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二章 新学期、新たな出会い編

37話 「小悪魔の相談」

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「昨日は急に帰っちゃってごめんね」

昼休み、俺はまた八神に呼び出された。
そして、八神が頭を下げてきた。

昨日結果的に桃井を押し付けてしまった事を気にしているんだろう。

「気にすんな。 あんだけアピールされてたら逃げたくなるだろ」

「まさか教室まで来るとは思わなくてね…その後は結局どうなったんだい?」

「桃井が柊に宣戦布告した」

「あぁ…」

八神が肩を落とす。
この反応からして、桃井が柊をライバル視している事には薄々勘づいていたのだろう。

「それより、お前昨日の昼何か言いかけてたろ。 あれ何なんだよ」

「あぁ、そうだった。 …と、この話はまた今度だね…」

八神が急に諦めたように言った。
すると…

「八神せーんぱいっ」

とまた昨日のように桃井が話しかけてきた。

「教室に行ったら居なかったので、探したんですけど、やっぱり此処でしたかぁ!」

「小鳥…どうしたんだい?」

八神はいつも通り笑顔を見せる。

「暇だったのでお話しようかなって!」

そして桃井は、チラッと俺を見る。

「…えっと…昨日も居ましたよね?」

「あぁ」

「えっと、お名前は…?」

「如月陽太だ」

「如月先輩ですね!よろしくですっ」

そう言うと、桃井は俺に笑顔を見せてきた。
なるほど、これが小悪魔の笑顔か。

確かにこれを見せられたら好きになってしまうのも分かる気がするな。

「お2人は何を話してたんですかー?」

「趣味の話だよ」

八神が嘘をつく。
桃井はあまりプライベートの話題に入るものではないと思ったのか、「そうなんですね!」と言って話題を変えた。

「そういえば八神先輩聞いて下さいよー! 私さっき先生から雑用頼まれちゃって!」

桃井と八神が2人で話し始めたので、俺は八神に「先に帰るぞ」と目で合図し、教室へ帰った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、おかえりなさい」

教室に行くと、柊達がいつも通り俺の席の周りで喋っていた。
どうやら今日は柊は他の男子から逃げられたらしい。
教室の端で男子達が羨ましそうに見ている。

「あんた最近八神と仲良いよね」

「仲良いって言うか、一方的に話を聞いてるだけだけどな」

俺から話題を振る事はないし、八神もそれを理解した上で俺を呼び出してるんだろうしな。

「…ていうか、その八神はどうしたの?」

いつも一緒に教室に帰ってくる為、八神がいない事に疑問を持った七海が質問してくる。

「八神なら今桃井に絡まれてる」

「あぁ…なるほどね」

「桃井さん…ですか」

昨日の事を思い出したのか、柊は苦笑いをする。

「早めに誤解はときたいですね…」

「まぁそうだろうな」

柊からしたら本当にいい迷惑でしかないしな。
今度桃井が近くに来たらそれとなく伝えてやるか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後になり、八神はいつも通りすぐに部活へ行き、教室では俺たち4人が残っていた。
いつもならすぐに帰るのだが、今日は春樹が日直だったのに日報を書くの忘れたせいで帰れずにいたのだ。

「お前よく日報書くの忘れるよな」

「すまないね本当に。 もうすぐで終わるよ」

そう言って、春樹は日報を書く。
別に急ぎの用があるわけでもないし、気にしてはいない。

すると、突然扉が開いた。

そこには、昨日と同じく桃井小鳥が立っていた。

「…八神ならいないぞ」

俺が言うと、桃井は笑顔になる。

「そんなの知ってますっ。あ、柊先輩! 私今日八神先輩と連絡先交換しちゃいました!」

「え…あ、はい」

柊は苦笑いで言う。

「えっと…桃井さん? 私は…」

桃井は柊を無視し、笑顔でこちらに歩いてきたと思ったら、急に俺の手を掴んだ。

…は?

