お母様が私の恋路の邪魔をする

ものくろぱんだ

文字の大きさ
上 下
8 / 58

◇女神との出会い

しおりを挟む

初めに映ったその景色が、本当であるのか、今でも覚えていない────────。



路地裏で、倒れて。

死ぬな、と思って意識を飛ばして、目覚めたら貴族の屋敷にいた。

ぴょこぴょこと揺れる癖のあるミルクティーブロンドに、一瞬で目を奪われたと思う。

綺麗だな、と思った。
大きな薄い翠の瞳が、俺を覗き込んで。

めいっぱい見開かれた瞳が、こぼれ落ちそうなそれが。
緩んだ頬と、嬉しそうに輝く翠が。
薔薇色に染まる頬が。

─────いとおしい。

なんて、愛らしい。

そう思った自分にまずびっくりしたし、夢の中で見た女神にそっくりな天使様であることにもう一度びっくりした。

・・・そうだ、俺は女神様に救ってもらったのだ。

最初はあどけない、子供の声だとばかり思った。

でもそのあと開いた目に飛び込んできたのは優しげな女性で、かけられた声もさっきのものによく似ていたから、きっと彼女のものなのだ。

彼女が、のだろう。

そう思うと嬉しくてたまらなかった。
この天使はあの方の娘なのかもしれない。
そうだろうな、そうだといい。
だってこんなにも可愛らしい。

舞い降りた奇跡のような少女が、何かを話している。
ぼんやりとした思考回路のまま、胸を張った少女に頬を緩めた。

可愛い。
すごく可愛らしい。

フサフサの髪の束も、少し乱れて跳ねたそれも、色の合わない服装も。

少しのすらどうでも良くなるくらいに、その子に心奪われていた。



「えっ、お嬢様に従者がついていないんですか!?」

メイドすらついていないなんて有り得るのか?
そう思って年上の使用人にそう聞けば、返ってくるのは面倒くさそうな声と、呆れたような冷たい視線。

「お嬢様にそんなもの必要ありません・・・それより、あなたには奥様のそばで─────────」
「っ・・・お、俺がやります!」
「・・・はい?」

わかっている。
奥様に仕えたい気持ちはあるし、そうするのが正解なのは理解している。

それでも、あの小さな子がこの広い屋敷で一人ぼっちだなんて、考えるだけで辛いのだ。

「やります。お嬢様の・・・専属従者」
「・・・いいのですね?奥様のそばに侍らず」
「・・・いい、です。・・・奥様には、後で謝っておきます・・・」



俺は知らなかった。

俺を見つけてくれたのがお嬢様であること。

奥様への言葉足らずの謝罪は、その勘違いに奥様が気づくほどのものでは無かったこと。

お嬢様は、俺がお嬢様に恩があるからこそ専属になったと思い込んでいること。

お嬢様と奥様以外の一人も、俺を救ったと、正しく理解していないこと・・・。

俺は、何も知らなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら
恋愛
ファバン大国の皇女として生まれた娘がいた。 1人は生まれる前から期待され、生まれた後も皇女として周りの思惑の中で過ごすことになり、もう1人は皇女として認められることなく、街で暮らしていた。 彼女たちの運命は、生まれる前から人々の祈りと感謝と願いによって縛られていたが、彼らの願いよりも、もっと強い願いをかけていたのは、その2人の皇女たちだった。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

処理中です...