『死にたがりの僕は異世界でのんびり旅をする』

本編

36話

　えっ？王家を滅ぼす？隣国に通じている？どういうことなの？わたくしは何も知らないわ。そもそも、なぜわたくしの家が隣国と通じているの？そんなのゲームに出てこなかったじゃない。それに、ヒロインの家が情報収集にたけているなんてこともゲームにでてこないし。

「そういうわけだ。わが国を裏切った者を婚約者などとしてはおけない。しかし、スリマーラ公爵は老獪な男だ。正式な手順で婚約破棄をしても逃げられると思ったからこの場を借りさせてもらった。学園の卒業パーティーとはいえ今年は私や上位貴族の子息が多くいるからな。こんなに大勢の貴族、王族の前で言われれば逃げられないだろう。すでに別室では会場に入場する前の公爵が父上によって捕縛されているだろう」
「わたくしは知りませんわ。もちろん、お父様も隣国に通じているはずがございません」

　きっと、わたくしがいじめず、王太子が毒を飲むこともなかったからこんな冤罪をかけようとしているのね。さっきは思っていたのと違いすぎたから、慌ててしまったけど、そうとわかればあとは最初に考えていたのと同じよ。だって、お父様が隣国に通じているなんてゲームに出てこなかったもの。

「まだ、そういうのですか。すでに十分証拠はあがっておりますし、そろそろ……」

　用意した証拠なんてどうせたいしたものないわ。だってやっていないものね。
　
「ご報告よろしいでしょうか。公爵が……」

　衛兵が王太子に耳打ちしているけど、演技がこまかいわ。

「そうか。今、スリマーラ公爵が自白した」
「えっ？お父様がなぜ？」

　おかしい。おかしい。なぜ？なぜ？どうしてなの？

「バイオレッタ・スリマーラ嬢を捕縛しろ。牢に連れて行け」
「かしこまりました」

　えっ？えっ？公爵令嬢であるわたくしを牢屋になんて。ゲームでもそんなことはされていなかった。牢屋は平民が入るところで、貴族なら城の一室に監禁されるだけなのに。

「やめて、わたくしを誰だと思っているの。公爵令嬢なのよ」

　わたくしが叫んでも、衛兵は無表情にわたくしを捕縛し、床に押し付ける。こんなのゲームになかった。

　そうか、そもそもゲームにない行動をしているのは

「ヒロインだわ。あなたも転生しているのでしょう」

　その瞬間、急にまわりが静かになった。いいえ、違う。時間がとまっているわ。

「ええ、そう。私も転生者よ。今ごろ気づくなんておかわいそうに」
「な、なんなのよ。転生しているならヒロインらしく振る舞えばいいじゃない。なんでわたくしがこんな目にあっているのよ」

　ヒロイン、エマ・アランダとわたくし以外の時間がとまっている。彼女がゆっくりわたくしの方に近づいてくるので、さらに文句を言おうとしたら声が出ないわ。

「……？………」
「少し静かにしてもらいたかったの。時間はとまっているもの、ゆっくりお話ししましょう、バイオレッタ様」

　時間を止める魔法は光魔法よ。ゲームでは王太子が瀕死の状態になっているときに目覚める魔法なのに、なぜ使えるの？そんな状況なかったはず。

「なぜ私が光魔法をつかえるのかって？まあ、それは簡単なことなんだけど、攻略本が出る前に死んだあなたには最初から説明しないといけないわね」

　攻略本？なにそれ。

「ここはゲームの世界であることはもちろんご存じでしょう。そのゲームはとても人気になったわ。そして発売してから2年後に公式の攻略本が出た。そこには裏設定やゲームには出てきていない細かな話がたくさん書いてあるのよ」