「今日は如月先輩に用があって来たんですっ!」

「…は?」

「これから時間ありますかぁ?」

「いや…えっと…」

上目遣いで見られ、流石にたじろいでしまう。
周りを見ると、皆も困惑していた。

「…なんで俺なんだ?」

「如月先輩は八神先輩と仲が良いので、色々聞きたい事があるんですっ! 色々と!」

色々と。を強調して言ってきた。

まずいな。 俺の予想だが、桃井はかなり強引な奴だ。
だから一度断ったとしても俺がokするまでしつこく来るだろう。

「2人で話しましょ?」

桃井の言葉に、何故か柊が反応した。

「…ここじゃダメなのか?」

「はいっ! 2人で話したいんですっ!如月先輩とも仲良くなりたいですし!」

うわでた。これがこいつがあざといと言われる所以か。
確かにこれは勘違いする奴でるわ。

うん。 可愛いしな。うん。

俺はチラッと周りを見る、皆は俺の判断に任せるらしい。
俺はため息をつき、鞄を持って立ち上がる。

「…少しだけだぞ」

「やったぁ!」

桃井は笑顔になる。
そして、俺の前で右手を上にあげる。

「では、レッツゴーですっ!」

「へいへい…」

元気よく進む桃井について行き、俺たちは教室を出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…どこまで行くんだよ」

学校を出た俺たちは人通りが多い場所に来ていた。
ここら辺にはカラオケやカフェ、ゲーセンなどがある。
前に4人で行ったゲーセンもこの近くだ。

「とりあえずカフェに入りましょう!」

「へいへい…」

「もー!もっと元気出して下さいよ!」

「へーい」

桃井はぷんぷん!と擬音がつくような動きをしている。
ゆるふわな外見と相まって、違和感がない。

本当に自分の武器を良く理解しているんだなと素直に感心してしまう。

桃井の案内で近くにあったカフェに入ると、桃井は周りに人が居ない窓際で角の席を選び、腰を下ろした。

「さ、頼みましょ!」

「…おう」

カフェなんて来た経験は少ないが、まぁ騒ぐ事はないから大丈夫だろう。
俺はとりあえずカフェオレを頼む。
すると、桃井も「じゃあ私も同じのと、あとケーキで!」と店員に注文をした。

さりげなく男と同じのを頼む事によって、お揃い感を出してるのか…
無意識じゃなく意識してやってるんだろうな。

「……」

「……」

気まずい。
目の前の桃井はずっと笑顔でこっち見てるし。
何も喋らないし…
なんなの?そんなに笑顔になるくらい俺の顔って面白いのか?

