異世界出身の魔導士は、夢がない

皐月 遊

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一章 魔導士認定試験編

3話 「魔導士として」

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あれから3日後、病室では、虎太郎が元気に準備運動をしていた。

「病室で準備運動をする奴はあんたが初めてだよ」

「悪い悪い、ずっと寝てたから身体がバキバキでさ」

「まぁ、あの傷が寝るだけで治るのは異常だけどね。
普通の人間なら死んでもおかしくない傷だ」

「生きてたんだから、運が良かったのかね?」

そんな会話をしていると、病室の扉がガラッと開いた。
そこには、3日前に会ったゴリスが立っていた。

「元気そうだな。 赤羽虎太郎」

「婆さんのおかげでな」

「ではこれより、お前の適性検査を行う。
私の肩に掴まれ、転移魔法を使う」

転移魔法。
セレナが使い方を失敗した魔法か。

「あいよ。 あ、婆さん、今までありがとな。 世話になった」

「もう医者の世話になる事がないよう祈ってるよ」

そう言うと、ゴリスと虎太郎の身体が光り、その場から消えた。

次に虎太郎が目を開けると、病室とは全く違う場所にいた。

地面は砂で、周りは壁で囲まれており、観客席まである。
まるでコロシアムのようだ。

「ここなら、思う存分戦えるだろう」

「へぇ…なんか、テンション上がるな」

「…お前の勝利条件は、私に一撃入れる事。
そして、お前の敗北条件は、気絶する事だ」

「なんだ、一撃で良いのか。 随分と緩いんだな」

「緩い? それはどうかな」

ゴリスは、そう言うとニヤリと笑った。

「さて、早速始めようか。 どこからでも打ち込んでこい!」

ゴリスの気迫が変わった。

虎太郎は、深く深呼吸をする。

この3日間、ただ寝ていた訳ではない。
虎太郎は魔導士としての戦い方を知らない。
だから、この3日間、バリアンに魔導士としての基礎をみっちり教わっていたのだ。

まずは、刀の具現化の仕方。

(利き手に意識を集中させて、身体中の魔力を…放出!!)

その瞬間、虎太郎の右手が燃え上がる。

「ほう…中々の魔力だ」

炎は虎太郎の右手を包み、黒い刀が具現化…しなかった。

「あれ…? 」

(なんで刀が出ないんだ…?)

「来い!刀! ふんんんん…!!!」

何度も力を込めるが、出るのは炎だけ。

「どうした? 早く変異体デストを倒した男の実力を見せてみろ」

「くっそ…! なんで…!」

(なんで出ないんだ…!?やり方は合ってるはずなのに…!)

「お前が疑問に思っている事を当ててやろう」

「ぐっ…!」

ゴリスは、虎太郎の腹を蹴る。

「何故刀が出ないのか、何故あの時感じた万能感がないのか。
違うか?」

「…あぁ合ってるよ!! 」

「その2つの疑問は、1つの問題を解決する事で解消される」

「1つの問題…?」

「今、見せてやろう。 行くぞ、岩禍《がんか》!」

ゴリスが叫んだ瞬間、ゴリスの右手に斧が現れた。
そして、ゴリスの周りには岩が浮き始めた。

「魔導士が持つ魔導器には、それぞれ名前がある。
名前を知り、その名を呼んで初めて、魔導士としての力を使えるのだ」

(武器に…名前…? あ、そういえば…最初の時も、確かセレナは風斬って言ってたな…あれは刀の名前だったのか)

「で、でも! あの時は名前呼ばなくても…!」

「それはセレナ様の魔力に呼応して出てきただけに過ぎない。
お前はまだ、魔導士にすらなれていないのだ」

「くっ…!刀の名前なんて、どうやって知ればいいんだよ…!!」

「お前から刀に歩み寄るのだ。 そうすれば、刀はお前に答えてくれる」

(歩み寄る…?)

虎太郎は、自分の右手を自分の頭に当てる。
すると、頭の中に炎のイメージが流れ込んできた。

それは、あの日感じた万能感に似ていた。

(いける…! あともう少し…!)

「ぐっ…!?」

意識を集中していると、虎太郎の腹に岩が当たった。

「馬鹿が。 敵の前で立ち止まる奴があるか」

「くっそ…! このドS教官が…!」

(攻撃を避けながら名前を聞けってわけかよ…!)

虎太郎は、飛んでくる岩を避け、たまに擦りながら、右手を頭に当て続ける。
目は閉じずに、集中する。

(頼む。 力を貸してくれ。 お前の力が必要なんだ!)

頭の中で、炎のイメージがどんどん大きくなる。
そして炎はついに、虎太郎の身体を纏い始めた。

(教えてくれ、お前の名前を…!!!)

その瞬間、虎太郎の頭の中に、とある名前が浮かんだ。
直感だが、確信した。

これが、アイツの名前なのだと。

虎太郎は、ニッと笑い、立ち止まる。
そして、右手を上にあげる。

すると、ゴリスは目を見開く。

「…聞けたのか?」

「あぁ。 バッチリだ」

虎太郎の腕を、身体を、全てを炎が包み込み、巨大な火柱となる。

「くっ…! 何だこの魔力量は…!? こんなの…まるでロイド団長ではないか…!」

「行くぜ…!! 炎魔《えんま》!!!」

火柱が割れ、虎太郎の姿が現れる。

虎太郎の姿は、あの時と同じ黒に赤のラインが入ったローブに黒ズボン。
そして、右手には黒い刀を持っていた。

「…装束魔法…だと…!? 魔導士になったばかりのお前が何故…!」

「細かい事は良いだろゴリスさん。 始めようぜ」

虎太郎は、地面を思い切り蹴った。
一瞬でゴリスとの距離を詰め、ゴリスに刀を振り下ろす。

ゴリスはなんとか斧で防いだが、その顔には冷や汗が滲んでいる。

「まだまだ行くぞ!」

虎太郎はまた地面を蹴り、ゴリスの周りを走る。

「くっ…早過ぎる…!」

ゴリスは岩属性の魔導士という事もあり、スピードが遅い。
更に、浮いている岩は狙いをつけて撃ち出す必要がある為、こうして超スピードで動かれると何も出来なくなるのだ。

