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二章 新学期、新たな出会い編

25話 「4人で遊ぼう」

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ピンポーン。

とインターホンが鳴った。
今日は土曜日、昨日言っていた通り、今日は七海と春樹が遊びに来る日だ。

柊はずっと楽しみにしていたらしく、いつもより早めに起きて元々綺麗なのに部屋の掃除をし、更には念入りに身だしなみを整えていた。

今日の柊の服装は、ベージュのニットに白のショートパンツという動きやすい春っぽい格好だ。

ショートパンツは柊のスラっとした長い脚をとてもよく際立たせており、実に目のやり場に困る。

柊は朝食や昼食を食べている時ですらソワソワしており、笑いを堪えるのに必死だった。

2人でソファに座っている時にインターホンが鳴り、柊はバッと立ち上がった。

「は、はい!柊です! 今開けますね」

明らかに嬉しそうな顔でいい、柊はオートロックを解除した。

それから数分後、またインターホンが鳴った。
今度はマンション内の方だ。
柊がウキウキしながら扉の方へ向かう。俺はそんな柊を見て小さく笑いながら、リビングのソファに座っていた。

「「おじゃまします」」

と玄関の方から聞き慣れた声が2つ聞こえた。

「わ、本当に陽太いる」

「いざ目の当たりにすると混乱するものだねぇ」

七海と春樹がソファに座って居る俺を見ていう。

七海は膝上までの白いワンピースを着ており、これもまた似合っていた。
春樹は春らしいニットベストを着ており、シンプルだが非常に似合っていた。

俺はただ普通にパーカーとジャージなのだが、失敗した感が否めない。

「2人ともようこそ! ゆっくりして行って下さいね!」

「うん。 ありがとう柊さん」

「それにしても、いい家だねぇ」

春樹がリビングを見渡して言う。

俺はソファから立ち上がり、キッチンへ向かう。

「皆オレンジジュースで良いか?」

「「うん」」

「えっとグラスグラス…」

「はいっ」

2人が頷くのでオレンジジュースを取ると、柊が既にお盆にグラスを乗せていた。
グラスにオレンジジュースを注ぎ、柊はお盆を持ってテーブルへ行く。
リビングに戻ると、春樹と七海はニヤニヤしていた。

皆で床の絨毯に座り、向かい合う。
俺と柊が隣、向かいに春樹と七海が座っている。

「…夫婦?」

「ちげぇよ」

「違います!」

七海の疑問に俺と柊が即答する。

「やっぱり一緒に住んでるだけあって、息ぴったりだね」

七海がそんな俺達を見て笑う。

「…今日はからかいに来たんじゃないんだろ?」

「そうだね」

七海はオレンジジュースを一口飲み、姿勢を正す。

「…まず、柊さん」

「は、はい!なんでしょう…?」

「これから名前呼びにして良いかな?」

七海の突然過ぎる質問に、俺達3人は固まった。
七海は、俺達の反応は予想通りだったらしく、構わずに続ける。

「私と柊さんはさ、仲が良いって事をアピールしなきゃダメでしょ? なら、1番分かりやすいのが名前呼びにする事なんだよね」

確かに、苗字呼びから名前呼びに変われば普通に仲が良いのだと思うだろうな。

「私は大丈夫ですよ! では、名前呼びにしましょうか」

「うん。 じゃあ、これからは渚咲で」

「は、はい! よろしくお願いしますね、な、七海さん」

照れ臭そうに言う柊を笑うと、柊に脇腹を小突かれた。

「で、ここからは作戦の話。 渚咲と私の関係はもう知れ渡ってるはずだから、ここから徐々に渚咲を私達3人の中に溶け込ませる段階になる」

「…そこが1番の鬼門だよね。 女子同士の七海達ならまだしも、僕達男子と柊さんが仲良くする事に、他の男子は良い顔はしないだろう?」

「うん。 いくら私繋がりとは言え、多少は嫌な顔はされると思う」

七海の言葉に、柊は悲しい顔をして俯く。
やはり、急に学校で仲良くするのは難しいのかもしれない。

「でも、別に渚咲が私達と絡む理由は、私繋がりってだけじゃないでしょ?」

七海の言葉に、俺達3人は首を傾げる。

「ほら、あるじゃん。 陽太と渚咲の共通点」

「…あぁ、なるほど」

春樹が分かったぞと言う笑みを浮かべた。

「陽太と渚咲の共通点。 それは、学年20位以内の上位成績者。 クラス全員の名前見たけど、2組で20位以内に入っているのは、渚咲と陽太、あとは八神天馬の3人だけだった」

