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2.ジュエル・プリンス
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キラキラの洪水(こうずい)。
情熱の赤いルビー。
涼やかな青いサファイア。
それに、いやしの緑のエメラルド。
なによりも、ハッとするような強い光を放つ、ダイアモンド。
それらの宝石たちが次々と袋につめられて……。
「おい、コラァッ!
もう隠してる宝石はねーのか⁉」
ヤクザさんたちに、没収されていってます……。
ひとりはひたすら宝石を袋につめ、
もうひとりは母さんのクローゼットを開けて、
高級ブランドの服を引きずり出してる。
「うー、もう。
大事にあつかってねぇ。
みんな、かわいい子たちばかりなんだから。
あ、ヒカリちゃん、そっちの金庫の出してくれる?」
こんな修羅場でも、母さんは相変わらずだ。
ほんわかとしながらわたしに指示を出す。
「はぁい……」
わたしは力なく返事をしつつ、
ゾンビのようにふらふらと金庫へ向かった。
そもそもこうなった原因は、母さんにあるのだ。
ウチの父さんの会社は、結構な有名企業だ。
でも、不況と社員の起こした不祥事のせいで、
経営状態がキビシイ状態にあった。
なのに、母さんったら、アヤシゲなところからお金を借りて、
いつも通りにジュエリーを買い続けちゃって……。
とうとう会社が倒産し、ウチは多額の借金をかかえた。
それと同時に、ヤクザさんたちが家に押し寄せてきたのだ。
ちょうど父さんがいないときにね。
ああ、わたしの人生、どうなっちゃうんだろう……。
一応、社長令嬢として生きてきた身としては、お先真っ暗すぎる。
はあ、とため息をつきつつ、
金庫から取り出したネックレスやブレスレットをヤクザさんにわたす。
それにしても、このヤクザさん、ジュエリーを雑にあつかうなぁ。
って、ああっ!
「ダメですよ!
宝石はひとつひとつ、丁寧に布袋に入れないと!」
思わず、ヤクザさんに声をかけてしまい、ギロリとにらまれる。
ひい、コワイ……。
「うるせえなあ。
ダイアのジュエリーはダイアで、ひとまとめにしてんだよ」
なんですと……!
カチッとわたしの頭の中で「宝石スイッチ」が入った音がした。
「ぜ~ったいダメ! そんなことしたら、ダイアに傷がついちゃう!」
びっくりした顔をするヤクザさん。
「何言ってんだ。
ダイアが世界で一番硬い石ってくらい、おれだって知ってるぜ?」
「確かに、ひっかき傷に強いかっていう『モース硬度』って基準では、
ダイアは最高基準の硬度十。
ルビーやサファイアより、ずっと傷つきにくいよ。
でもね……。
雑にあつかって、ダイア同士がカチカチこすれあったら、傷がつくの。
ダイア同士は、モース硬度が同じなんだもの」
まくしたてるように言うと、
ヤクザさんは「そ、そうなのか」とひとまとめにして入れていた袋から、
丁寧にダイアのジュエリーを取り出しだした。
そして、わたしに言われた通り、やわらかい素材の布袋にひとつひとつしまいだす。
「ちなみに、ダイアは割れにくさでいう『靭性(じんせい)』は、
そこまで高くないの。
だから、カナヅチで叩くと、粉々に砕けちゃうんだから」
「えっ、砕けんのか⁉」
「そう!
日常生活でもジュエリーを雑にあつかってると、
ダイアが割れちゃうことだってあるんだよ!」
「ほ~」
ふんふんと鼻息を荒くして語るわたしと、手をとめて感心してるヤクザさん。
「はは。嬢ちゃん、なかなか詳しいじゃねーか」
そこに、クローゼットをあさってた方のヤクザさんが声をかけてきた。
「あ、アニキ!」
ヤクザさんが、びしっと姿勢を正す。
このアニキって人、お偉いさんなのかな?
二十代後半くらい? 大学生よりはちょっと年上くらいのワイルドなイケメンさんだ。
「コルァッ!
てめー、何サボってんだ!
それに、この嬢ちゃんの言う通り、宝石は丁寧にあつかえって言ったろ!」
「すんませんっ!」
アニキさんに怒られ、ヤクザの弟分さんの方が、がばっと頭を下げる。
アニキさんはふん、と鼻をならし、持っていた小さなトランクをテーブルの上に置いた。
「クローゼットに隠してたな。
奥さん、これもいただいてくぜ」
トランクの表面には、英語が彫ってあった。
ええと……、「Jewel Princes」、「ジュエル・プリンス」……。
あ、正確には「プリンスィズ」。複数形か。
日本語に訳すと、「宝石王子たち」だね。
「それは……」
母さんの眉が、困ったように八の字になる。
「なんだ? イヤだとは言わねえよな?」
アニキさんはニヤリと笑みを浮かべ、パチン、とトランクを開けた。
中に入っていたのは……。
「わあっ!」
わたしは思わず声を上げた。
キレイなジュエリーが、たくさん!
