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二章 新学期、新たな出会い編

34話 「柊の宝物」

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「そろそろ帰るか」

時刻は17時になろうとしていた。
俺が提案すると、皆頷く。

因みに八神達はもうすでに帰っている。

「大分荷物増えちゃったね」

「柊が色んなもの獲りたがるからな」

七海と俺が言うと、柊は申し訳なさそうに俯いた。
柊はクレーンゲームでお目当ての物がある度に獲りたがるので、荷物が増えてしまった。

子犬くらいのサイズのぬいぐるみが4つに、その他はお菓子系がほとんどだ。
お菓子は皆で均等に分け、ぬいぐるみは七海が2つ、柊が2つで分ける事になった。

柊は先程からずっと最初に獲った犬のぬいぐるみを抱えている。

「柊、それ袋に入れるから貸せ」

「…私が持ちます」

「両手塞がると危ないだろ」

俺が言うと、柊は渋々ぬいぐるみを袋に入れた。
大きめの袋にぬいぐるみ2つとお菓子類を入れ、歩く。
因みに七海の分は春樹が持っている。

「もう夜遅いし、何処かで食べて行くかい?」

「だな。 適当に入るか」

春樹の提案に賛同し、皆でファミレスへ向かう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ファミレスに着き、4人席に座ると、柊が周りをキョロキョロしだした。

因みに、俺と春樹が隣同士、柊と七海が隣同士で座っている。

「渚咲? どうかした?」

隣に座る七海が質問すると、柊は恥ずかしそうに答える。

「こ、こういう場所来るの初めてなので
…」

「えっ…」

あぁ…そういえば七海達は柊の家庭事情を知らないもんな。

「ゲーセンも初めてらしいし、渚咲ってもしかしてかなりのお嬢様…?」

「んー…どうなんでしょう…?」

七海の言葉に、柊は苦笑いする。
すると、七海は柊が触れてほしい話題じゃない事を察したのか、メニュー表を柊に渡した。

本当に七海は人の心を読むのが上手い。

「ほら、ここに色んな写真あるでしょ? ここから食べたい物を選ぶんだよ」

「いっぱいありますね…!」

柊は端から端までをジーッと見る。

俺はもう決まっているからな。
メニュー表は見るまでもない。

「…決まりました! このボロネーゼにします」

「はーい。 じゃあ店員さん呼ぼっか」

七海がベルを押すと、数秒で店員がやってきた。
そして、春樹が皆の注文を言ってくれる。

こういうのは春樹が率先してやってくれるから本当に助かる。

因みに、メニューは、七海がオムライス、春樹がステーキ、柊がボロネーゼ、俺がハンバーグだ。

数分間雑談していると、皆の料理が運ばれてきた。

「美味しいですね…!」

どうやら柊の口に合ったらしく、柊は美味しそうに食べている。
俺も久しぶりにファミレスのハンバーグを食べる。

美味しい。 確かに美味しいのだが、やはり柊が作るハンバーグの方が美味しいなというのが正直な感想だ。

「…そういえばさ、陽太は毎日渚咲の手料理食べてるんだよね?」

「あぁ、食べてるぞ」

食事をしながら七海が言ってきた。

「どのくらい美味しいの?」

「このハンバーグが物足りなく感じるくらい美味い」

「え、それ本気…? あんたそのハンバーグ大好きだったじゃん」

「あぁ。 俺もびっくりだ」

七海の言う通り、俺はこのファミレスのハンバーグが大好きだった。
だが、まさか物足りなく感じる日が来るとは思っても見なかった。

「そんなに美味しいんだ…」

七海は柊を見る。
柊は、照れ臭そうに首を振った。

「お、大袈裟ですよ…! そんな大層な物では…」

「いやいや大層な物だろアレは。 普通に金取れるぞ」

「へぇ…今度渚咲の料理食べてみたいな」

「…では、今度お家に来た時に作ります」

柊は恥ずかしそうに言った。

「本当?やった。 絶対行く」

七海が言うと、柊は嬉しそうに笑った。

前回七海達が遊びに来た時は楽しそうにしてたからな。
また約束出来て嬉しいんだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

