えっ!? こんなスキルって嘘でしょ!?

鴻上 紫苑

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本編

79話『康煕と千隼①』

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腕の中にいる千隼は涙ぐみ目の前の彼を下から睨みつけるように見ていた。

生まれて初めての反抗期・・・。 いや、抵抗だ。


「ぼ、僕の知ってる康煕は僕に無理矢理しないし優しくしてくれる・・・。 こんな僕でも好きでいてくれるんだから!! 」

「それは、お前が知らなかっただけで俺自身もお前が知ってる俺も同じ人間だ! 」

「知らないって、なに・・・? 康煕が僕に話さなかったなら知らなくていいってことでしょ! なんで君が僕に話すの!? 僕は! 僕の知ってる康煕以外から彼の話なんて聞きたくない!! 」


瞳に涙をいっぱい溜めながら渾身の思いをぶつける千隼に康煕は愕然とする。

それはそうだ。 彼も康煕で、現実の彼も康煕なのだから当然と言えば当然のことだろう。

それでも千隼の言葉は止まらなかった。

正確には止められなかった。


「ぼ、僕は、幼い頃から優しく手を差し伸べてくれた康煕が好きで、康煕がいつまでも僕の側にいて彼女が一人もできないのは僕の所為だって言われてても気にするなって励ましてくれて、優しい声で僕の名前を呼んで、ありのままの僕で居ていいんだって言ってくれて、頼りきりになってしまうけれど そんな康煕だから好きになったんだもん!! 今の君はどれにも当て嵌まらない! 」

だから、康煕だけど康煕じゃないんだと泣き叫ぶように言葉を紡いでいく。

夢の中だからなのか、堰を切ったように次々と溢れ出す。

どちらも好きな人なのにどちらか片方を批難していることにも気づかず、本人が目の前にいることも忘れるくらい溢れた言葉は彼の心を突き刺していった。


「俺は、不要か・・・? お前の中では、俺は元から存在しないのか・・・? 」

「僕が言いたいのは、好きなのは僕の知ってる康煕だけってことだよ・・・。 今の君は知らないも同然で、そんな人から無理矢理されたら怖いし嫌だよ・・・。 君だって逆の立場だったら同じように思うでしょ・・・? 」

「・・・・・・、だから、俺にはスキルは見せられないってことなのか? 」


千隼は、「うん・・・」とだけ答えて黙ってしまった。



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