7 / 12
第一章
アルトハーツ・ナイトエル十五歳、帰国する
しおりを挟む「……本当にその姿で行くのか」
二十かそこらであろう金髪金眼の青年が目の前の青年__というにはまだ少し早いが、少年とも呼べない雰囲気を纏った黒髪黒目の男に諦念混じりの声を掛ける。
「あゝ、これなら絶対誰も気が付かないだろう?あとは頼んだ」
黒髪の青年は自分の前髪を弄びながら楽しげに答える。
「お前の事情はひと通り聞いてるから無理もないが……はぁ、母君のところへはちゃんと顔出してやれよ?」
「そうしたいが、あの人にバラすと色々奴らに筒抜けになる可能性があるからなぁ……ま、最初は様子見だな」
黒髪の青年__アルトハーツは、そう言った一瞬後、壮麗な建物__自分が入学する予定の聖マーリン学園の門扉ではなく、そこを見下ろす遙か上空にいた。
今は夜空を映す黒い瞳は、全てを見通すかのように聖マーリンの学舎を睨み据えていく。
「敷地面積は六万坪近く……東京ドーム四つ分強、てところか?無駄に広い気もするが魔法の実践訓練場も兼ねてることを考慮すればコンパクトと言えないこともないか」
呟きながらアルトハーツは聖マーリンの学内マップを脳内に完成させていく。
聖マーリンは魔法使い育成機関であるから、当然強固な結界で覆われている。
それでも、どんな結界にも穴はある。
穴が空いているというわけでなく、何回も張りなおされているもののため、結界の力が弱くなって薄い部分があるということだ。
おそらくあまり人の立ち入らないエリアなのだろう、結界の増強には優先順位がある。
「そういうところほど、有事の際には重要になったりするんだが__ま、俺には関係ないか」
それは国王ひいては王太子の仕事であり、自分には関係ない。
だが、ナイトエルの王族はこの学園を卒業しないと成人として認められないという鉄の掟がこの国にはある。
聖マーリンは五年制で、十五~十九歳までが対象のエリート校だ。
どのくらいエリートかといえば、聖マーリンは受験制であるため魔力持ちの貴族は早ければ三歳かそこらから受験に備えての教育が始まったりするレベルといえば理解してもらえるだろうか、幼い頃から家庭教師を付けるほどの財力がない貴族や商人の子向けの予備校機関まであるといえば、どれだけ狭き門かが想像できるだろう。
そんな学園に、王族は顔パスで入れてしまうのだ。
何故ならそれが“王族の義務“だから。
そんなわけで仕方なく、あのままテレネツィア皇国で留学を続けたかったのを中断してまでアルトハーツは学園の入学に間に合う(ただしギリギリ前夜まで引っ張った)ように帰国したのだ。
何故かって、帰国を出迎えられたりしたら都合が悪いからだ。
城というか、実家でもあるのだが、あまり実家だという感慨もないので、「入学式には間に合うように帰国する」としか知らせず、且つ「知り合いが通学に便利な家場所に住んでいるのでそこに間借りさせてもらうことにした」とだけ知らせておいた。
本来なら城から通っても問題ないのだが、色々都合が__以下略。
アルトハーツは明日の入学式ではスピーチをしなければいけない。
入学時の成績とか関係ない、それが“王族の慣例“だから。
「なーーんで誰も突っ込まないのかね?」
それだけ王族が神聖視されているのか、それともそうしておく方が都合が良いのか__なんだか後者のような気がしなくもないが__「ま、“探査特化“にゃ関係ないか」
アルトハーツは空中で嘯いた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「じゃあ生まれた時魔力がなかったらどうするの?殺されちゃうの?」
幼い時分に無邪気を装ってそう聞いてみたことがある。
「そんなことあるはずがないでしょう。というか、この国の王族でそれはあり得ないわ。王族の遺伝子には予め魔力が刻まれているの。だから貴方も大丈夫、その魔力だって成長すればきっともっと強くなっていくはずよ。だから、」
あの後、母は何て言ったんだっけ?
「ああ、」
『絶望しなくていいのよ』__そう母は言ったんだった。
自分は絶望してあの質問をしたわけではないのだが、攻撃属性でなく探査属性だと判明したことによほどショックを受けた思われ、また母自身もショックだったのだと思う。
兄王子たちはひとりを除き全員が攻撃属性だったし、唯一攻撃属性でない第三王子も防御属性だったから、第六とはいえまさか探査特化の属性が王子に出るなんて思わなかったのだろう。
ごめん、母上。
俺、検査前から自分の魔力が何に特化してるか知ってたんだ。
__だって、探査特化指定したの俺だもん。
11
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。
よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる