかよ?それともお前が抜けるから代役やってくれって?」
「そ、それは__、」
今度は彼も反論できず、しん……と辺りが沈黙に包まれた。
(間違ってないけど……)
相変わらず、空気を読まない奴だ。
「えぇと……、君は?」
「亜城零だ」
「亜城くん、ね。君は何部なの?」
「読書クラブ」
「図書委員じゃなくて読書クラブ?それって何するの?」
「図書委員は単に図書司書の手伝いだろ。うちのクラブは本を絵付きで紹介して掲示したり、数人が役ごとに分かれて読み聞かせしたり、学祭でこの一年一番読まれた本のベストランキングを発表したりだ」
「へぇ。面白そうだね」
「地味な本好きの集まりだよ、部員も少ないし歴史も浅い」
「ちょ……!」
間違ってはいないのだが零の言い様に腹が立って反論したくなるが、零の目線で黙殺され、うっと止まってしまった。
が、
「面白そうだね。俺、本が好きなんだ。入部資格は?」
とゼノ様が微笑んで言って来たので瑠璃は別の意味で固まった。
「ポーズじゃなく本が好きで本の補修が出来て読書家な奴」
(へっ……?)
ポーズでなく本が好きで読書家というのは合ってる。
このクラブの発足者は誰あろう瑠璃だ。
いつも瑠璃に付き合って図書館に通っている零がそのまま瑠璃の補佐として副部長になり、“ポーズだけの幽霊部員はとっとと強制退会“というルールを敷き徹底して実行しているので部員は実際少ない。
瑠璃的には、
「本好きならそこまで厳しくしなくても……」と思うのだが零が許さなかった。
「部長は私なのに」と愚痴ったところで何かしらトラブルがあった時に上手く対応してくれるのは零の方なのであまり強く出られないのだ。
それ以前に__本の補修なんて、瑠璃にだって出来ない。
いつ追加されたのだろう?
首を傾げる瑠璃に零は視線を移さず、ゼノを睨むように見ていたが、やがてゼノが口を開いた。
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