お母様が私の恋路の邪魔をする

ものくろぱんだ

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大天使ウルドの物語

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この国シュウェッツの始祖とされるのは、多くの人間と、一人の大天使・・・ウルドマキア。

大天使ウルドと呼ばれている彼女こそ、この国の異常性の鍵だった。



まず、ステンランド帝国。
この国は、大天使ウルドが多くの悪魔を相手取り、それら全てを地上に封じたことでできた国だ。

封じられた悪魔たちはいつか再び天上に昇ることを夢見て、天上に一番近い場所に国を築いた。

だからステンランド帝国は険しい山の上にある。

大天使ウルドの攻撃で山頂は広く削れ、平になった。
そこに帝国を築き上げたのだ。
だから初めステンランド帝国の住人は悪魔ばかりで、人の血はほとんど入らず、全員が平等として扱われた。
実質的なリーダーであったいちばん強く賢かった悪魔が、初代皇帝となったのだ。

だから全員が強く悪魔の血を引いている。
それは人間が血脈に組み込まれても変わらず、彼らは総じて丈夫で長生きだ。

だがそれとは反対に、悪魔たちに致命傷を負わされ、それによって穢れてしまい地上に堕ちた大天使ウルドは、同胞と生を共にすることも叶わず、人間たちに保護され、そのまま女王として祭り上げられ、人間と結ばれて国を築いた。

言わば数の差なのだが、もちろんウルドの血はどんどん薄くなる。

けれども。

それを苦に思ったのか、ウルドは己の魂に誓約をかけた。
それから時折シュウェッツの歴史に、群青の瞳を持つ存在が生まれるようになる。

それが聖女とされる存在。
そして同時に、ウルドの生まれ変わり。



「・・・これが、間違いだった」

お兄様が苦々しげにつぶやく。

「群青の瞳は、ウルドの証なんかじゃない」

薄暗い部屋の中、所狭しと並べられた本棚の中には、お兄様の語るに関する資料が詰められている。
その背表紙をなぞりながら、数冊を引き抜く。
何度もめくられたのであろうボロボロの資料をパラパラとまくって。

そうしてお兄様は、決定的な一言を語った。

「あれは、女神シュツァーニア・・・大天使ウルドの母にして、聖母と崇められながら、その身を堕落させた悪神の証。・・・本物の聖女は、ウルドの生まれ変わりは、ミルクティーブロンドを持ちながら、本来の王家たる血脈に受け継がれ続けている」

ミルクティーブロンド。
それは、私の色。

それが指すのは、つまり。

「・・・やはり、そうだったのですね」

薄々勘づいていた。
と、いうのも皇帝陛下からあの話を聞いたあと、もしやと思っていたのだ。

私が、私こそが、本物の聖女。

お母様ではなく、私。
私が、聖女だった。

大天使ウルドであった。
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