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◇女神との出会い
しおりを挟む初めに映ったその景色が、本当であるのか、今でも覚えていない────────。
路地裏で、倒れて。
死ぬな、と思って意識を飛ばして、目覚めたら貴族の屋敷にいた。
ぴょこぴょこと揺れる癖のあるミルクティーブロンドに、一瞬で目を奪われたと思う。
綺麗だな、と思った。
大きな薄い翠の瞳が、俺を覗き込んで。
めいっぱい見開かれた瞳が、こぼれ落ちそうなそれが。
緩んだ頬と、嬉しそうに輝く翠が。
薔薇色に染まる頬が。
─────いとおしい。
なんて、愛らしい。
そう思った自分にまずびっくりしたし、夢の中で見た女神にそっくりな天使様であることにもう一度びっくりした。
・・・そうだ、俺は女神様に救ってもらったのだ。
最初はあどけない、子供の声だとばかり思った。
でもそのあと開いた目に飛び込んできたのは優しげな女性で、かけられた声もさっきのものによく似ていたから、きっと彼女のものなのだ。
彼女が、俺を見つけて救ってくれたのだろう。
そう思うと嬉しくてたまらなかった。
この天使はあの方の娘なのかもしれない。
そうだろうな、そうだといい。
だってこんなにも可愛らしい。
舞い降りた奇跡のような少女が、何かを話している。
ぼんやりとした思考回路のまま、胸を張った少女に頬を緩めた。
可愛い。
すごく可愛らしい。
フサフサの髪の束も、少し乱れて跳ねたそれも、色の合わない服装も。
少しの違和感すらどうでも良くなるくらいに、その子に心奪われていた。
「えっ、お嬢様に従者がついていないんですか!?」
メイドすらついていないなんて有り得るのか?
そう思って年上の使用人にそう聞けば、返ってくるのは面倒くさそうな声と、呆れたような冷たい視線。
「お嬢様にそんなもの必要ありません・・・それより、あなたには奥様のそばで─────────」
「っ・・・お、俺がやります!」
「・・・はい?」
わかっている。
拾ってくれた奥様に仕えたい気持ちはあるし、そうするのが正解なのは理解している。
それでも、あの小さな子がこの広い屋敷で一人ぼっちだなんて、考えるだけで辛いのだ。
「やります。お嬢様の・・・専属従者」
「・・・いいのですね?恩ある奥様のそばに侍らず」
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奥様への言葉足らずの謝罪は、その勘違いに奥様が気づくほどのものでは無かったこと。
お嬢様は、俺がお嬢様に恩があるからこそ専属になったと思い込んでいること。
お嬢様と奥様以外の一人も、俺をお嬢様が救ったと、正しく理解していないこと・・・。
俺は、何も知らなかった。
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