上 下
41 / 58

*貴方だけを愛し続ける

しおりを挟む

気が付いたら、誰もいなかった。



あんなに沢山いたのに。
あんなに沢山あったのに。

私はまた一人ぼっちだ。

一人は嫌だ。
一人は怖い。

ああ、女神であった頃も、いつもこうだった。



私には、親がいなかった。

親のいない女神として、周りの神々から馬鹿にされていた。

いつもいつもとても辛くて、悲しくて、彼らの中でも特に、兄に守られる愛らしい妹の神が嫌いだった。
兄神の優しい瞳には、いつも天真爛漫に笑う妹神の笑顔だけが映っていて、私が近づく度にその瞳を警戒で染めるのだ。
それがとてもとても悲しくて、一緒に遊びたいだけだなんて言うことも出来なくて。

いつも蹲って震えていたけれど。

容姿だけは人並み外れて優れていたから、私は彼らを見返すことに決めたら、瞬く間に存在感を大きくした。

気が付いたら、誰もが私の言いなりになった。
私が笑えば誰もが笑い、私が嫌えば誰でも潰された。

一番最初に消したのは、あの兄弟神。
嫌悪と憎悪の表情に、胸が空くほど高揚した。

そうやって生きてきたから、そんな私が、あんなにも美しい人に見初められるなんて思ってもみなくて。

他の誰にも目をくれず、私だけを見つめ続けて、私の足元に膝をついたこの世で一番美しく強いその神は、ミルクティーブロンドの髪に、うっとりするような紫水晶の瞳を持っていたから。
その唇から囁かれる愛の言葉にすっかり浮かれきった幼い私は、その求愛の言葉に一も二もなく飛びついた。



ああ、私は愛されていた。
愛されていると、思っていた。

だから、気を抜いていて。

その罰が下されてしまったのだ。

可愛い娘に夢中になって、あの人が尋ねてくれないことも気にしていなかった。

愛は冷めるものだって、みんな教えてくれたのに。

他でもない、浮気をして母に刺殺された父に、そのまま私をおいて自殺した母に、教えられたはずなのに。

永遠の愛など、存在しないと知っていたのに。



見覚えのあるあの女神が、あの人に愛されている。
そのくちびるに、口付けを送られている。

その姿を、消したはずの男に見せられた。

ああ、潰したんじゃない。
匿われていたのだ、彼らは。

私の取り巻きたちに、他でもない夫に、私から隠され、助けられていたのだ。

私という、害悪から。






「・・・わたしは」

いつも騒がしく、暖かく、私に優しかった屋敷は、寂れ、もう誰もいない。

使用人も、夫も、子供たちも。
もう、誰も。

「わたしは・・・」

女神じゃなくなって、母親じゃなくなって、ついには妻でも無くなった。

元々誰の娘でもなかった私に、これ以上なんの名があるのだろう。

奪い取った聖女の肩書きすら、今はもうない。

「・・・だれか、たすけて」

まるで幼子のように、天に救いを求めた。






だから、だろうか。

一筋の、光が零れたと思った。
それが、私にかかった瞬間、強く光を放ち始めたそれは、全てを覆い尽くして。

その、あまりに懐かしい力に、私は意識を飛ばした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

結婚一年、夫を愛しておりません。

杉本凪咲
恋愛
結婚して一年が経過したある日。 夫は公爵令嬢を隣に置いて、離婚を宣言しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...