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*この世で一番美しい娘
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思えば。
あの子はいつも愛される。
愛おしい私の夫は、私を愛してくれていた。
多くの女を妻に迎えても、いちばん愛してくれるのはいつだって私。
大悪魔なんぞを孕むような下賎な弱き神を娶ったのだってきっと気の迷いよ。
それに比べて私の娘は。
見て、こんなに綺麗なの。
美しくて可憐な、誰からも愛されるお姫様。
天上の光の下、小鳥のさえずりが良く似合う、ふわふわの可愛い女の子。
真っ白な羽は天使の証。
あの人と私の大切な宝物。
でもあの人は。
この子が生まれてから私の元に来てくれなくなった。
それよりもあの下賎な女と共にいる時間が増えた。
問いただしても大悪魔として生まれた息子が心配なのだと言うばかり。
お前を愛しているよと言われても、私は知っているのよ。
あの女と口付けを交わしていたあなたを。
見てしまったのよ。
丁寧に、あなたの直属の部下に誘導されて。
笑っていたわあの男。
あの女の実の兄で、私を毛嫌いしていたあの男は、本当の身の程知らずはどっちなのかと囁いたわ。
許せないわ。
あなたは嘘をついたのよ。
私に嘘をついたのよ。
幼い私の前に膝をつき、あなたが言ったの。
一目惚れだと。
永遠を共にして欲しいと。
他の誰にも脇目を振らず、あなたがそう言ってくれたから。
それでもあなたはあの女のところに行く。
私とは会ってもくれないくせに、あの女の息子を抱き上げ、笑い合う。
私のことは愛してくれないのに、私より私の娘に会いに行く。
許せないじゃない。
許せないでしょう。
私の元には来ないのに、あの子のところには行くのね。
間違った感情だって、よくわかっていた。
それでも、止められなかったのはきっと。
あの子が、誰より私によく似ていて。
私の夫の前で笑わないでよ。
「ウルド」
「ルーシェ!」
それを見たのは偶然だったと思う。
あの女によく似た醜い悪魔。
あれに駆け寄る私の娘。
陽の当たる中で抱きしめ合う様が、いつかの私たちに似ていて。
壊してやりたくなった。
あの幸福をめちゃくちゃにしたくなった。
それがなんだったのか、私には今でも分からない。
「俺の存在を代償に、あなたを堕とす」
ああでも、ただ一つわかるのは。
「ジョアンナ・・・?」
伺うような声に髪を振り乱しながら叫び続けていた私はピタリと止まった。
赤い瞳が心配げに私を見つめる。
ああ、本当に。
今世の夫は忌々しいほどにあの男にそっくりだわ。
止めてよ。
あの男そっくりの顔で私を見ないで。
分かっている。
当たり前だ。
はるか昔、まだ正統な王家であった頃の王弟であったこの男は、私の娘とあの悪魔の子孫。
それも血が濃いのだから、あの男の甥である悪魔の特徴が現れても不思議ではなくて。
ああ、でもやっぱり忌々しいのだ。
どうして私はあの子では無いの?
どうして私は愛されないの?
どうして私は選ばれないの?
その疑問が、ずっと巡り続けるから。
あの子はいつも愛される。
愛おしい私の夫は、私を愛してくれていた。
多くの女を妻に迎えても、いちばん愛してくれるのはいつだって私。
大悪魔なんぞを孕むような下賎な弱き神を娶ったのだってきっと気の迷いよ。
それに比べて私の娘は。
見て、こんなに綺麗なの。
美しくて可憐な、誰からも愛されるお姫様。
天上の光の下、小鳥のさえずりが良く似合う、ふわふわの可愛い女の子。
真っ白な羽は天使の証。
あの人と私の大切な宝物。
でもあの人は。
この子が生まれてから私の元に来てくれなくなった。
それよりもあの下賎な女と共にいる時間が増えた。
問いただしても大悪魔として生まれた息子が心配なのだと言うばかり。
お前を愛しているよと言われても、私は知っているのよ。
あの女と口付けを交わしていたあなたを。
見てしまったのよ。
丁寧に、あなたの直属の部下に誘導されて。
笑っていたわあの男。
あの女の実の兄で、私を毛嫌いしていたあの男は、本当の身の程知らずはどっちなのかと囁いたわ。
許せないわ。
あなたは嘘をついたのよ。
私に嘘をついたのよ。
幼い私の前に膝をつき、あなたが言ったの。
一目惚れだと。
永遠を共にして欲しいと。
他の誰にも脇目を振らず、あなたがそう言ってくれたから。
それでもあなたはあの女のところに行く。
私とは会ってもくれないくせに、あの女の息子を抱き上げ、笑い合う。
私のことは愛してくれないのに、私より私の娘に会いに行く。
許せないじゃない。
許せないでしょう。
私の元には来ないのに、あの子のところには行くのね。
間違った感情だって、よくわかっていた。
それでも、止められなかったのはきっと。
あの子が、誰より私によく似ていて。
私の夫の前で笑わないでよ。
「ウルド」
「ルーシェ!」
それを見たのは偶然だったと思う。
あの女によく似た醜い悪魔。
あれに駆け寄る私の娘。
陽の当たる中で抱きしめ合う様が、いつかの私たちに似ていて。
壊してやりたくなった。
あの幸福をめちゃくちゃにしたくなった。
それがなんだったのか、私には今でも分からない。
「俺の存在を代償に、あなたを堕とす」
ああでも、ただ一つわかるのは。
「ジョアンナ・・・?」
伺うような声に髪を振り乱しながら叫び続けていた私はピタリと止まった。
赤い瞳が心配げに私を見つめる。
ああ、本当に。
今世の夫は忌々しいほどにあの男にそっくりだわ。
止めてよ。
あの男そっくりの顔で私を見ないで。
分かっている。
当たり前だ。
はるか昔、まだ正統な王家であった頃の王弟であったこの男は、私の娘とあの悪魔の子孫。
それも血が濃いのだから、あの男の甥である悪魔の特徴が現れても不思議ではなくて。
ああ、でもやっぱり忌々しいのだ。
どうして私はあの子では無いの?
どうして私は愛されないの?
どうして私は選ばれないの?
その疑問が、ずっと巡り続けるから。
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