トランクごと、宝石箱になってたんだね。
宝石をセットしてるプラチナ(かな?)の細工がものすごく細かくて、
高級感にあふれてる。
宝石も、いろんな種類があるなあ。
情熱の赤いルビー。
涼やかな青いサファイア。
それに、いやしの緑のエメラルド。
なによりも、ハッとするような強い光を放つ、ダイアモンド。
それらの宝石たちが次々と袋につめられて……。
「おい、コラァッ!
もう隠してる宝石はねーのか⁉」
ヤクザさんたちに、没収されていってます……。
ひとりはひたすら宝石を袋につめ、
もうひとりは母さんのクローゼットを開けて、
高級ブランドの服を引きずり出してる。
「うー、もう。
大事にあつかってねぇ。
みんな、かわいい子たちばかりなんだから。
あ、ヒカリちゃん、そっちの金庫の出してくれる?」
こんな修羅場でも、母さんは相変わらずだ。
ほんわかとしながらわたしに指示を出す。
「はぁい……」
わたしは力なく返事をしつつ、
ゾンビのようにふらふらと金庫へ向かった。
そもそもこうなった原因は、母さんにあるのだ。
ウチの父さんの会社は、結構な有名企業だ。
でも、不況と社員の起こした不祥事のせいで、
経営状態がキビシイ状態にあった。
なのに、母さんったら、アヤシゲなところからお金を借りて、
いつも通りにジュエリーを買い続けちゃって……。
とうとう会社が倒産し、ウチは多額の借金をかかえた。
それと同時に、ヤクザさんたちが家に押し寄せてきたのだ。
ちょうど父さんがいないときにね。
ああ、わたしの人生、どうなっちゃうんだろう……。
一応、社長令嬢として生きてきた身としては、お先真っ暗すぎる。
はあ、とため息をつきつつ、
金庫から取り出したネックレスやブレスレットをヤクザさんにわたす。
それにしても、このヤクザさん、ジュエリーを雑にあつかうなぁ。
って、ああっ!
「ダメですよ!
宝石はひとつひとつ、丁寧に布袋に入れないと!」
思わず、ヤクザさんに声をかけてしまい、ギロリとにらまれる。
ひい、コワイ……。
「うるせえなあ。
ダイアのジュエリーはダイアで、ひとまとめにしてんだよ」
なんですと……!
カチッとわたしの頭の中で「宝石スイッチ」が入った音がした。
「ぜ~ったいダメ! そんなことしたら、ダイアに傷がついちゃう!」
びっくりした顔をするヤクザさん。
「何言ってんだ。
ダイアが世界で一番硬い石ってくらい、おれだって知ってるぜ?」
「確かに、ひっかき傷に強いかっていう『モース硬度』って基準では、
ダイアは最高基準の硬度十。
ルビーやサファイアより、ずっと傷つきにくいよ。
でもね……。
雑にあつかって、ダイア同士がカチカチこすれあったら、傷がつくの。
ダイア同士は、モース硬度が同じなんだもの」
まくしたてるように言うと、
ヤクザさんは「そ、そうなのか」とひとまとめにして入れていた袋から、
丁寧にダイアのジュエリーを取り出しだした。
そして、わたしに言われた通り、やわらかい素材の布袋にひとつひとつしまいだす。
「ちなみに、ダイアは割れにくさでいう『靭性(じんせい)』は、
そこまで高くないの。
だから、カナヅチで叩くと、粉々に砕けちゃうんだから」
「えっ、砕けんのか⁉」
「そう!
日常生活でもジュエリーを雑にあつかってると、
ダイアが割れちゃうことだってあるんだよ!」
「ほ~」
ふんふんと鼻息を荒くして語るわたしと、手をとめて感心してるヤクザさん。
「はは。嬢ちゃん、なかなか詳しいじゃねーか」
そこに、クローゼットをあさってた方のヤクザさんが声をかけてきた。
「あ、アニキ!」
ヤクザさんが、びしっと姿勢を正す。
このアニキって人、お偉いさんなのかな?
二十代後半くらい? 大学生よりはちょっと年上くらいのワイルドなイケメンさんだ。
「コルァッ!
てめー、何サボってんだ!
それに、この嬢ちゃんの言う通り、宝石は丁寧にあつかえって言ったろ!」
「すんませんっ!」
アニキさんに怒られ、ヤクザの弟分さんの方が、がばっと頭を下げる。
アニキさんはふん、と鼻をならし、持っていた小さなトランクをテーブルの上に置いた。
「クローゼットに隠してたな。
奥さん、これもいただいてくぜ」
トランクの表面には、英語が彫ってあった。
ええと……、「Jewel Princes」、「ジュエル・プリンス」……。
あ、正確には「プリンスィズ」。複数形か。
日本語に訳すと、「宝石王子たち」だね。
「それは……」
母さんの眉が、困ったように八の字になる。
「なんだ? イヤだとは言わねえよな?」
アニキさんはニヤリと笑みを浮かべ、パチン、とトランクを開けた。
中に入っていたのは……。
「わあっ!」
わたしは思わず声を上げた。
キレイなジュエリーが、たくさん!
トランクごと、宝石箱になってたんだね。
宝石をセットしてるプラチナ(かな?)の細工がものすごく細かくて、
高級感にあふれてる。
宝石も、いろんな種類があるなあ。
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