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12.イメージって?

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 広場はジェラートを楽しむ人々でにぎわっていた。
 座れるかと思ったけど、
 ちょうどテーブル席が空いていた。
 ジェラートは、わたしはオレンジ。
 ライガは、グレープ。
 ミレイさんは、
 ジェラートメガ盛り、五段重ね。
 ……って、多い!!

「そんなに食べるんですか!?」

 思わず言うと、
 ミレイさんはしょぼんとした顔になった。

「やっぱり、おかしいかしら」

「あ、いえいえ!
ビックリしただけです」

「……ほんと?」

 うっ、カワイイ!!
 しょんぼりした顔とあいまって、
 捨てられた子犬ちゃんみたい!

「よかった。
夢だったのよ~。
こんなにたくさん甘いものを食べるの!」

 ミレイさんはニコニコして、
 スプーンでジェラートをすくっている。

「……いつもは、こんなに食べないんですか?」

 ライガが聞くと、
 ミレイさんは
 「ええと……、最近ダイエットしてて」
 と言った。
 こんなにスラっとしてるのに、
 ダイエットとな。
 すごいなぁ。
 しばらくおしゃべりをしつつ、
 ジェラートを食べる。

「あ、ヒカリちゃん。
お口の端が汚れてる」
 
 ミレイさんはポケットから
 ハンカチを取り出して、
 ぬぐってくれた。
 
「わ、ごめんなさい!」

「いいのよ」

 ふわっとミレイさんが笑う。
 さっきから、この笑顔、どこかで見たことあるんだよね。
 うーん……。
 あ。

「シロ兄みたい」

 ぽつん、とそんな言葉が口から出た。
 顔は全然違うけど、なんか、そう思ったんだよね。

「あ、ヒカリちゃんもそう思ってた?
おれも、なんか似てるなーって思って」

「……わたしが、だれかに似てる?」

「あの、気を悪くしたらごめんなさい。
わたしたちのお兄ちゃんみたいな存在……。
シロ兄に、似てるなあって」

「……」

 思い切って言ったけど、
 やっぱり、男の人と似てるって言われたら、
 ショックかな?

「そのシロ兄って人は、
女の人みたいな顔をしてるの?」

 静かなミレイさんの問いに、
 シロ兄を思い浮かべる。
 キリッとした、イケメン。
 だけど、女の人には見えないなあ。

「いえ。
あ、でも、甘党でカワイイもの好きです」

「え! そうなの?」

 驚いてるライガに、
 わたしは内心ビックリしつつうなずく。
 あれ? ライガ、知らなかったの?
 シロ兄が小さい頃、
 ホットケーキにシロップをめちゃくちゃたくさんかけて、
 かけすぎ! 
 って母さんたちに注意されてたじゃん。
 ライガも、
 「シロ兄に半分あげる!」
 ってあまーいショートケーキをあげたり。
 あと、シロ兄、かわいいゆるキャラが好きで、
 ゆるキャラが出てくるアニメを真剣に見てたっけ。
 わたしとライガは、
 そのうしろで戦いゴッコしてたりして……。
 うーん?
 まあ、わたしたちが本当に
 ちっちゃいころの話だからなー。
 ライガは忘れちゃったのかもね。

「うん。
今はどうかわかんないけど、
昔はそうだったよ」

 そういえば、気がついたら、
 シロ兄が甘いものを食べてるところ見なくなったな。
 昔はもってたゆるキャラグッズも、全然身に着けてないし。

「えー。意外。
イメージと違うなぁ」

 んん?
 ここでも違和感。
 ライガ、こんなこと言う?
 いつもなら、
 「シロ兄、かわいー」
 みたいに言って、
 ニコニコしてるのに。

「イメージと違う……。 
どうして、そう思うの?」

 ミレイさんの問いかけにハッとする。
 なんだか、いやに真剣な目だ。

「えっと、シロ兄、剣道強いし、
言葉も行動もカッコイイし……。
男子の憧れのカタマリみたいな人なんですよ」

 ミレイさんの雰囲気に気づいてるのか、
 気づいてないのか……。
 ライガはうきうきと、
 自慢の兄的存在のシロ兄について語りだす。

「三人兄弟の末っ子で、
お兄さんふたりもみんな武道を習ってるんです。
シロ兄、将来は、
警察官か消防士になりたいって言ってて、
さすがシロ兄だなー、カッコイイなーって」

「……それがウソだったら?」

「……え?」

 ライガの話が、ぴた、ととまる。
 ミレイさん……?
 なんだか、様子がおかしい。

「イメージって、やっかいだよな。
他人から見た、理想の押しつけ。
イメージと違う行動をとると、
からかわれたり、引かれたり……」

 ひとりごとのようにミレイさんはつぶやく。
 なんだか、口調が違うような?
 疑問に思ってると、
 ミレイさんはハッとわれにかえったようだった。

「……、ごめんなさい。
今日は、もう帰るわ」

 「最後に、これをあげる」と、
 ミレイさんはもっていたデカぬいぐるみを、
 わたしに差し出した。

「えっ、あげるって、
本当にいいんですか?」

「今日のお礼。
……じゃあね」
 
 どこかさびしそうにほほ笑み、
 ミレイさんは去って行った。
 人ごみにまぎれて、すぐにその姿が消えていく。
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