自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊

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二章 新学期、新たな出会い編

27話 「作戦開始」

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月曜日、俺はいつも通りにクラスに入り、いつも通りに席につく。

いつも通りのはずだ。
だが、目の前の春樹はニヤニヤした笑みを浮かべていた。

「陽太、緊張するのは分かるけど、決行するのは昼休みだろう?」

決行。と言うのは、七海が柊を連れてきて、柊が俺達と会話をする作戦の事だ。

昼休みに学食に行く前の数分間だけ会話をする手筈になっている。
七海曰く、
昼休みに会話をする光景を周りに焼き付ければ、後々スムーズに昼食に誘えるようになるから。
との事だ。

どうやら俺は無意識にソワソワしていたらしい。
見ると隣の七海も溜息を吐いている。

それもこれも今朝の柊の所為だろう。
柊は家を出るまでずっと、「き、緊張します…」とか「大丈夫ですよね…?」とかを永遠に言っていたからな。
緊張が伝染してしまったらしい。

だが当の本人はいつも通り男子に囲まれながらも女神の笑顔を振りまいているのだから、その演技力には脱帽する。

「…そんなにいつもと違うか?」

「「違う」」

2人に言われ、俺は肩を落とす。
これからは気をつけなければいけない。

今日はあくまでも一言二言話すだけの予定だしな。
こんなので緊張してたら会話なんで出来ん。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

それからはあっという間に時間は過ぎ、昼休みになった。
今日はほんの1~2分だけ話すだけの手筈だ。

自然体だ自然体。 俺と柊は初会話の設定だと言う事を忘れるな。

「渚咲、紹介するね。 こっちが海堂春樹で、こっちが如月陽太」

柊の席で七海が会話した後、七海が柊を俺達の方へ連れてきた。
七海が柊と話している間、他の男子達はいつも通り静かに眺めていたが、七海が俺達の方に来てからは男子達がざわつき始めた。

「海堂さんに如月さんですね。 よろしくお願いします」

「よろしくね、柊さん」

「…よろしく」

春樹は笑顔で言い、俺は目を逸らして言った。
顔を見たらついいつもの感じで喋りそうになるから、気をつけなければいけない。

「そういえば、如月さんは1年生の時にテストの順位が20位でしたよね」

「あぁ」

「今度、何かわからない事があったら教えてほしいです!」

いや、お前ずっとテスト満点だろ。

というツッコミは置いておく。
これは周りに俺が成績上位者である事のアピールらしいからな。

「分かった。 俺も何か分からない事あったら頼む」

「はい!」

間近で柊の女神のような笑顔を受ける。
心なしか、ほかの男子に見せる笑顔とは少しだけ違うように見えるが、きっと気のせいだろう。

「…なんであいつが…」
「あんな陰キャが…羨ましい」
「クールぶりやがって」

そんな陰口が聞こえてくるが、想定の範囲内だ。
無視だ無視。

柊はその後、春樹や七海とも会話をし、その日は解散となった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱり周りの反応はよろしくなかったねぇ」

学食で3人で昼食を取っていると、春樹が呟いた。
先程の陰口の事だろう。

「春樹と柊が話してる時は何も言われてなかったって事は、100%容姿のせいだろうな。 春樹と柊が話していると絵になるし」

「あんまり自分を卑下しない」

「卑下じゃない。事実だ」

七海の言葉にそう返すと、七海はため息をついた。

「陰口が聞こえた瞬間、一瞬だけ渚咲の顔が強張ってたから、後でちゃんとケアしてあげなね。 私も宥めとくから」

俺は気がつかなかったが、七海が言うのだからそうなのだろう。

「りょーかい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後も何もなく授業は進み、俺は家に帰ってきた。