背後から、虎太郎が斬りかかってくる。
ゴリスはなんとか斧で防いだが、正直ゴリスの予想以上だ。

虎太郎は深呼吸をし、ゴリスから距離をとる。

「…馬鹿か? お前の得意戦法は超スピードの接近戦だろう。 距離を取ったら私に分があるぞ!!」

ゴリスは、距離を取った虎太郎に向かって岩を撃ち出す。

「…まだ加減出来ねぇから…」

虎太郎は、刀を後ろに引く。
そして、虎太郎の刀に炎が纏わり付いていく。

「なんだ…!? この魔力は…!」

(当たったらマズイ…!)

と、本気でゴリスにそう思わせるほど、虎太郎が今から撃つ技は危険だと判断された。

「本気で避けてくれよ!!!!」

虎太郎は、思い切り刀を振るう。

すると、超高密度の炎が飛ぶ斬撃となってゴリスに向かっていく。

それを見たゴリスは目を見開き、本気の回避をした。

「はぁ…はぁ…」

力を使い過ぎた虎太郎は、服装が戻り、その場に膝をついた。

「…見事だ」

黒煙の中から、ゴリスが出てきた。

「…なんだ、無傷かよ…なら、まだ続行か…?」

「いや、合格だ」

「え、でも…」

「よく見ろ」

ゴリスの肩を見ると、ほんの少しだが、服が焦げていた。

「私は本気で避けた。 だが、この様だ」

ゴリスは笑う。

「おめでとう。 お前には魔導士の資質がある。
魔導士免許試験、頑張るように」

「っ! おっす!!」

虎太郎は、笑顔で敬礼をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あれから数日経ち、ようやく今日は魔導士免許試験の当日だ。

ゴリスに勝ったあの後、流石にずっとスウェット姿でいる訳にもいかないので、虎太郎は服を買いに行った。

現在は、黒いズボン、黒いインナーに、赤い上着を羽織っている。

ゴリスに勝ったあの日から、虎太郎はゴリスが用意してくれた宿に泊まっていた。
その際、ゴリスに言われた毎日素振りと筋トレの言いつけをちゃんと守り、今日に挑んでいる。

試験会場は、昨日下見をしているから問題はない。

ドラグレア王国魔導士学校。

ここが今日虎太郎が試験を受ける場所だ。

「でっけーなぁ…」

学校というだけあって、規模はかなり大きい。
呆気に取られていると、何かが虎太郎に当たった。

「いてっ」

「邪魔だ」

振り返ると、そこには金髪のツンツン頭のチャラ男が立っていた。

服装は、白いインナーに黄色と黒の外套を着ていた。

その男は、虎太郎を見下した目で見ていた。

「入口の前で突っ立ってんじゃねぇよ。 壁になる練習でもしてんのかぁ?」

「な、なんだお前! 当たっといて謝罪もなしかよ!」

当然虎太郎は怒るが、金髪チャラ男は軽薄そうな顔をして笑う。

「なんで俺様が謝んなきゃいけねぇんだよ。 道を開けないお前が悪いんだろ」

そう言って、金髪チャラ男は強引に虎太郎をどかし、建物の中に入っていった。

「なんだったんだ…?あいつ…」

(感じ悪い奴だなぁ~…)

そう思いながら建物に入ろうと歩き出すと、また何者かが背中に当たった。

さっきの出来事のすぐ後だった事もあり、虎太郎の唇ピクピクしだす。

「だぁーもう! なんだよまたぶつかりやがって!! 前見て歩けねぇの…か」

勢いよく振り返り、怒号を浴びせた後に、虎太郎は後悔した。

虎太郎の目の前にいたのは、茶髪の長い髪を持った可愛い女の子だったのだ。
服装は、水色のノースリーブに、赤いスカートという動きやすそうな格好だ。

そして、その女の子は虎太郎の事を睨みつけていた。

「痛ったいわね! なんでこんな道のど真ん中に突っ立ってんのよ!」

「えっあっ…いや…」

「私急いでるから!」

そう言って、女の子は建物の中に入っていってしまった。

「やっちまったなぁ…」

虎太郎も、遅れて建物に入った。

ゴリスから言われていた部屋に入ると、中には既に他の2人が居た。

そして、その2人は…

「あ…!お前ら…!」

虎太郎は2人を見て驚く。

「なんだ? 部屋間違えてるぞー?」

先程ぶつかってきた金髪チャラ男が虎太郎を見てニヤついた笑みを浮かべ、

「え…!? じゃあ貴方が噂の異世界の人!?」

最後にぶつかった女の子が虎太郎を見て驚いていた。

虎太郎のほかに2人いると言われていた人物は、この2人だったのだ。

教室内には席が3つあり、右にチャラ男、左に女の子が座っていた。
虎太郎は必然的に、真ん中に座る事になる。

(最悪だ…仲良くなれる気がしない…特にこの金髪とは…!!)
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