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本編
60話『苦い蜜の部屋へようこそ』
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恐る恐る建物の中に足を踏み入れてみると、そこには服を着崩した康煕がいた。
正確には、康煕に似た青年が居たのだが千隼は気づかず声をかけてしまった。
「なんだ、康煕かぁ。驚かさないでよ・・・」
「あ゛?誰だテメェ」
「えっ?」
千隼は康煕に似た青年の口の悪さに硬直してしまう。
その態度に青年は、マジマジと千隼の顔を覗き見て目を細めた。
「ふ~ん。アンタ、可愛い顔してるんだな」
「ふぇ!? な、何言ってんの!? 」
「ふっ、すっげぇ反応。面白れぇ」
アワアワと慌てている千隼に近寄り抱き寄せる。
青年の腕の中は、落ち着くどころかねっとりとした実父と同じ嫌な感じがした。
千隼は思わず、彼を突き飛ばして距離をとった。
「ぁ、ごめん・・・。でも・・・」
カタカタと小刻みに震える体を抱きしめるようにしている。
康煕に似ているのに違う青年に名を問う。
「・・・君は、誰、なの・・・?」
「俺は、康煕。お前が愛して止まない康煕の一部だ」
「!? 康煕がそんなふうになるなんてありえない!だって、康煕は・・・」
「お前が拐かされた後のことなど知るはずないだろ」
「あ、あれは!僕の所為じゃない!! 僕だって何も起こらなければ、あのまま学校に行って、普通に生活送っていたんだ!! 」
「お前の所為だ。お前なんかと知り合わなければ、こんなことにはならなかったんだからな」
愕然とした。
ずっと優しくて頼りになる彼の心は、僕と知り合って闇を育ててしまっていたなんて信じたくなかった。
見て判るほどに落ち込んでいく千隼を、さらに追い打ちをかける言葉を投げ掛ける。
「お前みたいな何一つ出来ない役立たずの世話なんかしなければ、今頃は日の光を浴びた生活が過ごせていたものを。千隼、お前が壊したんだ。お前が俺の未来を潰したんだ」
「ぼ、僕が・・・康煕の、未来を・・・潰した・・・?」
「そうだ。お前が俺の未来を壊し潰したんだ。その責任を取るのは当然のことだろう?」
康煕の声で、康煕の顔で、追い詰めて壊していく言葉は、次第に千隼の心を暗く深い深淵へと誘っていく。
正確には、康煕に似た青年が居たのだが千隼は気づかず声をかけてしまった。
「なんだ、康煕かぁ。驚かさないでよ・・・」
「あ゛?誰だテメェ」
「えっ?」
千隼は康煕に似た青年の口の悪さに硬直してしまう。
その態度に青年は、マジマジと千隼の顔を覗き見て目を細めた。
「ふ~ん。アンタ、可愛い顔してるんだな」
「ふぇ!? な、何言ってんの!? 」
「ふっ、すっげぇ反応。面白れぇ」
アワアワと慌てている千隼に近寄り抱き寄せる。
青年の腕の中は、落ち着くどころかねっとりとした実父と同じ嫌な感じがした。
千隼は思わず、彼を突き飛ばして距離をとった。
「ぁ、ごめん・・・。でも・・・」
カタカタと小刻みに震える体を抱きしめるようにしている。
康煕に似ているのに違う青年に名を問う。
「・・・君は、誰、なの・・・?」
「俺は、康煕。お前が愛して止まない康煕の一部だ」
「!? 康煕がそんなふうになるなんてありえない!だって、康煕は・・・」
「お前が拐かされた後のことなど知るはずないだろ」
「あ、あれは!僕の所為じゃない!! 僕だって何も起こらなければ、あのまま学校に行って、普通に生活送っていたんだ!! 」
「お前の所為だ。お前なんかと知り合わなければ、こんなことにはならなかったんだからな」
愕然とした。
ずっと優しくて頼りになる彼の心は、僕と知り合って闇を育ててしまっていたなんて信じたくなかった。
見て判るほどに落ち込んでいく千隼を、さらに追い打ちをかける言葉を投げ掛ける。
「お前みたいな何一つ出来ない役立たずの世話なんかしなければ、今頃は日の光を浴びた生活が過ごせていたものを。千隼、お前が壊したんだ。お前が俺の未来を潰したんだ」
「ぼ、僕が・・・康煕の、未来を・・・潰した・・・?」
「そうだ。お前が俺の未来を壊し潰したんだ。その責任を取るのは当然のことだろう?」
康煕の声で、康煕の顔で、追い詰めて壊していく言葉は、次第に千隼の心を暗く深い深淵へと誘っていく。
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