異世界出身の魔導士は、夢がない

皐月 遊

文字の大きさ
上 下
13 / 18
二章 見習い魔導士編

13話 「魔装とは」

しおりを挟む
「あんた、なんで装束魔法…魔装を使えるの?」

シエルは、虎太郎に質問をした。
虎太郎は、腕を組み、首を傾げる。

「それなんだけどさ、俺にも分からねぇんだよなぁ。 ゴリスさんにも言われたんだけどさ、俺からしたら、最初から姿変わったから…」

「装束魔法…所謂、魔装はね? 本来ならとてつもない期間修行して、やっと1握りの魔導士が会得できる物なの」

「ふむ…」

「それを、なんで元はただの人間で、しかも他の世界の人間のあんたが出来るのか、私は疑問なのよ」

「んー…俺も分かってないからなぁ…ていうか、まだ分からない事だらけなんだよ。 デストの事も、魔法の事も」

「まぁ、でしょうね…ちょっとさ、ここで魔装してみてくれる?」

「いや、まだ加減出来ないから、大火事になる」

「なるほど…じゃあだめね」

「…なぁ、教えてくれないか。 魔法の事や、デストの事」

虎太郎は、ずっと知らずにいた、基礎の事をシエルに尋ねた。

「いいわよ。 …と言っても、上手く説明出来るかは不安だけどね、私が学校通ったのって14歳からだし」

「え、そうだったのか」

「そうよ。 私、14歳までずっと旅をしていたのよ」

「旅…1人でか?」

「そうよ? …まぁ、私の話は良いじゃないの。 で、何から聞きたい?」

「じゃあまずは…デストの事」

虎太郎が言うと、シエルは真剣な表情で口を開いた。

「まず、この世界の動物は、産まれた瞬間に3つの種族に分類されるの。
1つ目、魔力を持たない、普通の動物。 こういう動物は、ペットだったり、食用だったり、家畜になったりするわ」

「ふむふむ…」

(犬猫や、牛や魚みたいなものか)

と、虎太郎は想像する。
確かに、今日街を歩いた時に魚の串焼きや、骨つき肉が売っていた。

「そして2つ目が、聖獣。 こちらが何もしなければ害を与えてこない。 魔力を持った優しい動物よ」

「ん…? 聖獣…? 神獣じゃなくて?」

「それも含めて後で話すから。 で、3つ目が、あんたもよく知る魔獣。
凶暴で、人に害を与えまくる、魔力を持った動物よ」

「ふむふむ」

「で、ここからが本題。 聖獣と魔獣は、成長と共に魔力が増大するの。
そして、成長した個体の中で稀に、進化する動物がいる」

「進化…?」

「えぇ。 あんたもよく知ってるわよ。
聖獣は進化すると神獣に。
魔獣は進化すると、デストになるのよ」

「魔獣がデストに…!?」

「まぁ、魔獣の場合は進化ってよりは、変化の方が正しいけどね。 あんたも今日見たでしょう? クマ型のデストを。
あのデストは、元々クマの魔獣だったのよ」

「そう…だったのか…」

(そういえば、セレナと2人で倒したデストも、シカに似てたな…)

「これがデストの正体ね。 つぎは何を聞きたい?」

「魔導士について教えてくれ」

「魔導士は歴史があるから、私が分かる範囲で教えるわね」

シエルの言葉に、虎太郎はうんうんと頷く。

「魔導士は、誰でもなれるって訳じゃないのよ。 この世界の人間は皆魔力を持ってるけど、魔力量と、その魔力を放出出来るかどうかは才能次第。
その才能を持った者が、初めて魔導士になる為のスタートラインに立てるの」

「ほー…才能次第」

「で、魔導士になってから…つまり、今の私達の状況ね。
そこからは、任務を受ける事が可能になるの」

「任務…?」

「えぇ。 魔導士は、自分の国の魔導士協会から任務を受けて、それを達成する事でお金を稼ぐのよ。
その任務は雑用から危険な物まで、様々よ」

「ほー…初めて知った」

「で、任務にはランクがあるのよ。
Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク任務があって、上に行けば行くほど、危険で報酬が高いわ」

(なんかゲームみたいだな)

というのが、虎太郎の率直な感想だった。

「同じく、魔導士にもランクがあるわ。 魔導士になったばかりの人は、Dランク魔導士から始まるの。
それで、魔導士協会に実力と貢献度が認められれば、ランクアップしていくって訳」

「Dランク魔導士がSランクの任務を受ける事は出来ないのか?」

「出来ないわよ。 自分のランクの任務までしか受けられないわ」

(なるほど…つまり俺はDランク任務しか受けられないって訳か)

「で、ここからが魔導士の力の話」

シエルが人差し指を上げた。

「まず、魔導士はそれぞれ、1つの能力を持っているわ。 私なら氷、あんたなら炎。 能力は様々よ。
攻撃系だったり、医療系だったり、妨害系だったり。
武器…所謂魔導器も人それぞれ。 私のレイピアや、あんたの刀は当たりの部類ね」

