上 下
28 / 58

大天使ウルドの物語

しおりを挟む
この国シュウェッツの始祖とされるのは、多くの人間と、一人の大天使・・・ウルドマキア。

大天使ウルドと呼ばれている彼女こそ、この国の異常性の鍵だった。



まず、ステンランド帝国。
この国は、大天使ウルドが多くの悪魔を相手取り、それら全てを地上に封じたことでできた国だ。

封じられた悪魔たちはいつか再び天上に昇ることを夢見て、天上に一番近い場所に国を築いた。

だからステンランド帝国は険しい山の上にある。

大天使ウルドの攻撃で山頂は広く削れ、平になった。
そこに帝国を築き上げたのだ。
だから初めステンランド帝国の住人は悪魔ばかりで、人の血はほとんど入らず、全員が平等として扱われた。
実質的なリーダーであったいちばん強く賢かった悪魔が、初代皇帝となったのだ。

だから全員が強く悪魔の血を引いている。
それは人間が血脈に組み込まれても変わらず、彼らは総じて丈夫で長生きだ。

だがそれとは反対に、悪魔たちに致命傷を負わされ、それによって穢れてしまい地上に堕ちた大天使ウルドは、同胞と生を共にすることも叶わず、人間たちに保護され、そのまま女王として祭り上げられ、人間と結ばれて国を築いた。

言わば数の差なのだが、もちろんウルドの血はどんどん薄くなる。

けれども。

それを苦に思ったのか、ウルドは己の魂に誓約をかけた。
それから時折シュウェッツの歴史に、群青の瞳を持つ存在が生まれるようになる。

それが聖女とされる存在。
そして同時に、ウルドの生まれ変わり。



「・・・これが、間違いだった」

お兄様が苦々しげにつぶやく。

「群青の瞳は、ウルドの証なんかじゃない」

薄暗い部屋の中、所狭しと並べられた本棚の中には、お兄様の語るに関する資料が詰められている。
その背表紙をなぞりながら、数冊を引き抜く。
何度もめくられたのであろうボロボロの資料をパラパラとまくって。

そうしてお兄様は、決定的な一言を語った。

「あれは、女神シュツァーニア・・・大天使ウルドの母にして、聖母と崇められながら、その身を堕落させた悪神の証。・・・本物の聖女は、ウルドの生まれ変わりは、ミルクティーブロンドを持ちながら、本来の王家たる血脈に受け継がれ続けている」

ミルクティーブロンド。
それは、私の色。

それが指すのは、つまり。

「・・・やはり、そうだったのですね」

薄々勘づいていた。
と、いうのも皇帝陛下からあの話を聞いたあと、もしやと思っていたのだ。

私が、私こそが、本物の聖女。

お母様ではなく、私。
私が、聖女だった。

大天使ウルドであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...