(完結済)婚約破棄と叫ぶ前に

詩海猫(8/29書籍発売)

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断罪とは(後)

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皆の動揺を他所に、声をあげたのはミカエルだった。
「お前が、ガブリエラだと……?嘘だろう」
美しく成長したガブリエラを愚かにもこれまで見ようとしなかったミカエルは、驚愕していた。
だが、そんなミカエルの驚愕に付き合ってあげるほどガブリエラはお人好しではなかった。
「ほら、ご覧になりまして?皆さま。この方、私の顔さえ認識していらっしゃらないんですよ、それでいて目の前で堂々と別の女性を口説いたりなさるんですの」

ガブリエラの言葉に、ミカエルの周囲の人が一歩下がって距離をとった。
だが、貴族法に詳しいらしいミカエルの友人の一人が、
「しかしフォンテール嬢、婚約とは家と家での契約。一方的に破棄は出来ないのでは?」
「__いいや、高等法院での手続きは私自らが行った」
そう会話に踏み込んできたのは壮年の男性__フォンテール侯爵だった。
「お父様……」
ここ数年、まともに会話もしてないガブリエラは驚く。

今回のことはガブリエラが一人でやったことだ。
父には知らせていないし、この場に呼んでもいない。
「ミカエルのサインなどなくても、あれだけ公衆の面前で別の女性に甘い言葉を囁きガブリエラを侮辱して回れば証拠は充分だ。高等法院もミカエル・アズデールの有責としての破棄を認めた」
高等法院にミカエルの素行を調査するよう進言したのはガブリエラだが、まさか最後の仕上げを父がやってくれるとは。

あれだけミカエルと結婚させたがってたのに?

そこへあたふたと駆け込んできたのはアズデール侯爵だ。
「フォンテール侯爵!ここに来て破棄とは……!どういうつもりだっ?!」
「どういうも何も貴様がこのバカ息子の暴走を止めなかった結果だ」
「子供たちは高めあってきただろう!?」
「いいや違うガブリエラは自分で自分を磨いてきたのだ!ガブリエラはミカエルを人前で罵ったことはない!引き換えお前の息子はなんだ?!初めて会った時から罵詈雑言を吐き、年頃になったら他の女を口説くのに貶めてまわる始末、気に入らぬならさっさと解消の手続きなりすれば良いものを詫びの一つもいれず ずるずると引き伸ばしてコケにしおって……!それを咎めぬお主もだお主だこのクズ親子め…!」
フォンテール侯爵の怒りにぐぬ、とアズデール侯爵がつまった。

「ここまで娘をコケにされる相手に嫁に出す気はない」
とフォンテール侯爵もガブリエラの味方にまわったのだ。
(あら、それなら縁切りはなしにしてあげましょう。)
「ふふ、一方的に悪口を言い回ったうえお家情報をだだ漏らす貴方は領地経営も政治家も向いておりませんものね?」
と艶やかに笑い、呆然とするアズデール親子を残しその場を去った。



「お前、ほんとにガブリエラ・フォンテール嬢の婚約者だったのか、それなのに知らなかったのか?フォンテール嬢といえば“淑女科の白百合”と有名だぞ」
「えっ……」
「フォンテール様より優れた令嬢などそうそういないだろうに、馬鹿なことをしたものだ、悪いがお前との付き合いもここまでだ」
__この日場内のあちこちで、同じような光景がみられた。



特進科次点のウリエル・マッドもその一人だった。
ウリエルはピンクのふわふわした髪に水色の瞳で、一見すると小動物のように庇護欲を唆る美少女だった。
見かけが美少女なだけでなく、平民出身ながら特進科でミカエルとトップを争い、彼に気に入られて、パーティーでたびたびパートナーを務めていた。
彼曰く、
「婚約者は赤毛でそばかすだらけで垢抜けない上に可愛げもないんだ、俺が何か贈っても返事も寄越さない、君とは大違いだ」
と言っていた。
私の方がずっと美しいと、あんな女よりも私の方が淑女らしいと。
あんな女よりも君の方が似合うと、高価な贈り物を、賛美をくれた。

ガブリエラ・フォンテールといえばアカデミー 一の才女、美しき高嶺の花と有名ではないか。
赤毛?
どこが?
輝くばかりに美しい金髪ではないか。
そばかすどころかシミひとつない肌、優雅な立ち居振る舞いは全ての生徒の手本とまで言われている令嬢だ。

その令嬢を長きに渡って貶めてきたミカエルにもう未来はない__ミカエルと共にいた時間の長い自分も、もしかしたら__ウリエルは青くなって、急いでガブリエラの元に向かった。

「申し訳ありません!私、知らなくて……」
そして、ガブリエラに必死に頭を下げた。
「まともなお披露目もしていませんからね、仕方ありません。十年前初対面で『こんな不細工な女は嫌だ』に始まり十年間、あの方はずっと会えばあんな調子なので不可能でしたの__全く、少しは成長してくれたら良かったのに」
淑女中の淑女にそう言われてしまえば、もう周囲は納得するしかなく、ミカエルはがっくり項垂れた。



婚約を破棄したところで、ここの淑女科を主席で卒業したとなれば良縁など選び放題なのだ。
引き換え、特進科を主席卒業してもミカエルの評判はすこぶる悪い。
顔と成績の良さだけでは許されないこともあるのだよ、クソガキ__いや、クズエルくん?

パーティーは続けられたが、もうミカエルと踊りたがる女性はいなかった。
ウリエルでさえ躊躇して声をかけられなかった。
彼は特進のトップなので、途中退出することも出来ず惨めに立ち竦んでいた。
引き換えガブリエラにダンスを申し込む男性が殺到した。
有力な貴族子弟が多くいたが中には騎士団のトップの王弟殿下までおり、ガブリエラは頬を染めてその手を取った。

その後やがて二人は婚約し、淑女中の淑女と騎士の中の騎士でお似合いのカップルだと多くの賞賛を受け仲の良い夫婦になった。

一方、主席で卒業したものの“人間性に問題あり”とされたミカエルは王宮士官こそ叶ったものの閑職の席を用意され、うだつの上がらない一生を送った。

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感想 5

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みんなの感想(5件)

クレサ
2025.09.16 クレサ
ネタバレ含む
解除
さくら夏目
2024.08.31 さくら夏目
ネタバレ含む
2024.12.26 詩海猫(8/29書籍発売)

一気読みと面白かったコメントありがとうございます!
返信が夏から冬まで持ち越しで申し訳ありませんm(_ _)m
はい、パパはあのまま黙ってたら縁切られてましたね……才女は怒らせたら怖い( ̄▽ ̄;)

解除
きらさび
2024.08.22 きらさび

大天使の名を持つ登場人物達、やるじゃないですか(笑)卒業式は溜飲が下がった、気持ちいい~(´∀`*)ヶラヶラ とっても面白かったです

2024.08.24 詩海猫(8/29書籍発売)

ありがとうございます!
そうなんです、今回は名前もかなり遊ばせて頂きました♪
スッキリしていただけたなら何よりです😁

解除

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