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本編

34話『心地良い香り』

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僕は、彼に抱き寄せられるのが好きなんだと思う。
嫌な気持ちや不安だった気持ちが、康煕の腕の中に囲われ彼が放つ香りで落ち着くのがわかる。

安心したのか、千隼は無意識に康煕の胸に頬をすり寄せる。
まるで、千隼が猫にでもなったかのように自分の身体に匂いを擦り付けている。


「千隼、落ち着いたか?」


頭上から優しい声音が聞こえてきて仰ぎ見る。


「もっと・・・」

「ん?」

「もっと、康煕の匂いに包まれていたい・・・」


千隼が言い終えると、また康煕の胸もとに顔を寄せ、すりすりと頬を寄せる。
康煕は、千隼のそういう天然発言に幾度も忍耐を試されてきているため慣れている。
慣れてはいるのだが手を出せない現状に辛いことに変わりない。
そして、他の男共だったら誘われていると勘違いを起こし簡単に暴走するだろう。


「もっと俺に包まれて安心したいか?」

「ぅん・・・。怖い夢、見て・・・自分が、変わってくのが・・・ぃゃ・・・」


康煕の匂いに包まれているからか、少しずつ言葉を継いでくれる。


「真っ白いとこにいたの・・・」

「うん」

「不思議な感じのとこだったの・・・」

「うん」

「眠るまで・・・康煕と一緒だった・・・」

「あぁ」

「だから・・・、遅れて、康煕が来ると思ったの・・・」

「俺が此処に来たように?」

「ぅん・・・」


康煕から離れると不安を煽るのか、服にしがみつくようにしてゆっくりと話し始め、時折震えることから楽しい夢ではないことは容易に想像がつく。


「と、遠目にっ・・・」

「ゆっくりでいい。深呼吸をするんだ。大丈夫、俺がついてる」

「・・・お、お父さんが・・・っ、近づいて、きたの・・・」


その直後、千隼は大粒の涙を零し自ら康煕に抱き着いた。
過去の結城家のことを知っているからこそ、康煕は彼の極度に怯えた姿だけで何が起こったか察した。


「怖かったな。理解ったから、最後まで話さなくていい」


右腕で千隼を抱き留め、左手で彼の頭を撫で落ち着かせる。
長く片想いを貫いて大事にしてきた彼を傷つける者は、相手がどんな立場にある人間でも赦さない。
それが血の繋がりがある家族であっても、康煕の中に例外は無い・・・














・・・・・・異世界に召喚可能なら、千隼の前に現れる前に抹殺してやる・・・・・・





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