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8.作戦開始!
8-2
しおりを挟む「ふえっ!?」
悲鳴を上げるデンジくん。
その瞬間、がくんっとライガの体がはねた。
ダンスの途中なのに、完全に動きがとまってしまう。
作戦通り!
わたしが何をしたかって?
だーれだ?
だよ!
後ろから、デンジくんの両目を手でおおったんだ。
集中してたぶん、デンジくんは驚いたみたい。
動かなくなったライガに、ざわめく会場。
そうこうしているうちに、音楽が終わってしまった。
「これは……、
最初はカンペキに手本通りのダンスをしていましたが、
途中でとまってしまいましたね。
いったい、ライガ選手に何があったのか⁉」
ライガは青い顔をしている。
先生は優しく、
「急にどう踊ればいいか、
わかんなくなっちゃったのかな?
アドリブは、ダンス部員でも難しいからね」
と声をかけていた。
「とにかくっ、ここで言えることは……、
勝者は、確実に決まっているという……」
「意義あり! なんだぞ」
音鳴くんの実況が、さえぎられる。
デンジくんはわたしの手をはずすと、こっちを振り向いて、
ギロッとにらみつけた。
「コイツがジャマをしたんだぞ!
ジャマさえなければ、勝ってたのはライガ!
なんだぞ!」
ジャマ? とハテナマークを浮かべる観客たち。
そりゃあ、そうだよね。
まさか、デンジくんが操り人形みたいに、
電気を使ってライガを操ってたなんて、
わかるはずがない。
「ううう……!」
デンジくんは、真っ赤な顔になって唇をかみしめ、
うつむいてしまった。
「こんなの、反則だ! ずるい!」
ダンダンと足を床にうちつけ、地団駄を踏むデンジくん。
「……デンジ、いいよ。おれの負けだ」
弱々しいライガの声に、デンジくんがハッして顔をあげた。
「ライガ……?
そんなの、ダメだ。
ライガは、ぼくが有名にしてあげるんだぞ。
こんなとこで、負けるなんて、ありえない!
ありえないいい!」
デンジくんは、うでを振り上げた。
ぴろろろ~んっ!
教室中で鳴り響く、スマホの着信音。
みんなが不思議そうな顔でスマホをとりだす。
まずい!
きっと、これは催眠動画だ!
「みんな、見ちゃダメ!」
わたしの思いもむなしく、
ほとんどの人が動画を見て、かたまっている。
それから、みんな、いっせいにスマホから顔を上げた。
ロボットみたいに、統率された動き。
ひいい、目が! 目が、ギラギラしてるよ!
「ライガの勝ちだよ!」
「そう、踊り切ったのは、ライガだ!」
「あああ! そうだ、勝者はあああ、ライガ!」
「ライガアアアァァァッ!」
ライガ! ライガ! と、
さけびながら、観客たちがわたしめがけておそってきた!
「助けて、クリスうぅっ!」
「まかせて!」
クリスは瞬時にわたしのそばに人型になってあらわれてくれた。
でも、なぜに制服のワンピース姿?
髪も、いつもの銀色じゃなくて、
ピンク色……って、これは、まさか!
「モード:ローズクォーツ」
つややかな唇でつぶやくクリス。
ふうっとなまめかしく息をつくと、
そこからバラの花びらが生まれて舞った。
次々と生まれるバラの花びらは、渦を巻いて教室中を包みこむ。
「うわ⁉」
「きゃあああ!」
人々の悲鳴が聞こえる。
そこに……。
「まったく。みんな、しっかりして」
色っぽい、甘い声。
バラの花びらの洪水の中、あらわれたのは、クリスだ。
いつもよりずっと、ずう~っと色っぽい。
「見るなら、スマホじゃなくて、ぼくを見てよ」
クリスがそう言ってニコッと笑うと……。
まさに、それは女神。
暴走してた人々も、ぽわ~んとして、
口々に「女神だ……」、「神さま」とつぶやいている。
「さ、きみたちは全員出て行って。
そして、教室にはだれも入れないように」
人々はクリスの言葉に従い、ふらふらと教室を出て行った。
これこそ、クリスの数ある能力のひとつ。【魅了】だ。
クリスは、フツーの水晶ってだけじゃない。
いろんな水晶に、モードチェンジできるんだって。
例えば、今のクリスは「紅水晶(べにすいしょう)」モード。
紅水晶は、「ローズクォーツ」とも言うね。
ピンクのバラ色の水晶のことをそう言うんだけど、
このローズクォーツには言い伝えがある。
それは、ギリシャ神話に登場する、
愛と美の女神アフロディーテの吐息がクリスタルにかかった瞬間、
バラ色のクリスタルとなり、
ローズクォーツが生まれた、というもの。
見るものをとりこにする女神様にちなんでか、
このローズクォーツモードの時のクリスの【能力】は、
【魅了】なんだって。
わかってても、
すっごい色っぽいクリスにドキドキしちゃうよ~!
美人すぎる!
って、ダメダメ。集中、集中!
教室に残ったのは、わたしとクリス、
ライガとデンジくんだけになり、
ピリピリとした緊張感がただよっていた。
「ちっ、オマエ、
ずっとぼくたちをおさえこんでた、水晶だなっ!」
デンジくんはイライラとして叫んだ。
「いつもいつもジャマばっかりして!
オマエなんて、キライなんだぞっ!」
デンジくんの周りに、バリバリッと火花が散る。
「えいっ!」
デンジくんがクリスを指さすと、
一瞬、金色の光がほとばしった。
ひえっ、まさか電撃⁉
「……、うん?」
クリスの反応は、そんな感じ。
……、意外と、大丈夫そう?
そっか……、クリス、石だもんね。
電気は、流れないんだ。
デンジくんはむうううっとほっぺをふくらませた。
「じゃあ、こっちの人間はどうだっ!」
デンジくんの指がわたしにむけられる。
ちょっ、やば……っ!
その時、わたしの前にだれかが立ちふさがった。
「ぐあっ!」
バチッと金色の光がはぜる。
「っ、ライガ!」
わたしを守ってくれたのは、ライガだった。
そのまま、ライガはくずれおちてしまった。
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