……さて。
俺は俺で最後の戦いをしなければいけない。

そう。付け合わせの野菜の処理だ。

このブロッコリーとニンジンをどうするべきか。

食べるのは論外だ。
柊が作る野菜料理なら食べられるんだが、柊以外の野菜料理は本当に鳥肌が立つレベルで無理なのだ。

「……春樹」

「仕方ないねぇ」

春樹に助けを求めると、春樹が俺の皿から野菜を取ろうとする。
いつも俺は野菜を春樹か七海にあげていたからな。
今回も頼らせてもらおう。

「如月くん?」

…と、いつものように簡単にはいかないらしい。
目の前で、柊が笑顔でこちらを見てくる。

「何してるんですか?」

「えっと…野菜を春樹に…」

「ちゃんと食べなきゃダメでしょう?」

「いや…でも…」

春樹は俺の皿から野菜を取るのを辞め、その様子をニヤニヤしながら見ていた。
見れば七海も笑っている。

「野菜さん達が可哀想ですよ」

「だから子供扱いすんな」

「なら子供じゃないという所を見せていただかないと」

懐かしいやり取りをするが、俺は今絶望しか感じていない。
アレルギーではないし、別に食べて吐き気を催すわけではない。
ただ単純に嫌いなだけなのだ。

「如月くん。食べなさい」

「…はい」

大人しく頷き、ニンジンをフォークで刺した。
そしてそのまま口へ入れる。

…うん。やはりダメだ。
柊が作る野菜料理とは全然違う。
野菜特有の苦味が口いっぱいに広がる。

思わず顔を顰めながら、頑張って飲み込むと、七海と春樹が「「おぉ…!」」と感心した声を出す。

「あの陽太が野菜を食べた…」

「流石柊さんだねぇ」

そんな事を言う2人は無視してゆっくり野菜を食べ始める。

ようやく全ての野菜を食べ終えると、柊は小さく拍手してきた。

「はい、よく食べられましたね。 頑張れて偉いです」

「…だから子供扱いすんな」

柊はずっと笑顔だ。
俺が野菜を食べ終えた事で、4人全員が完食した。

「じゃあ、行こうか」

春樹が言うと、皆立ち上がった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

会計は、4人で行くと迷惑になる為、春樹にお金を渡して春樹に払ってもらった。

「…なんか口直ししてぇな…」

ファミレスを出て4人で歩きながら言うと、柊が笑った。

「如月くんは本当に野菜嫌いですよね」

「…野菜だけは本当に無理だな。 大人になっても食える気がしない」

よく大人になったら味覚が変わると言うが、俺が野菜を好きになるとは思えない。

「柊の野菜料理だけは何故か食えるんだけどな」

「如月くんが食べやすいように味付けを工夫してますからね」

「本当苦労かけてすまんな」

「そう思うんだったら早めに野菜嫌いを克服して下さいね?」

「……頑張る」

そんな会話をしていると、前を歩いている七海と春樹が笑った。

「なんか本当に夫婦の会話みたい」

七海が爆弾発言をすると、柊の顔が真っ赤になった。

「七海さん!!」

「ごめんごめん」

柊が頑張って弁明しているが、七海はずっと笑顔で聴いていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふぅ…疲れた」

「ですね…流石に疲れました」

七海達と別れ、自宅に帰ってきた俺たちは、リビングのソファに腰をかけてゆっくりしていた。

「あ、如月くん荷物ありがとうございました」

「いや、気にすんな。 ほら、お前の犬」

袋から犬のぬいぐるみを取り出し、柊に渡すと、柊は笑顔で抱きしめた。

そして、俺はもう一つのぬいぐるみを出す。
柊が2番目に欲しがったイルカのぬいぐるみだ。
このぬいぐるみも子犬くらいのサイズだ。

「あ、そのイルカさんは如月くんのです!」

「え」

「如月くんの部屋にもぬいぐるみあった方が良いと思うので!」

笑顔で言われると断りづらいので、ありがたく受け取っておこう。

犬のぬいぐるみを笑顔で抱いている柊を見ていると、俺と柊のスマホが同時に鳴った。

見てみると、春樹からだった。
春樹は、グループチャットに1枚の写真を送りつけてきた。

『最近のプリクラは任意の写真をスマホにダウンロード出来るから、皆に送っておくね。
写真をプリントすれば飾ったりもできるよ~』

というメッセージ付きだ。

送ってきた写真は、最後に4人で並んで撮ったプリクラだ。

柊は、その写真とメッセージを見ると目を輝かせた。

「すぐにプリントしましょう!」

柊はリビングにあったプリンターを起動させ、慣れた手つきで写真をプリントした。

「はい!これ如月くんの分です!」

「ん? お、おぉ」

二枚プリントしたらしく、柊は写真を渡してきた。

柊は、ずっと笑顔で写真を見ていた。

「これ、私の宝物にします!」

「…写真をか?」

「はい! 私の初めてが詰まった写真なので!」

確かに、柊にとっては初めてのゲーセン&初めて友達と遊んだ日だからな。

「それじゃあ、お風呂沸かしてきますね! 如月くんはゆっくりしてて下さい!」

柊は笑顔でお風呂の方へ行く。
俺は楽しそうな柊に小さく笑い、自室へ戻った。

貰った写真を机の引き出しに大事にしまい、俺は風呂が沸くまでベッドでくつろぐ事にした。

柊は今日とても楽しそうだった。 遊びに誘ったのは正解だったな。
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