異世界出身の魔導士は、夢がない

皐月 遊

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二章 見習い魔導士編

18話 「影の薄い弓使い」

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「もう少しでシガド村に着くわよ」

ドラグレアの門を出てから1時間程歩き続けると、シエルが言った。

「シガド村って、ドラグレア王国とは無関係なのか?」

「んー、厳密には無関係では無いわね。 ここら一帯はドラグレアの領地…まぁつまり簡単に言うと支配地みたいな物なのよ」

「支配地…?」

「えぇ。 村の治安と安全を、大国であるドラグレアが守る代わりに、村に住む人達はドラグレアに税金を払う。
そういうシステムね」

「なるほどなぁ」

「あとは、ドラグレアの領地に入れば、ドラグレアの魔導士に払う依頼金が多少安くなる事かしら」

「へぇ、メリットだらけだな」

「そうね。 ドラグレアは他の国に比べたらだいぶまともな方だわ」

「…他の国は違うのか?」

「さて。 シガド村についたわよ」

虎太郎の話を遮るように、シエルは言った。
別にどうしても聞きたい話ではなかったので、虎太郎は前を見る。

「おぉ…いかにも村って場所だな」

栄えているドラグレア王国とは違い、シガド村は木造建築に、畑、木の柵に入れられている牛と、日本でも見る事が出来そうな村だった。

村人と思われる人間達も、身なりはお世辞にも綺麗とは言えないが、皆笑顔で楽しそうだった。

村人の1人がこちらに気がつき、近づいてきた。

「もしやあなた方、魔導士さんでは?」

「はい、そうですっ」

シエルが笑顔で答える。
すると村人は笑顔になった。

「おぉ…! もしや依頼を見てきてくれたのですか!」

「はい。 クマ型魔獣の討伐ですよね?」

「その通りです! いやぁ助かります! 魔獣のせいで子供達は満足に遊ぶ事が出来ず…」

「なるほど…それは大変でしたね。 私達に任せて下さいねっ」

その後は、クマ型魔獣の詳細な位置、ここら辺の地形などの説明を受けた。

「大体分かりました。 では早速、討伐に向かいますね」

村人達に見送られながら、虎太郎達は再度村を出ようとした。

すると、虎太郎の足元に何かが刺さった。

「うおっ…!? なんだこれ…!?」

「これは…魔力で出来た矢…?」

シエルの言う通り、それは魔力で形作られた矢だった。
青い光がゆらゆらと揺れているが、貫通力は凄まじいらしく、地面に深く刺さっている。

「誰だ!!」

虎太郎は声を上げ、周りを見る。
だが、周りにいるのは村人だけで、矢を射ったであろう人物は見当たらなかった。

「逃げたのか?」

「逃げてないよ」

「うおわぁ!?」

突然、虎太郎の右から声が聞こえた。
横を向くと、さっきまでは居なかったはずの男が立っていた。

灰色の髪に、村人と同じ服、整った顔立ちに、眼鏡。
年は同じくらいに見えた。

その人物は、弓を構えていた。

「お前いつからそこに…!」

「最初からずっと居たよ。 君達がこの村に来た時からね。 僕はそんなに影が薄いか」

「さ、最初から…!?」

(全然気が付かなかった…)

虎太郎が目をパチクリさせていると、シエルが虎太郎の前に立ち、眼鏡の男を睨んだ。

「あんた、いきなり攻撃してくるなんてどういうつもり? なに、魔導士と喧嘩でもする気?」

シエルが言うと、眼鏡の男はフッと笑った。

「魔導士は喧嘩っ早いから嫌いなんだ。 どういうつもりかと、君は聞いたね」

「えぇ。 納得できる理由を言ってみなさいよ」

「クマ型魔獣は僕が倒す。 君達の力は借りない」

「はぁ…?」

「聞こえなかったのかい? クマ型魔獣は僕が1人で倒す。 君達の力は借りないと言ったんだ」

一つ一つの言葉を強調して言う眼鏡の男に、口角をプルプルと振るわせる。

そして、怒りが爆発しそうになった時、虎太郎がシエルの肩を掴んだ。

「…なによ」

「ここは穏便に行こうぜ。 俺に任せとけ」

そう言って、虎太郎は眼鏡の男の前に立つ。

「まぁお前の言いたい事は分かるけどさ、俺達は正式に依頼を受けて来てるんだ。 だから何もせずに帰るわけには…」

「君、3人の中で1番弱そうじゃないか。 危ないから変わってやると言ってるんだ」

「はははっ、面白い事言うなぁ」

虎太郎は笑顔になり、更に眼鏡の男に近づく。

シエルとフランは何かを察知したのか、虎太郎に素早く近づく。

すると…

「何だとこの眼鏡野郎!!!下手に出てれば調子に乗りやがって!!」

「ちょっとあんたやめなさいよ!穏便に行くんじゃなかったの!?」

シエルとフランに抑えられながら、虎太郎は眼鏡の男を睨む。

「眼鏡男じゃない。 僕の名前はシャドウだ。 まぁ、すぐに忘れてもらって構わないよ」

そう言うと、シャドウは歩き出し、森の中へ消えていった。

そのあと、騒ぎを聞きつけた村人がやってきて、勢いよく頭を下げた。

「申し訳ございません魔導士様…! うちのシャドウがご迷惑を…!」

村人が言うと、シエルが笑顔で前に出た。
こう言う社交的な事はシエルに任せた方がいい。

「気にしないで下さい。 所で、あの方はなぜあのような事を?」

(気にしないでって、お前も怒ってたよな)

虎太郎は心の中でつぶやく。

「…シャドウはですね、特殊な体質なんです。 魔導士としての才能はないのですが、魔力を外に放出する才能だけは飛び抜けている」

「なるほど…だから魔力を矢のようにして撃ち出していたんですね」

(特殊体質…そういうのもあるのか)

「でも、なぜシャドウは私達をあんなに遠ざけようとするのですか?」

シエルが聞くと、村人は言いづらそうに顔を背けた。

「…シャドウは、昔魔導士に殺されかけたのです」

「…殺されかけた…?」

シエルが復唱すると、村人は頷いた。

「シャドウは元々、この村出身ではありません。 身寄りがなく、他国の魔導士による攻撃で傷だらけだった5歳のシャドウが、この村に迷い込み、倒れたのです」

「…なぁ爺さん。 なんでシャドウは殺されかけたんだ? あいつ何かしたのか?」

虎太郎が聞くと、村人は首を振るう。

「シャドウは何も言いません。 ですが、シャドウはとても良い子です。
自分の力を使い、何度もこの村を魔獣から救ってくれました」

「…なるほどな。 だから魔導士が嫌いで、頼りたくないのか」

「はい…ですが、我々としては、シャドウには自分の好きなように生きてほしいのです。
助けられた義理から、村を守るのではなく、もっと…世界を知ってほしい」

この村人は、シャドウの親ではない。だが、シャドウの事を息子同然に思っているのだろう。

村人は、虎太郎達に頭を下げる。

「魔導士様、追加で依頼をしてもよろしいでしょうか」

村人が言うと、虎太郎が笑う。

「依頼とか、そういう堅苦しいの辞めようぜ?
シャドウを連れ戻してほしいんだろ?」

虎太郎が言うと、村人は何度も感謝し、何度も頭を下げた。

そして、虎太郎達はシャドウが向かった方向…つまり、魔獣がいる方向へ向かった。
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