異世界出身の魔導士は、夢がない

皐月 遊

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二章 見習い魔導士編

16話 「ゴルドからの戦線布告」

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「ん…」

「あ、虎太郎様…! シエル様! 虎太郎様が目を覚ましました!」

「…ここは…?」

虎太郎が目覚めた場所は、ベッドの上だった。
そして、真っ白な部屋。

「病室です。 虎太郎様は気絶してしまったんですよ」

「気絶…?」

虎太郎が首を傾げると、横のベッドでゴルドが寝ている事に気がついた。

「やっと起きやがったか虎太郎」

ゴルドは既に目が覚めていたらしく、身体を起こす。

「あっゴルド! お前大丈夫だったか!?」

「騒ぐなうるせぇな…別にこの程度何ともねぇ」

ゴルドは所々包帯が巻かれてはいたが、元気そうだった。

「あの野郎…最後の最後まで手加減しやがって…」

ゴルドが手を握りながら言う。

すると、両手を腰に当てて明らかに怒っているシエルが、虎太郎達の前に立った。

「アンタら2人が起きたら言おうと思ってた事があるわ。
馬鹿なの!? あんた達は!?」

「いや…ははは…」

「…うるせぇ」

「はははじゃないし、うるさいじゃないのよ全く…!」

「…おい虎太郎」

横にいたゴルドは、虎太郎に話しかけた。

「何だ?」

「今度、俺と戦え」

「え…」

「シエルの実力は同じ学校に通っていたから知ってるが、お前の実力はしらねぇ。 だから、戦え」

「いや…でもなぁ…」

虎太郎が渋っていると、ゴルドはベッドから立ち上がった。

「帰る」

「え!? あんたまだ怪我が…!」

シエルが止めようとしたが、ゴルドは歩き出した。

「イエロディア家で独自の治療を受けた方が傷の治りは早い。 俺がこの場に残ったのは、虎太郎にさっきの事を言うためだ」

ゴルドは、虎太郎を見る。

「いいか虎太郎。 お前に拒否権はねぇ。 俺が勝負を挑むその日まで、精々鍛えておく事だ」

そう言って、ゴルドは病室を出て行った。

「なんなのよあいつ…」

虎太郎は苦笑いをした後、ベッドから出て立ち上がる。

「よし、なら俺たちも帰るか。 腹減ったし」

「はぁ…私も今日は疲れたわ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんだこれはーー!?」

宿に帰り、自分の部屋に入った虎太郎は、大声を上げた。
すると、先に隣の自分の部屋に入っていたシエルが出てきた。

「うるっさいわね! 一体どうし…えぇ!? なによこれ!」

シエルも虎太郎の部屋の中を見て驚いた。

それもそのはずだ。

虎太郎の部屋は改造され、隣の空き部屋と繋がっていたのだ。

壁があった場所はきれいになくなっており、2つの部屋が繋がって1つの大きな部屋になっていた。

元々空き部屋だった204は、風呂無しのベッドと机と椅子だけという質素な作りだったのだが、2部屋が繋がった事により、かなりいい部屋へと生まれ変わってしまっている。

虎太郎達はすぐに一階におり、宿主に話しかける。

「あ、あれ一体なんですか!?」

虎太郎が話しかけると、宿主は笑顔で答えた。

「改装した。 元々この宿屋には君たちしか住んでないしね」

「えぇ…」

「もちろん、追加のお代は頂かないから大丈夫だよ。 遠慮なく過ごすといい」

そう言われると、虎太郎達は何も言えなくなってしまう。

「お願いしたのは私だけど、まさか本当に改造されるとはね…」

「ありがたいけどな…」

「…ご飯、食べに行きましょうか」

シエルの言葉に頷き、虎太郎達は宿屋を出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…あんた昨日もそれ食べてたわよね」

現在、虎太郎、シエル、フランの3人は酒場に入り食事をしていた。

シエルは、虎太郎が食べている物を見て言った。

「昨日もっていうか、こっち来てからこれしか食ってないな。 美味いんだよこれ、ミニサラマンダーの串焼き」

虎太郎は、ミニサラマンダーという、日本にいるトカゲと同じサイズの物の串焼きを3本食べていた。

「私には無理だわ…トカゲの形そのままだし…って、こっち来てからって…本当なの?」

「本当だぞ。 元々ゴリスさんから試験合格までの食費は貰ってたんだけど、それで食える値段の食べ物はこれしか無くてさ」

この世界の硬貨は全ての国共通で、銅貨、銀貨、金貨の3つに分けられる。

銅貨が100円程、銀貨が1000円程、金貨が10000円程の価値を持っている。

ミニサラマンダーの串焼きは1本銅貨2枚と、格安だ。
ゴリスから貰っていたのは銀貨4枚なので、贅沢は出来ずにいたのだ。

「昨日まではミニサラマンダーを1本とかで我慢してたんだけど、明日からは任務を受けられるからな。 今日は奮発して3本だ!」

虎太郎が言うと、シエルはため息をついた。

「それなら先に言いなさいよ…夕飯くらい奢ってあげたのに」

「え、まじ?」

「まじよ。 現に、昨日のフランの分の食費は私が出したじゃない」

フランはその細身とは裏腹に大食いだ。
昨日は3人前の料理を平げ、今日は1人で宴会用の肉料理を食べている。

「確かに…」

「ほら、今日はこの超絶美少女で優しいシエル様が奢ってあげるから、なんでも好きな物食べなさいな」

そう言われ、虎太郎は目を輝かせてメニューを見る。

「じゃあ、このミニサラマンダー特盛セット…」

「ミニサラマンダー以外にしなさいよ!」

「…って言ってもなぁ…何がおすすめなんだ?」

シエルに聞くと、シエルはメニューを見る。
シエルはフランとは違い少食だ。

シエルは昨日も今日もサンドイッチしか食べていない。

「あんたお肉好きそうだし、これ頼んどいたら?」

「なになに…火炎鳥《フレイムバード》の唐揚げ…?」

「えぇ。 常に燃え続ける鳥を油であげた料理よ。 中々見つからない鳥だから、味は絶品なのよ」

確かに、値段は金貨1枚と、他の料理に比べて、倍以上の値段だ。

ちなみに、フランが今食べている宴会用の肉料理は、銀貨8枚。 つまり、8000円だ。

つまり火炎鳥の唐揚げは、1人用だと言うのに、宴会用の料理よりも高いのだ。

「…高くね?」

「貯金はまだあるし、私も明日から稼げるから大丈夫よ。
それに、ただ奢るだけじゃないわよ?」

「え?」

「今回の金貨1枚と、前回払ってあげたあんたの病院代銀貨2枚。あんたが稼いだら倍返ししてもらうからっ」

シエルはウィンクしながら言った。

「私、お金にはかなりうるさいのよ? 私からお金を借りてしまった事に後悔しなさい」

虎太郎は、シエルに借金をしてしまった事に後悔しながら、火炎鳥の唐揚げを注文した。

「美味っ!!なんだこれ!?」

それから数分後、虎太郎は火炎鳥の唐揚げを爆食いしていた。

噛んだ瞬間に溢れ出す肉汁、カリッとした衣、柔らかい肉。
全てが最高の一品だ。

「良かったわね~」

美味しそうに食べる虎太郎とフランを見て、シエルは優しく微笑んだ。
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