「上位成績者同士が話すのは、別に不思議じゃない。 そう言う事だろう?」

春樹が言うと、七海は頷いた。

「ハルに関しては、認めたくはないけどイケメンの部類に入るし、渚咲と話してて嫉妬される事はあっても疑問視される事はないでしょ。 渚咲に話しかけてる男子ってフツメンかそれ以下ばっかりだし」

「出たよ毒舌姫」

キッパリ言い切る七海に、俺は苦笑いをする。

「渚咲は普通に私達の会話に入ってきても違和感がない段階までは来てるんだよ。 だから、来週からは少しずつ学校で関わっていこう 」

七海がそこまで考えていたとは驚きだ。
確かにこの条件なら周りから嫉妬はされても疑問に思われる事はないだろう。

「な、何故私の為にそこまで考えてくれるんですか…?」

柊が恐る恐る質問をした。
すると、七海は優しく微笑んだ。

「友達だからに決まってるじゃん」

七海は人見知りだ。
心を開くまでが長く、必要以上に人と関わろうとしない。

だが、七海は1度認めて仲良くなった奴には積極的に世話を焼こうとする。
柊は、七海が信頼出来る人間の中に入ったという事なのだろう。

「渚咲は、学校でも私達と普通に話したいんでしょ?」

「…はい…私は、今までクラスメイトとこんなに親しくなった事は無かったので…」

「私も渚咲と仲良くなりたいから、協力するんだよ。 いつもハルと陽太の馬鹿に付き合わされるのは疲れるからさ、渚咲が居てくれたら陽太のストッパーになってくれそうだし」

さりげなく俺と春樹がディスられたが、あえて聞かなかった事にしておこう。

「ありがとう…ございます…」

柊は、深く頭を下げた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おい春樹…!? お前それは…!」

「腕が鈍ったんじゃないかい陽太? 動きにキレがないよ」

現在俺達は、ゲームで対戦をしていた。

俺は持ちキャラである緑の配管工を使っており、柊はいつも通り電気ネズミだ。
4人での対戦という事でガチでやっているのだが、現在春樹にボコボコにされている。

因みに、七海と柊はステージの端でジャンプしたり歩いたりして遊んでいる。

「わぁ…あの如月くんがやられてます…」

「あの2人はライバルだからね。 私達はここで見てよっか」

「はい!」

そんな2人の平和な会話を他所に、俺と春樹はガチ戦闘中だ。
火事になってからという物、ゲームよりも勉強に力を入れていたのもあり、明らかに腕が鈍っている。

だが、柊に見られている手前、ここで無様に負けるわけにはいかない。

お互いに一切スキを見せずに攻撃し合う。

隣では、柊と七海が仲良さそうにコソコソ話をしていた。

だが、そんな物に耳を傾けている場合じゃない。
俺は目の前の春樹というライバルにだけ集中していた。

「「えいっ」」

「えっ」

「あっ」

七海と柊の息が揃った声が聞こえた時には、もう俺と春樹のキャラは場外に飛ばされていた。

俺と春樹はお互いに集中しており周りが見えていなかった。
そこに、七海が春樹を、柊が俺を攻撃し、一撃で吹き飛ばされてしまったのだ。

画面内には、柊と七海のキャラだけが残っていた。

「やった! 初めて如月くんを倒せました!」

「ナイスだよ渚咲。 ほら見て2人の顔」

俺と春樹は、状況が飲み込めずに目をパチクリさせていた。
そんな俺達を見て、柊と七海は笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「君の前のアパートよりも良い部屋じゃないか」