「なるほどなぁ…なんか色々あって複雑だなぁ」

「で、次に出てくるのが魔装。正式名称は装束魔法だけど、皆魔装って呼んでるわ。
魔装はさっき説明した通り、服装が変わって、魔法の威力、身体能力が底上げされるのよ。 その分、魔力消費が激しいってデメリットはあるけどね」

「ふむ…」

「魔装は高等技術で、Aランク以上の魔導士はほぼ使いこなしているわ。
これであんたがどれだけ異常か分かった?」

「まぁ、俺がおかしいって事はすごく理解した」

「多分これから、あんたはいろんな人に同じ事を聞かれるでしょうね」

「うわぁ…やだなぁ…」

「…遅くなりました」

そのタイミングで、お風呂から上がったフランが洗面所から出てきた。

フランは、赤くなった顔に、モコモコのパジャマを着ている。
上は長袖で、下はショートパンツという動きやすい格好だ。
色は水色で、フランの髪色と相まって、凄く似合っている。

ちなみに、シエルのパジャマはフランの色違いで、色はピンクだ。

2人とも細身でスタイルが良いため、ショートパンツが2人の長い美脚を引き立てている。

「おー! 似合うじゃないのフラン!可愛いわよ!」

「あ、ありがとう…ございます…こういうの着た事なかったので…」

「どうだったー? 長風呂してたけど、気持ち良かった?」

「はいっ…いつもは週に一度、5分だけシャワーを浴びる事しか許可されていなかったので…
久しぶりにこんなに湯に浸かれて…嬉しかったです」

笑顔で言うフランとは対照的に、虎太郎とシエルの顔は暗い。

フラン程の年齢は、おしゃれに興味を持つ年頃だ。
そんな少女が、好きなようにおしゃれも出来ず、風呂にも入れないのはさぞ辛かっただろう。

シエルは、そんなフランの頭を、優しく撫でる。

そんなフランを見て、虎太郎はある事を思い出した。

「あ! そうだシエル! シエルに相談があるんだ!」

「なに?」

シエルは首を傾げる。

虎太郎は、シエルに先程フランと議論していた内容…

シエルの寝る場所についてを相談した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「一緒に寝れば良いじゃない」

虎太郎の話を聞いたシエルが、首を傾げながら言い放った。

「馬鹿お前…! そんな事できる訳っ…!」

(ただでさえ目のやり場に困る服装してんのに…!)

虎太郎は、顔を赤くしながら言う。

そんな虎太郎を見て、シエルは笑う。

「冗談よ冗談。 あんたがそういう事に耐性がないのは知ってるから。 むしろ耐性がない方が安心してフランを任せられるわ」

「からかうなよ…」

「で、肝心の寝る場所だけど…要は、部屋が広くなれば良いのよね?」

「まぁ、そうだな。 そうすればベッドが2個置けるし」

「おっけー。 この超絶美少女シエル様に任せなさいな。
ほら、行くわよ」

シエルが立ち上がり、部屋の扉を開けた。
俺とフランは顔を見合わせ、首を傾げながらついていった。

シエルに続いて下の階に降りると、シエルは宿主の男に話しかけていた。

「あのね…この子今身寄りがなくて…仕方なくここに泊めてるんです…」

シエルは、目に涙を溜め、鼻を啜りながら言った。

「でも…この子1人じゃ寂しくて寝れないから、同じ部屋がいいんだけど、1部屋に2人は狭くてぇ…」

「そんな事情が…辛かったね…」

宿主の男は、フランを見て悲しそうな声で言った。

(うわぁ…シエルこっわ…)

「だからね…? この男の部屋と、この男と部屋の隣の空き部屋を繋げて欲しいの…」

ダメ…?と言いたげに、シエルは涙目で上目遣いをする。

宿主の男は顔が真っ赤になり、数歩下がる。

そして次にフランを見る。

「……よし分かった! 可愛い女の子の頼みだ! ただ、今は夜だからね、明日君たちが外出している間に改装しておこう!」

「やったぁ! ありがとうおじさん!」

シエルは、宿主に満面の笑みを向けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ま、こんなもんよ」

「お前怖すぎだろ」

「ホホホ! 女の武器は惜しみなく使わなきゃ損じゃない?」

「…でもまさか改装するとはな…」

「融通がきく人で良かったじゃない」

「まぁな。 …で、問題は今日どうするかだな」

「今日くらいは我慢しなさいな」

「…虎太郎様は私と一緒は嫌ですか…?」

フランから上目遣いで見られ、虎太郎は顔が赤くなる。

「……もう一度聞くけど、俺が床で寝るってのは…」

「却下です」

「はぁ…分かったよ…じゃあ今日だけ頑張るか…」

虎太郎はこの日の夜。
隣で眠るフランを意識しすぎて、全然眠る事が出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...