私以外全員二度目!?

ものくろぱんだ

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プロローグ 君がいなくなる一日前まで生きたい

例えばそういう物語があったとして

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酷く眠たかった。目を閉じたらいけないのに、重くなる体と重力に抗わず地面に伏せる姿勢に瞼が落ちかけた。色んな感覚が鈍いのに、よくもまあ眠れるものだと感心すらしてしまう。本来なら抗わなくてはならないそれも、視界いっぱいに広がる赤色に気力も失せて。そのまま、瞼を落とし─────────。









ジリリリリリリリリ!!!!

「ふぉっ······!?」

耳元で鳴り響いた音に思わず飛び起きる。我ながら情けない声を出してしまい、一人のくせに決まりが悪くなった。とりあえずいまだ鳴き続ける目覚まし時計を止めて、はて、今日は休みではなかったかと首を傾げた。見慣れた室内はなんだか物が少なくて、ひっそりとしている。代わりに隅の方にぱんぱんのリュックサックが置いてある。

「ゆうー!早く起きて!」
「あ、はーい」

リビングからよく通る声が聞こえてきた。言わずもがな、我が兄である。ササッと着替えて下に降りれば、ちょうど朝食のパンが焼きあがったところだった。分厚いトーストが白い皿の上に置かれる。その横に添えてある······と言うには存在感が大きすぎる巨大な蜂蜜の瓶。私は大好物に目を輝かせていそいそと椅子に座った。テレビを付ける。

『続いてのニュースです。昨日午後八時頃──────』

代わり映えしないニュース番組を眺めつつ、大きめのスプーンで蜂蜜をすくって垂らす。飲みたいくらいとろとろと甘い匂いをさせる蜂蜜に思わず頬が緩んだ。

「コーヒーもあるよ」
「いるぅ」

最高だ。特に野菜がないのがいい。自他ともに認める野菜嫌いがそう思いつつ頷くと、兄が向かいに座った。

「ゆう、もちろん今日の準備は終わってるんだよね?」
「?今日······?」

はて、何かあったろうか。

「ゆう······今日、引っ越しだって忘れてない?」
「あ」

トーストにたっぷりかかった蜂蜜がぽたりと垂れた。





















数日前のことである。

「ゆうちゃん晴間くん、お父さん海外に出張になっちゃったの!お母さんそれについて行くことになったから」
「二人は俺の母さんの所に行ってもらっていいか?晴間の仕事場は今より近くなるぞ。ただ、ゆうは別のところに編入になるんだが······」

目の前でへらへらと笑いながら言うのは両親だった。子供の贔屓目なしに美男美女。ディ○ニー映画から抜け出してきたお姫様と王子様と言われても納得出来る美貌。いつも楽観的でへらへらとしていて、そのくせ基本スペックが高いので会社でもかなり高い立ち位置の父と、頭お花畑なのかな?と思うくらい色々ゆるゆるだが基本スペックが高いので専業主婦として家事をする片手間個人で始めたハンドメイドが大当たりして依頼がひっきりなしに舞い込む母。だいぶ濃い。ちなみに兄はとある喫茶店の従業員をしながら小説家として本を出していたりもする。なんだこいつら。
まあとにかく天から光が降り注ぎ花が咲き乱れ動物たちに祝福されて妖精のまじないを受けて生まれてきたのかな?と思うくらいちょっと頭が緩めでハイスペックな両親は、出張に行くだとか引越しするだとか、そんな大切なことをほんの数日前に言いやがったのである。

もちろん私、そして兄は苦情を呈した。そりゃあもう散々に言った。しかしながら流されやすいくせに頑固な両親はもう決まったことだから、とさっさと荷物をまとめて行ってしまったのである。
そして私たちは半強制的な引越しと転校が決まった。


















部屋に戻って荷物を手に取る。両親が出て直ぐに引越し業者がやってきて、残った荷物だけを詰め込んだリュックサックである。溜息をつきながら背に背負い、外に出る。既に車を出している兄とガラス越しに目が合った。ジェスチャーで訴えられ、大人しく後ろに乗る。

「ゆう、しばらくかかるから寝てていいよ」
「······うん」

寝ることが好きだ。夢を見るのが好きだ。昔からよく寝る子供だったので、いくら寝ても眠くなる。
目を閉じたらあっという間に意識が沈んだ。
































夢を見た。

暖かな風が吹いた。木漏れ日の漏れる庭の中、向かいに座った老婦人に勧められるがまま、カップに口をつけた。老婦人が何かを喋ると、さわさわと木の葉が揺れて、幻想的で、美しくて、物悲しくて。手を伸ばすことも躊躇われて、結局カップの中身ごと、全て飲み込んだ。

そんな夢を見た。




























「はじめまして、ゆうちゃん、晴間くん。御伽園江です。あなたたちのおばあちゃんです」

初めて会った祖母だという人は、目を見張るような豪邸の中、少しも見劣りすることの無いしゃんと背の伸びた歳を経てなお美しいと思わせる、そんな人だった。
ティファニーブルーの瞳がこちらを見て嬉しそうに笑う。

「会いたかったわ······とってもね」

その言葉がなんだか含みを持っていて、私は思わず首を傾げた。

「明明後日からゆうちゃんは私が理事長を勤めるアカデミーに編入生として入ってもらいます」
「はい······て、理事長って、園江······さんが?」
「まあ、おばあちゃんでいいのよゆうちゃん。そう、私、イウアカデミーの理事長をしているの」

にこにことそう言う園江さん······否、おばあちゃんがそっと私の手を取った。

「······ちゃんと守るわ、今度はね」

穏やかで、優しくて、ちょっと涙の出るくらいあったかい声だった。




















───この春、私は運命を変える出会いを果たす。
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