【完結】宝石★王子(ジュエル・プリンス) ~イケメン水晶と事件解決!?~

みなづきよつば

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2.ジュエル・プリンス

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 ……?
 ……なんか、ヘンな感じ。
 視線、みたいなのを感じる。
 宝石たちが、いっせいにわたしを見つめているような……?
 くすくす。ひそひそ。
 ひそやかな笑い声と、ナイショ話の声。
 いったい、どうなって……。

「……ん? 
これ、プラチナじゃねーな。
シルバーか。
日本製だな。昔の刻印がある」

 アニキさんの声で、現実に引きもどされる。
 今のは、なんだったんだろう?
 気のせい、だよね。
 アニキさんは、
 トランクの中にあったジュエリーのひとつを手にとり、
 ルーペをのぞきこんでいた。
 あ、ルーペっていうのは、ものを拡大して見るときに使う道具のことね。
 宝石の状態や、金やプラチナについてる刻印を見るのに使うよ。

「ん~、石の方は本物の宝石っぽいな。でも、地金(じきん)が銀じゃな……」 

 次々と宝石を鑑定していくアニキさん。
 残念がってるのは、使われてる金属がプラチナじゃなくて銀だからかな。
 同じ銀色の金属でも、プラチナの方が、銀よりもずっと価値が高いからねー。
 だから、高級な宝石は、金やプラチナにセットされてることが多いんだ。

「まあ。いいか。
もらっとくぜ」

 ぱたん、とトランクが閉められる。
 うう、もっと見てたかった……。
 母さんってば、こんなに素敵なジュエリーを隠してたなんて。
 しょぼーんとしてるわたしを見て、アニキさんがはあ~っとため息をついた。
 なんだろう? と思っていると、再びトランクが開かれる。
 そこから、ひとつのペンダントが取り出された。
 アニキさんはそのペンダントを、ずいっとわたしにむかって突き出す。

「とっときな」

「へ?」

 い、いいの?

「これは銀だし、
ペンダントトップの水晶にも内部にヒビが入ってるからな。
売りもんになんねーから、やるよ」

 売り物にならない、なんてことはないと思うけど。
 おそるおそる、アニキさんのもつ水晶をのぞきこむ。
 ……あ! これ……。レインボークォーツだ。
 確かに、水晶の内部にひび割れ(英語で、『クラック』って言うよ)はある。
 でも、このクラックの面が光を反射すると……
 ほら、ちらちらと虹色の光をはなつんだ。
 虹の女神さまにちなんで、アイリスクォーツとも呼ばれるこの石は、
 「幸福」や「希望」の象徴でもある。
 それを、この石に詳しいアニキさんが知らないはずはない、よね?
 とまどっていると、アニキさんは頭をがしがしとかいて、つぶやいた。

「……好きなんだろ? 宝石が」

 ……ア、アニキさ~んっ!
 わたしは思わず心の中でさけんだ。

「じゃあ、遠慮なく」

 わたしはそのジュエリーを、そっと受け取った。
 五センチくらいのしずく型の水晶の周りは、
 美しい銀の曲線で彩られている。
 ため息が出るほど美しい細工のなされたジュエリーだ。
 もう一度、セットされている水晶をのぞきこんでみる。
 ……あれ?
 虹とともに、水晶の中に、人影が見えた。
 整った顔立ちの、銀髪の……少年?
 その瞳は閉じられていて、眠っているみたいだ。
 何、これ……。

「ジュエル・プリンス……」

 母さんのため息まじりの声で、はっとわれにかえる。
 水晶の中の人影はもう消えていた。

「その王子たちは、とくに気難しいの。
王子のお相手をするには、あなたたちは力不足じゃないかしら」

 いつもの穏やかな母さんの、珍しく厳しい声色。
 わたしは、さっきのおかしな視線や笑い声のことを思い出す。
 アニキさんと弟分さんが、思わず息をのむのがわかった。

「……へっ、なーにが『王子』だ。ただの石に、そんなこと言いやがって」

 弟分さんの方が強がるも、アニキさんの方は無言だ。

「……肝に銘じておくよ」

 たっぷりの沈黙のあと、アニキさんはそう言った。
 こうして、母さんのジュエリーコレクションをすっからかんにして、
 ヤクザさんたちは去っていったのだった。
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