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第一章
アルトハーツ・ナイトエル 六歳
しおりを挟む甘かった。
「ご乱心」と叫んだ侍女が大袈裟なだけだと思ってたけど違った。
考えてみたら、母が産んだのは王子ばかりで、女の子が欲しかった王妃からすれば自分は絶好のオモチャ、いや着せ替え人形__あまり変わらない__だったわけで、俺が反抗したら半狂乱になった。
「そんな!ハーツ、嘘よね?あなたには次のシーズンのドレスも注文してあるのよ?!」
知るかンな事。
「ボク男の子だよ?なんで女の格好しなきゃいけないの何かの罰なの?」
一応子供らしく(?)キョトンとした顔で言ってみれば、
「い、いいえ、いいえ違うわ!あなたには何の罪もない、受ける罰なんかあるはずがないわ!ただあなたがあまりに可愛いからつい、」
可愛いからって勝手に性別変えて育てんのは不味いと思うぞ?
オネェに育ったらどうしてくれんだ。
「あなたはまだ小さいし、社交の場に出るのもまだ先だわ?王子として出るようになったら可愛くな…、いえ堅苦しい正装しか出来なくなるのよ?だから今のうちに好きなだけ様々な服装をと思って__」
いま王子の正装なんか可愛くないって言おうとしたよな?
ものは言いようだな、ヲイ。
男ばっかりがそんなに嫌か?いや、俺もむさ苦しいのは嫌いだけどな?
だが、ここで踏ん張らないと幼少期がすべてレースとフリルに塗れて終わる、そっちの方がもっと嫌だ。
がんばれ、俺。
「母上は、男の子の格好の僕が嫌いなの?」
「ち、違うわ!そんなんじゃないの!ただ、赤ん坊の頃のあなたはほんとに天使のようで……それは今もだけれど……それをむざむざ潰すような悪趣、コホン、生かさないような服装を私も皆もさせたくなかったのよ。だってあなたときたら布だけ上質で飾りといえば王家の紋章が刺繍してあるぐらいの産着より真っ白でレースたっぷりのものの方が引き立つんですもの!一才の誕生日には極上のレースを誕生時の倍にしたのよ?それに包まれたあなたはまるで神の手に護られている聖女のようで、これは絶対絵にして後世に残さないといけないと思って画家を選定しようとしたら是非自分にと名乗りを上げる画家がいっぱいいて__」
話逸れまくりだぞ?ていうかヤバい宗教の狂信者みたくなってるぞ?
誰が可愛さ自慢をしろと言った、人の女装絵に残すな。
つまり、六人も産んだのに男しか生まれなかったから誕生した瞬間から女装させてたんだな?
よくある話だが笑えんぞ、とくに俺の場合はなっ!
「僕、もう女の子の格好ヤだ……」
そう涙ぐんだのが功を奏して、俺の女装生活は終わりを告げた。
「よっしゃ!!」
と心の中で快哉を叫び、「男らしく生きるぞ!」と意気込んだのも今は昔。
「まあまあ、今日もふくふくとして可愛らしいこと」
「ほんとに、アルトハーツ様にはついついお菓子を差し上げたくなってしまいますわねぇ」
今日もほっぺをツンツンしながら、侍女やメイドがせっせとお菓子を差し出す。
甘かった。
菓子が、ではない。
俺の目論見が、だ。
三才の頃は俺の可愛さ見たさに母である王妃が頻繁にこちらを訪れており、侍女達も可愛い俺見たさに用がなくても寄ってきていたたため周囲に誰もいないということがほとんどなかったのだ。
だが、俺が「可愛い脱却」のため「女の子の服NG」に加えて「剣を習いたい」と言い出し、男の子のものであっても簡素で動きやすい服装を好んだため、「私達の天使様が……」とがっくり気落ちして用がある時以外人が近寄って来なくなった。
それ自体は別にいい、どんなに可愛い子役でも成長すればただのヒト、はよくある話だ。
よくある話ですまないのはここは王家で、自分が王子だったことだ。
王位継承争いなんてのは上の兄たちだけで関係ないと思っていたのがどうやら違ったらしい。
有力な王子には有力な貴族の後ろ盾があり、さらにはその下に仕える者がいる。
俺の周囲から人がいなくなった途端、その“仕える者“たちからの嫌がらせが始まったのだ。
食事が時間通りに来ないどころか、来たら毒入り。
ギフトなスキルのおかげで毒は検知できるが食べるものがないと普通に困るので自分で取りに行ったら「まぁ何てこと……」といたく同情され甘いお菓子を差し出された。
空腹だったのでそれを物凄く美味そうに食べたのが思えばまずかったのだろう、「お菓子を頬張る姿が可愛すぎる……!」と侍女が悶絶し、それが伝播(電波?)し、俺の周りにはお菓子を手に日参する人(老若男女問わず)が増殖し……、嫌がらせはなくなったが、体重が増加した。
前世でも今世でも、甘いお菓子は当然ハイカロリーである。
三年近い餌付けの結果、俺アルトハーツ・ナイトエルはプックプクの可愛い子豚さんに成長していた。
ついたあだ名は「天使のように真っ白な子豚さん」。
長ぇよ。
あと、“天使“つけりゃなんでも許されると思うなよ?
__そもそも天使と豚は両立しない。
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