お母様が私の恋路の邪魔をする

ものくろぱんだ

文字の大きさ
上 下
7 / 58

ステファーニエとの出会い

しおりを挟む

ガタゴト揺れる馬車は案外座り心地がいい。
流石は大公家の馬車、と。

お母様が一緒じゃない時はもっと揺れの酷い馬車に乗っている私は幼ながらにそう思った。

身を乗り出しながら外を眺める私に、微笑ましげな視線を送るお母様と、その興味を自分に向けようとお母様にちょっかいを出すお父様。
そして、空気のように存在感を消し、壁を作るお兄様。

確かその日は初めての家族全員のお出かけだった。

その頃の私は、ほんの少しの疑問も抱くことがなくお母様が大好きで、お母様は女神様だって本気で思ってた。

だってお母様は本当に綺麗で、とっても優しい。

深い群青の瞳は常に優しくて、波打つ黒の髪は柔らかくて、お父様の白の髪も捨て難いけど、本当はお母様みたいな髪で生まれたかった。

色以外そっくりそのままの癖に、と言われるかもしれないけど、お母様は私の理想だったのだ。

だから私もいつかお母様と同じ色になって、お父様のような方に見染められて、そして聖女様になるんだって、その時の私は疑いもしなかった。
まあ、ちゃんと学んでいれば物理的に無理だってことに気がついたと思うけど。

今代の聖女が生きている間、二人目はありえない。

そもそも聖女自体が不必要となった魔王討伐後に廃れ、お母様の代で復活したのだ。
それが今後続いていく保証もない。
なんせお父様はお母様に倒されてしまったのだから。

私はご機嫌だった。
鼻歌を歌ってはお兄様にうるさそうに眉をしかめられ、足を揺らしてはお父様に鬱陶しそうな目を向けられながらも。
私はご機嫌だった。

街に入った時、窓の外によぎったあるものを見て、私は雷が落ちたような衝撃が走ったのを感じた。

「おかあさま!馬車をとめてください!」
「えっ、エルちゃん!?」

動く馬車の扉を開く。
私が飛び降りようとした時にちょうど止まった馬車。
そのまま地面に降り立って、その年頃にしては素早く、私は先程の景色に逆らって走った。

「エルちゃん!」

遠くでお母様が呼ぶ声が聞こえたけど、無我夢中で走って。

その先の細い路地のあるところに、うつ伏せに倒れる灰色を見つけた。

私より少し体が大きいだろうか、骨の浮いた細い手が微かに動く。

聖女に憧れるその頃の私は全くの怖いもの知らずだったので、すぐさま・・・というか嬉々としながら「大丈夫!?」と叫んだ。

貴族の令嬢の戯れにしては、スカートを地面につけてまで助けようとする様子に何を思ったのか野次馬ができ始める。
それに気付いたお母様が乱入してきてすぐに視線は全てお母様に行ったけど。

「聖女様・・・?」
「聖女様だ」
「聖女ジョアンナ様・・・」

お母様は子供を見て目を見開くと、すぐさまその軽い体(その頃の私には非常に重かった)を壁にもたれさせ、治癒魔法を使った。

良かった、これでこの子は助かるわ。

ほっと息をついていると、身動ぎした子供が薄く目を開く。

固唾を飲んで見守る野次馬たちと同じ反応で、瞳を見つめた。

・・・その瞳は、鮮やかな紫。

その瞳は、震えながら野次馬たちと、私を滑り、お母様を見て止まった。

それに優しく微笑んだお母様は、「安心してお眠りなさい」と囁いた。

そうして、(私とお母様の抗議で)連れて帰ったのが、ステファーニエ・・・ちなみに、私が命名した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく
恋愛
 愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。 その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。  必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?  聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。 ***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。 その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。 そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。 その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。 そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...