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コーク商会長アトワ

最高幹部

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最高幹部、と称される三人がいる。

一人は商会の警備責任者であるルイ・パース。
黄色味の強い金髪に茶色がかった琥珀色の瞳の青年だ。

一人は商会の人事担当であるルーク・ゼン。
深い青の髪に青緑の瞳の滅多に見ない美青年だ。

一人は商会の所有する店舗の最高責任者であるハリス・ポール。
癖のある炎のような赤毛にくりくりとしたオレンジの瞳のそばかす顔の青年である。

アトワに『信号機組』と称される彼らは、アトワの少年兵時代からの仲間であり、アトワの目的を誰よりよく知っていた。

そんな最高幹部三人が揃った部屋は、今までになくピリピリしていた。
それは。

「······傭兵団の聖女は、本当にハイネだったのか?」

ルークが重々しく呟いた。
自身の部下から挙がってきた報告を並べて、その可能性を示唆したハリスは苦々しく微笑んだ。

「可能性は······かなり高いと思う」
「本当にアトワには言わないのか?」
「情報が不完全だし······また、絶望するあいつを見たくない」

昔は、不確かな情報でも手に入れたら飛び上がって喜んで、アトワのところに持っていった。
隈の酷いアトワが、希望の満ちた瞳で立ち上がる様が喜ばしかった。
それと同じくらい、三人はアトワの希望が打ち砕かれる姿を見てきた。

アトワは天才だ。

天才だが、一人の人間である。
アトワの心は脆く繊細で、虚勢を張って生き延びているように見えた。

どんな嫌味も皮肉も少しも通じないくせに、ハイネに関してだけは驚く程ノーガードで柔いアトワは、ハイネを失ってから何度も壊れかけたのだ。

見ていられなくて、止めようとした時もある。
殴り合いになったことだってあった。
それでもアトワは諦めなかった。
諦めようとしなかったのだ。

それはアトワの誇りだった。
心の中でたった一つだけの、天才アトワのプライドだった。

結局三人はそれに折れて、今も尚行方知らずの花嫁探しに付き合っている。

「だから、この件についてはもっと精査する」
「そう、だな」

間違っていない。
これは。

三人にとって、既にアトワは生きがいで、何にも変え難い友だった。
アトワがそう思っていなくとも、三人はそう思っていた。

だって、見たいのだ。

アトワが嬉しそうに笑って、いつかの少女と手を取り合う姿が。
その時に、二人を祝福する人々の群れの中に、自分たちがいればいいと思うから。

全く、随分とあいつのカリスマ性に堕ちたものだなと。

三人はそれぞれそう思った。
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