「ただいま」

家に帰りそう言うと、いつもはリビングから「おかえりなさい」と声が聞こえてくるのに、今日は聞こえなかった。

だが、リビングでは物音がするので、柊は居るはずだ。

手を洗いリビングに行くと、柊がキッチンで料理をしていた。
それも無言で。

「ひ、柊…?」

「…あぁ、如月くん。おかえりなさい。 気がつかなくてごめんなさい」

笑顔だが、目が笑っていない。
その怖い笑顔に、一瞬後退りしてしまう。

「今日の夕飯は肉じゃがにしますね」

「お、おぉ…それは楽しみ…だな」

「まだ少し煮詰めたいので、如月くんは部屋でゆっくりしてて下さい」

いつもなら「ソファに座ってゆっくりしてて下さい」と言うのに、今日は部屋でゆっくりしててと言われた。

つまり、1人になりたいのだと推測出来る。

…これは七海の言っていた事で確定だろうな。

「…柊。 昼間の事だが…」

柊の眉がピクリと動いた。

「あれ、俺は別に気にしてないから大丈夫だぞ? 前に言った通り、あんな事言われてもなんとも思わないし」

「…私が気にします」

柊が小さく呟いた。

「…あの人達は如月くんの事を何も知らないのに…好き勝手言って…」

「まぁ、分かりきってた事だからなぁ」

「…如月くんがあんな言われ方するの、嫌です。 如月くんは優しい人なのに」

「そう思ってくれてる奴がいるだけで俺は十分だから、気にすんな」

「…やっぱり、私は学校では如月くんと話さない方がいいのかもしれません」

柊はかなり落ち込んでいる。
笑顔は消え、目線は下に落ちている。

俺は乱暴に頭を掻き、ため息を吐く。

「…別にお前が学校で俺と話したくないって言うんなら、それで良いんじゃないか?」

そう言うと、柊は勢いよく顔を上げた。

「ち、違います! そうじゃなくて…私が如月くんと話すと、また如月くんが陰口言われるから…」

柊は後半になるにつれて、語気が弱くなっていった。

「…だから…学校では話さない方が…良いのかなって…」

「俺はお前と学校でも話したいけどな」

「えっ」

「ほら、前にお前言ってただろ。 放課後2人で買い物もしてみたいって。 それに学校でお前と仲良くなれれば家庭科の授業とか楽そうだしな」

今まではタイムセールの日などに距離を保ちながら2人で買い物に行くくらいはあったが、仲良くなればそんな事は気にしなくてよくなるしな。

「家庭科の授業って…如月くんサボる気満々じゃないですか」

「俺が加わったらむしろ迷惑だろ。 大人しく皿洗いだけしとくよ」

「ふふっ…でも、ああいう班わけって基本的には4人構成なので、私、如月くん、七海さん、海堂さんの4人で出来たら楽しそうですね」

そう言って、柊は笑った。

「だな。 だから、俺としては学校でもお前と仲良くなる事にはメリットしかないんだが、お前はどう思う?」

「私も同意見です。 じゃあ…もうちょっと頑張ってみます」

「あぁ、頼む」

柊は、明らかに不機嫌だった先程とは違って、今は楽しそうに料理をし始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
時刻は22時。
肉じゃがを食べ終え、風呂にも入った俺は、現在自室で勉強をしていた。

そんな時に、スマホが振動する。
画面を見ると、青葉七海とかかれていた。

「もしもし、どうした?」

応答ボタンを押し、通話に出る。

『あんた、渚咲に何言ったの?』

「は?」

『さっき渚咲に電話して、今日の昼の事は心配いらないよ的な話をしようとしたんだけどさ』

確かに、七海は「宥めとく」って言ってたしな。
だが何故七海はこんな事で電話してくるのだろうか。

…まさか、やっぱり柊は機嫌悪いままだったとか? やはり先程は無理してたのだろうか。

『なんかさ、渚咲さっきめっちゃ上機嫌だったんだけど。 あんた何言ったの…?』

「は?」

予想外の言葉に、思わず言葉が出てしまう。

「いや…別に大した事は言ってないと思うが…」

『とりあえず、何を言ったかだけ教えて』

「…俺はお前と学校でも話したいけどな…的な事くらいしか」

『あー…』

七海は納得したような声を出す。

『やるじゃん。 見直した』

「はぁ?」

『100点満点の回答じゃん。 そりゃ渚咲も上機嫌になるよ』

「…よく分からんが、悪い事じゃないなら良いか」

『ん。 じゃあ、明日からも頑張ろうね。 おやすみ』

「おう」

そう言って通話を切り、時間も時間なので勉強も切り上げ、俺は寝る準備に入った。
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