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二章 新学期、新たな出会い編

41話 「八神先輩の彼女になろう作戦っ!」

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月曜日、いつものように席に座り、柊達と話していると、俺のスマホが鳴った。

差出人は、桃井だ。

桃井は、絵文字がたっぷり使われた可愛らしい文章を送ってきた。

『如月先輩っ!おはようございますっ』

『あぁ。どうした?』

『はい!早速今日から、八神先輩の彼女になろう作戦を開始しますっ!』

『なんだその馬鹿っぽい名前』

『なっ…!失礼ですね!…とにかく、如月先輩が八神先輩に呼び出しされたら私に連絡下さいっ』

『了解した』

八神には悪いが、最初の内は特にネタバラシせずに桃井に付き合ってもらおう。

そして、桃井の俺への信頼度が少し上がってきたタイミングで、八神に正直に全てを打ち明けよう。

散々八神の陸上関連の相談に乗ってやったんだ、許してくれるだろう。

「陽太?さっきからスマホを操作してるけど、何かあったのかい?」

俺の行動を不審に思った春樹が聞いてきた。
普段スマホを長時間触る時は、大体誰かに連絡をしている時だ。

だが、普段俺が連絡をとっている相手は皆目の前にいる。
だから不審がられたのだろう。

事情を知っている柊にはジト目をされた。

「…ちょっと母さんからな」

「あぁそうなんだね。 珍しくスマホ弄ってるから、新しい友達が出来たのかと思ったよ」

相変わらず鋭いなコイツは…
本当に将来探偵にでもなった方が良いんじゃないだろうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そのまま何事もなく時間は進み、昼休みになった。
飯を食べ終え、教室に帰ると…

「如月、ちょっといいかな?」

八神に話しかけられた。

…いきなり来たか。

「いいぞ。 また移動だろ?」

「うん。助かるよ」

俺と八神は教室を出ていつもの場所に向かう。
その際、俺はバレないように桃井に

『呼ばれた。いつもの場所だ』

と送った。きっとこのチャットを見た桃井は大急ぎでこの場所に向かおうとするだろう。

「…で、話ってなんだ」

「うん。実はね、新入部員の一年生からよく質問をされるんだけど…」

「質問? フォームとかか?」

「それもあるけど、殆どは、どうすればそんなにモテますか?とか、どこで服買ってますか?とかが多くてね…」

「お前男にも人気なんだな」

「そっちの趣味はないけどね…」

八神は苦笑いしながら答えた。

「…で、悩みってのは?」

「うん。陸上関連ならアドバイスできるんだけど、それ以外の質問にはどう答えるべきかなって…」

八神は本当にいい奴だ。
そんな質問適当に受け流せば良いだけなのに、コイツは真摯に向き合おうとしている。
本当に、コイツはどこまでも王子様みたいな奴だ。

「別に、無理に考えなくていいんじゃないか?」

「…それはつまり…?」

「だって、お前モテようと思ってモテてる訳じゃないだろ? 」

「まぁ…そうだね」

「モテる術を知っててそれを実践してるなら別だけどな。
聞くが、お前はどうすれば女子にモテやすくなると思う?
"モテる"じゃなくて、"モテやすくなる"方法だ」

「…その二つは何が違うんだい?」

「ようは、100%か99%かの違いだ。
モテるアドバイスって言うと、100%モテるって勘違いされちまうが、モテやすくなるアドバイスなら、失敗したとしても逃げ道がある。
だから、お前がするアドバイスはモテやすくなるアドバイスで良い。 それもありきたりな奴でいい。 例えば…優しくするとかでいいんだ」

その一年生が欲しいのは、つまり八神からのアドバイスだ。
モテるようになる手段なんか調べればネットにいくらでも乗ってる。
だが、そいつらはきっと八神の言葉が欲しいんだ。