俺の部屋で漫画を読みながら、春樹は呟いた。

あの後も4人でゲームを続けたが、流石に疲れてきたので、男子は男子、女子は女子で別れる事になった。

女子組は現在リビングでお話しをしているらしい。

「確かにそうだな。 綺麗だし」

「君がここまで綺麗に出来るとは思わなかったよ。 てっきり足の踏み場も無いのかと思ってた」

「柊に散々注意されたからなぁ… 少しでも散らかすと怒られるんだよ」

漫画本を本棚に戻して居ないだけでも注意されたり、服が1枚床に落ちていただけでも注意されたりと、最初の内は本当に大変だったが、今では綺麗にする事が染み付いてしまったのだ。

「なんか、本当に夫婦みたいだねぇ。 ダメな夫を叱るしっかり者の妻。みたいな」

「だからちげぇっての。 俺達はそんな関係じゃねぇ」

「…でも、実際のところどうなんだい?」

「なにが」

「柊さんの事だよ。 君は彼女の事をどう思ってるんだい?」

「どうって…」

そりゃ、可愛いとは思う。髪は綺麗だし、スタイルは良いし良い匂いするしオシャレだし。
料理は美味いし優しいし。

これ以上ないくらい完璧な美少女だ。

だが、春樹が聴きたいのはそんな事じゃない事くらい分かる。

「…別に、どうも思ってねぇよ。 恋愛感情を抱く事もねぇ」

「君は初めて会った時からずっと恋愛に興味がないよね。 身だしなみに気を使えばモテるとは思うんだけど」

「モテたいと思ってねぇからな。 学生の恋愛なんて、所詮は友達の延長みたいな物でしかねぇだろ。 形だけで中身のない恋愛なんてのは御免だな」

「おやおや、随分と口数が多いじゃないか」

春樹はニヤニヤとした笑みを浮かべる。

「君がそこまで何かを否定するなんて珍しいね。 大抵の物は「興味ない」で終わらせるのに。 何かあったのかい?」

やってしまった。と思った時には遅かった。
もう完全に春樹に疑われてしまっている。

「まぁ。 話したくない事なら無理に話さなくても良いよ。 君が自ら話すまで待つさ 」

「……」

それからは、春樹が無理矢理話題を変え、お互いに漫画を読みながら世間話をした。

時間が経ち話す事もなくなり、お互い無言で漫画を読んでいると、春樹のスマホが振動した。
春樹がスマホを見ると、春樹はフフッと笑った。

「どうした?」

「これ」

春樹は、画面を見せてきた。
そこには、七海からチャットで『助けて』と来ていた。

2人でリビングに向かうと、七海が1人でソファに座っていた。
柊を探すと、すぐに見つかった。

柊は、七海の膝の上で寝ていたのだ。
規則正しい寝息を立て、無防備に寝ている。

「いっぱいゲームして、いっぱい話したから疲れたんだろうね。 眠そうにしてたから膝を貸したらぐっすりだったよ」

七海が苦笑いしながら言う。

「私達はもう時間的に帰らなきゃだし、あとはアンタに任せる」

「は…?いや、おい…」

七海はそう言うと、優しく柊の頭を膝から下ろし、ソファのクッションに寝かせた。

「あと、あのぬいぐるみ気に入ってもらえたみたいで良かったじゃん」

柊は今、俺がゲーセンでゲットして柊にプレゼントしたくまのぬいぐるみを抱いて寝ていた。
リビングには無かったはずなので、部屋から持ってきたんだろう。

七海は立ち上がると、ニヤニヤしながら見てきた。

「じゃ、私とハルは帰るね。 ちゃんと毛布かけてあげなよ」

「じゃあね陽太。 久しぶりにゲーム出来て楽しかったよ」

時刻はもう17時を過ぎていた。
流石に引き止めるわけにもいかないだろう。

俺は2人を玄関まで送り届けた後、リビングへ戻った。

とりあえず柊には俺のベッドに使っている毛布をかけたが…

「さて、どうするか」

目の前でスヤスヤと眠る美少女を前に、俺は思考を巡らせた。
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