そのまま無言+桃井の笑顔で時間が過ぎ、お互いのカフェオレが来たタイミングで、俺は口を開いた。

「…結局、要件は何なんだ」

「あ! やっと喋ってくれました!」

どうやら桃井は俺が喋るのを待っていたらしい。

「さっき言った通りですよ~? 如月先輩は八神先輩と仲良いですし、色々聞きたいんです。
それに…」

「…それに?」

「如月先輩って柊先輩とも交流あるじゃないですか。 ほら、さっきも一緒にいたし」

…教室では話せないという事で予想はしていたが、やはり柊絡みか。
だが、柊の話題が出たのは好都合だ。

「柊の件で1つ言っておくが、別に柊は八神の事好きじゃないぞ?」

「はい?」

桃井は首を傾げる。

「言葉の通りだ。 つまり、お前の勘違いだ。だからもう柊をライバル視するのは辞めろ」

「…それはどこの情報ですか?」

「柊自身」

俺が言うと、桃井は顎に手を当て、何かを考え出す。
そして、また笑顔になった。

「信用出来ないですねっ」

「はぁ…?」

「如月先輩に、1ついい事を教えてあげますねっ」

桃井は人差し指を上げると、笑顔で言った。

「女の子って、結構嘘吐きなんですよ?」

「……」

「基本的に女の子のいう事は信じない方がいいですっ」

「それを女のお前が言うのか」

「私は如月先輩には嘘つかないですよ~?」

さりげなく特別扱いしてきたな。
本当にどこまで計算してんのか分からんねぇな。

「…まぁ、柊の事はこれ以上は言わん。 で、八神の事だろ。 何が知りたいんだ」

「んー…趣味とか!」

「知らん」

「じゃあ、休日何をしてるのかとか!」

「知らん」

「じ、じゃあ…好きな音楽!」

「知らん」

「え、えっと…す、好きなゲーム!」

「知らん」

「じゃあ貴方は何を知ってるんですか!?」

思わず桃井は声を上げた。

「何も知らんな。 多分お前の方が知ってるぞ」

「えぇ…? 」

「期待に応えられなくてすまんな。 話は以上か?なら…」

そう言って立ち上がろうとすると、桃井は目を見開いた。

「え、か、帰っちゃうんですか!?」

「だって、もう用ないだろ?」

「いや、お話とか…」

「…話す事あるか?」

「うっ…」

俺は席を立ち、会計をしようと歩き出すと…桃井に腕を掴まれた。
そして…

「もう少しだけ、一緒に居たいです…」

と上目遣いで言ってきた。

並の男ならばこんな上目遣いでお願いされたら犬のように尻尾を振って喜んで一緒にいるだろう。

だが残念だったな。
俺は犬のように尻尾を振る事はない。

「…要件は?」

俺は再度椅子に座る。

犬のように尻尾は振らないが、一緒に居ないとは言っていない。
ほら、あれだろ。
女の子にお願いされてるのに断ったら可哀想だろ。うん。

「…私に協力して下さい」

「はぁ?」

協力…?何の話かさっぱり分からんぞ。

「私が八神先輩と付き合えるように、如月先輩に協力して欲しいんです!」

「…断る」

「え!なんでですかぁ」

「俺にメリットがないし。 あとめんどくさい」

ほぼ毎日こいつと話す事になるだろうし、中々にきつい。

「メリットって…」

そう言って、桃井は自分の身体を守るように身を捩った。

「勘違いすんなそう言う意味じゃねぇ」

慌てて言うと、桃井は小さく笑った。

「冗談ですっ! メリットですかぁ…あ、じゃあ…」

「なんだ?」

「如月先輩が協力してくれるなら、もう柊先輩をライバル視するのは辞めましょう」

…なるほど。
俺がこいつに協力すればもうコイツは柊をライバル視しない。か…

「如月先輩は頭良さそうだし、頼りになりそうなので! 如月先輩が協力してくれれば敵はないかなぁって」

「分かった。 それを守るんなら協力しよう…ただ、一つ条件がある」

八神には悪いが、背に腹は変えられない。
八神には後日上手く逃げてもらえるように言っておこう。

桃井は、首を傾げる。
その仕草本当に可愛いから辞めてほしい。

「条件ってなんですかぁ?」

「まず、前提として、俺は友達が少ないし、口も固い方だ」

「は、はい…?」

「…お前、演技辞めろ」

俺が言うと、桃井が一瞬止まった。
だが、すぐに笑顔になった。

「演技ってなんですかぁ?」

「素で話せって意味だ。 これから協力するって事は、話す機会も増えるだろ。 毎回そのテンションで来られたら疲れる」

「素って、私はこれが素ですよぉ~?」

「女は嘘吐きなんだろ?」

そう言うと、桃井の動きが止まり、桃井はため息をついた。

「…如月先輩は他の男子とは違うみたいですね」

「俺は特殊な訓練を受けてるからな」

「どんな訓練ですか…分かりました。 これからは素で話します。 ただ…」

素の桃井は、意外に落ち着いた性格をしていた。

「ただ…約束を破って言いふらしたら…容赦しませんからね?」

桃井は、笑顔で言ってきた。
その笑顔は、いつもの万人受けするような可愛い笑顔じゃなく、たまに柊がするような怖い笑顔だった。

俺はそれに、無言で頷く事しか出来なかった。
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