だから、言葉自体はなんでも良い。
そいつらに自信さえつけばいいんだから。

それを全て言うと、八神は納得したように頷いた。

「なるほど…そういう考えもあるんだな。 やっぱり如月は凄いな」

「別に。考え方を変えただけだ」

「それが凄いんだよ」

そう言って八神は笑った。
そして…

「八神せーんぱいっ!お疲れ様ですっ」

そのタイミングで桃井がやってきた。
桃井は八神の腕に笑顔で抱きついた。

この桃井は今あざといモードだ。

「こ、小鳥っ…!また君は…」

「えへへっ! 八神先輩がいる所に桃井小鳥あり!ですっ」

なにが八神先輩がいる所に桃井小鳥あり!だ。
俺のチャットを見て飛んできたくせに。

桃井はチラッと俺を見ると、八神から離れ、礼儀正しく頭を下げてきた。

「如月先輩!お久しぶりですっ」

「あ、あぁ」

「そういえば如月先輩と八神先輩ってよく一緒に居ますけど、どんな話をしてるんですかー?」

桃井は俺を見て聞いてきた。

とりあえずお前私と会話しろ。って意味か。

「…別に、普通に世間話」

「へー!わざわざ2人で世間話だなんて、仲良いんですねー!羨ましいですっ」

桃井がニコニコしながら言う。
こいつ本当に素の時とは態度違うなぁ…

「あ!八神先輩聞いてくださいよー!今日友達と映画行こうと思ってたんですけどね?」

「う、うん」

「急にドタキャンされちゃって…! ラブコメ映画なんですけど…」

桃井が顔を赤らめている。

なるほど、それを口実に八神を誘おうって訳か。

「ち、チケットもう取っちゃってるので、良かったら一緒に行きませんか…?」

「…ごめん小鳥。行きたいんだけど、今日は後輩達の練習を見る約束をしてるんだ…」

「あ…そ、そうですか…!急に誘っちゃってごめんなさい…!」

桃井が急にしおらしくなり、八神も申し訳なさそうな顔をし、この場に気まずい空気が流れる。

…何この空気。
俺帰っていい?部外者だし帰ってもいいよね?
よし帰ろ。

「…じゃあ、如月先輩と行きますっ」

「…は?」

桃井は、急に俺の手を掴んできた。

「おい、お前何を…」

「如月先輩とも仲良くなりたいですしっ!いいですよね…?」

上目遣いで言われると断りづらいんだ本当に。
やめていただきたい。

「如月、俺からも頼めるかな? 用事が無ければで良いんだけど」

「まぁ…用事はないけど…」

こうして、何故か俺と桃井で映画に行く事になってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…おい。なんでこうなるんだよ」

