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恋知らずの王の半生

彼の名はエリク

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「・・・ぅ、ううん・・・」

視界に入り込む眩い光に目を細めた。
真っ白なシーツを視界の端に捉える。

今日も朝が来てしまったらしい、と。
エリク・シュウェッツはため息をついた。



金の混ざった灰銀の髪に、美しい紫水晶の瞳の凛々しい国王。
シュウェッツの名目上の二代目国王であるエリクは、あまり母に似ていない。
どちらかと言うと顔も見た事のない父譲りなのだと、いつだったか母が言っていた。

母はいつまで経っても若々しく美しかったが、ある時一通の手紙を遺して姿を消した。

どうやら母は魂に還ったらしい。
そして私を心配したのか、シュウェッツの血を見守ることに決めた。

そしてそれと同時に、歴史の事実を少しだけ変えて欲しいという願い。

元からこの国は、母が人と結ばれて興した国であるということになった。
つまり、私の血の半分が人のものであると、母がそれを真実にしたいと望んだわけだ。

私は人間じゃない。
天使と、悪魔のハーフだ。
人よりも、神に近い存在だ。
母はどうやらその事実を隠蔽しようとしたらしい。

私は母の遺言通りにした。
私は天使と人との子として崇められ、大切にされた。、間違っていないと思う。
私より速く老いて、死んでゆく彼らは、悪魔を毛嫌いしているから。

そして三百年ほど、私はシュウェッツの国王として君臨した。



「陛下、そろそろお世継ぎを・・・」
「・・・」

かつては赤ん坊だった、ほんの子供の頃から知っている重鎮の男が跪き、ヨボヨボの顔でそう言い募る。
・・・無理だ。
子供は対象にならない。



巷では私は美貌の王と呼ばれているらしい。
周りにいる人々はそのそばに侍ることを許された幸運な人々だと。
・・・意味がわからない。

誰もが私に愛されたいと望み、そのからだを差し出す。
私と結ばれることを夢に見て、私に焦がれる視線を向けた。
それは老若男女問わないものであり、世継ぎの話のあとから急増したように思う。

みんな思い出したらしい、私が男であるということを、一応人間であることを。
三百年ほど、王座についた神格化している私が、ちゃんと生きていることを思い出したらしい。
・・・思い出さなくてよかったのに。

ああ、そのうち逃げられなくなったら、あまり干渉してこないような人間と一人だけ子供を作ろう。、女でも、その子を跡継ぎにすればいい。

ああ・・・出来れば。

いつかそのうち、愛おしい存在と出会えればいいのに・・・。

私が、心の底から欲しいと、そう願える。
そんな人が・・・──────────────。
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