放課後、映画館にきた俺は桃井に言う。
桃井は頬を膨らませる。

「だって仕方ないじゃないですかぁ。 チケット勿体無いですし」

「他の女友達と行けばいいだろ」

「女友達には八神先輩と行くって言っちゃいました」

なるほど。だから少し遠目の映画館にきたのか。
ここなら学校の奴らと鉢合わせる心配はないしな。

「じゃあ男友達は?」

「勘違いされると面倒くさいので却下です」

「…んじゃチケット捨てれば…」

「勿体無いですし」

俺はため息をつく。

放課後に桃井と映画館に行く事になり、俺は先程柊にチャットをした。

その内容は…

『急だが、桃井と放課後に映画を見に行く事になった』

『随分と仲がいいですねー』

『いや…ほぼ事故みたいなもんだ』

『なるほどー』

『…なんか機嫌悪いか?』

『別に悪くないです。 夕飯はどうしますか?』

『今朝夕飯はハンバーグにするって言ってたよな? だから絶対夕飯までには帰る』

『了解です』

という会話で終わったのだが、文面から分かる通り、何故か柊の機嫌が悪くなってるように思えたので、早めに帰りたい所だ。

「先輩ってラブコメとか見ます?」

「逆に、見ると思うか?」

「全っ然」

「だろ。お前の感性は正しい」

そんな軽口を叩きながらシアタールームに入る。
映画館で映画見るなんて久しぶりだな。

「…なんか悪いな」

「何がですか?」

椅子に座り、俺は小声で話す。

「本来なら八神と来るはずだっただろ。 俺みたいな奴で悪いな」

「なんで先輩が謝るんですか。誘ったのは私なのに」

そう言って桃井は笑った。

そして、その数分後、映画が始まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「「面白くなかった…」」

上映が終わり、歩いている途中、俺と桃井の声が重なった。

映画館の中では周りに気を使って言えなかったが、今なら大丈夫だろう。

「…先輩も同じ感想ですか」

「お前も同じとは意外だな。ああいうの好きそうだが」

「いやいや全然です…評判良かったから期待してたのに…ありきたりな展開だし、要素を詰め込み過ぎて何がしたいのか分からないし…」

「マジかよ。あれ評判良いのか」

「100%出演者の知名度ですよ。 映画を見にきてるってよりは出演者を見にきてる人が多い気がします」

「なるほどな」

「今時三角関係なんてありえるんですかね? 」

今回のラブコメの内容は、ざっくり言えば1人の男を2人の女性が好きになってしまい、三角関係を描いた物語だ。

…まぁ、その途中に何故か宇宙人が攻めてきたり男が誘拐されたりと、色々なハプニングはあったけどな。

「三角関係自体はあるんじゃないか? それこそ八神なんて三角どころじゃないだろあれ。
十画でも足りないだろ」

「確かに…事実は小説より奇なり。って事ですね」

「そんな難しい言葉よく知ってるな」

「馬鹿にしてます!?」

桃井がぷんぷん怒る。

「これでも私学年1位なんですからね!? 頭良いんですよ私!」

「…え、マジ?」

「まじです!中間テストで1位でしたよ私!」

「…すまん普通に馬鹿だと思ってたわ」

嘘だろコイツが1位…?
あの柊と同じ1位だと…?

こんなあざとさ極振りの奴が…?

「…まぁそんな事はさておき…」

桃井は咳払いをする。

「改めて如月先輩。今日は巻き込んじゃってすみませんでした」

桃井は頭を下げてきた。

「別に気にしてねぇから大丈夫だ」

桃井は意外とこういう事を気にするタイプらしい。

その後も適当に話していると、別れ道にきた。

右に行けば柊のマンション、左に行けば桃井の家だ。

「それでは、私はここで!」

「送らなくて大丈夫か?」

「前と違って暗くないので大丈夫ですっ」

「そうか。んじゃ気をつけてな」

そう言って、俺は桃井と別れた。

さて、家では柊のハンバーグが待っている。
早く帰らなければ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おかえりなさい如月くん」

「た、ただいま」

帰宅しリビングに行くと、笑顔の柊が出迎えてくれた。

「如月くんはモテモテですね~」

「…お前なんか勘違いしてるぞ。 あれはな…」

俺は桃井と映画に行った経緯を全て話した。

「なるほど、それで映画館ですか。 私はてっきり桃井さんとそういう仲になったものだと…」

「ありえないだろ。 とりあえずの穴埋めで連れて行かれて最悪の気分だ」

そう言うと、柊は小さく笑い、ハンバーグを温め直した。

「すぐ温めるので、座って待ってて下さいね」

「おう。悪いな」

「いえいえ。 そういえば、映画は何を見たんですか?」

「今人気らしいラブコメ」

「ら、ラブコメ」

「くっそつまらなかったけどな」

柊は苦笑いする。

「…そういえば、柊って映画とか見るのか?」

「んー…映画館に直接行った事は無いですね。 たまにTVでやっているのを見るくらいで。
DVDを買って家で見るのは憧れなんですが、中々機会がなくて…」

確かに、柊の今までの家庭状況を考えれば分かる事だったな。
失言をしてしまった。

だが、憧れか…

「なら、今度家で映画見てみるか?」

「えっ」

「いい機会だし、リビングのTVもデカイし、大分迫力あると思うぞ」

「で、でも…私種類とか分かりませんし…」

「そこは任せろ。 母さんが昔から映画好きでな、家にDVDが何個もあるんだ」

まぁ。全部ホラー映画だけどな。
俺と父さんはホラー苦手なのに母さんが無理矢理リビングで流すもんだから本当に辛かった。

「なら、見てみたいですっ」

柊が笑顔になった。
よし、決定だ。

今度とびきりの映画を見せてやろう。

母さんが1番好きで、1番怖いホラー映画だけどな。
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