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16.いざ、勝負!
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「ああ、エレオノーラ王女。あなたは、あなたのモンスターは、なんて強いんだ! わたくし、とても感動いたしました!」
おおげさな身振りで、アンダーソンは叫んだ。
自分はまったく戦わずに、リングの超はじっこの、攻撃がとどかないところで……。
しかも、めちゃくちゃ分厚い鎧を着て、角の生えた兜をかぶって、立派な盾を持っている。
これ、まともに動けないんじゃない?
アンダーソンは観客に向かって、余裕で手を振っている。
……仲間がひとりやられたっていうのに、なんだろう、この感じ。
いけない、試合に集中、集中!
ここでムドーが動いた。戦士に向かって、しっぽでなぎはらう攻撃!
戦士はジャンプしてかわしたが、着地地点にあったのは、トゲトゲにとがった岩。
エルノックが、よけるのを見越して、あらかじめ呪文を唱えておいたのだ。
ナイスチームワーク!
さあ、このままじゃ、大ダメージは避けられないよ!
というところで、戦士の体がふきとばされた。
「ぐっ!」
戦士が苦しげにうめいた。
そうか、法力使いが、あえて味方である戦士に風のかたまりをぶつけたんだ!
とがった岩に落ちるよりは、少ないダメージで済むもんね。
あちらもなかなかのチームワーク。
ひとり倒したとはいえ、てごわい……!
戦士はごろごろとリングを転がっていったが、すぐ立ち上がるとムドーにむかって突進してきた。
「ふん、返り討ちにしてくれるわ!」
ムドーは戦士を相手に、しっぽ攻撃や、噛みつき攻撃を始めた。
しかし、戦士は避け続け、ついにムドーのしっぽにしがみついた。
ムドーの体にまとっている炎は、さっきの法力使いの防御呪文のおかげで平気みたいだ。
戦士は、急所があるムドーの体の中心にむかってよじ登っていく。
ムドーはしっぽを振り回し、たたきつけるが、戦士はしっぽを離そうとしない。
が、そこで、いきなりムドーのしっぽが落ちた!
「きゃああ、ムドー!」
わたしが思わず叫ぶが、ムドーはケロッとしている。
「エート、落ち着け。わしが自分で切り離したんじゃ。体に登ってこられたらたまらんからの」
え、そ、そうなの⁉
そういえば、とかげのしっぽ切りって、聞いたことがある……。
とかげは、敵から身を守るために、しっぽをつかまれた場合、そのしっぽを切って逃げるんだよね。
でも、この前、ヴァンがムドーに「火トカゲ」って言ってた時、「この王をバカにするか! わしはサラマンダーじゃ!」ってものすごく怒ってたのに……。
や、やっぱりおっきなトカゲさんだったの?
って、今は試合に集中だってば!
見ると、戦士は、しっぽと一緒に地面に落ちていた。
びちびちと跳ね回るしっぽにじゃまされ、なかなか起き上がれないようだ。
その戦士に向かい、ムドーはどしんとのしかかった。
で、しばらくして、ムドーが体をどかすと……。
ムドーと床にはさまれた戦士は、ぐったりと動かなくなっていた。
「防御魔法がかけられておったからの。死にはしとらんじゃろ」
ムドーの言葉に安心する。
さあ、これでふたりはやっつけた。あとは、法力使いだけ!
アンダーソンは……。
「はっはっは、やられてしまいましたな」
やっぱり、リングのすみっこで全然動かない。
……おかしいな、いつものアンダーソンだったら、「なにをやってるんだ、おまえたちは!」ってかんしゃくを起こしそうなのに。
にこにこしているアンダーソンとは対照的に、法力使いは、見ていてかわいそうなくらいうろたえていた。
だって、実質三対一だもんね。
わたしもこんな状況になったら、逃げだしたいよ……。
法力使いが呪文を唱えている最中に駆け出したのは、この中で一番素早いエルノックだ。
「これで終わりじゃよ!」
そう言って、つるはしの側面で、法力使いのすねをたたいた。
ひゃあ! 見てるだけで痛い!
「ぎゃあっ!」
法力使いは叫び、うずくまった。
その間に近づき、わたしの頼もしい三匹のモンスターは、法力使いをとりかこむ。
恐怖に震える法力使い。
「あ、あ……。こ、降参だ! 降参する! だから、攻撃はやめてくれぇ!」
やった! これで、三人ともやっつけたよ!
あとは、アンダーソンだけ……。
一斉攻撃されたら、終わりだよ!
それなのに、アンダーソンは、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ! おまたせいたしました、皆様! 今までのはあくまでも前座……。そう、前座であります!」
前座⁉ どういうこと?
じりじり、とムドーたちがアンダーソンに近づいても、アンダーソンは不敵な笑みを浮かべて話し続ける。
「ご安心ください。わたくしが負けることなど、絶対にありえないのです。……封印解除!」
アンダーソンの言葉と同時に、あの大きな鉄の箱に描かれていた魔法陣が消える。
その瞬間、鉄の箱が中からガゴンッ! とぶち破られた。
中から出てきたのは……、三つの頭を持つ、巨大な犬。
「ウオォォオンッ!」
そのモンスターは、大きな声でほえた。
そう、「地獄の番犬」とも呼ばれる、上級モンスター。
その名は――、ケルベロス。
それが、わたしたちの前にたちはだかっていた。
おおげさな身振りで、アンダーソンは叫んだ。
自分はまったく戦わずに、リングの超はじっこの、攻撃がとどかないところで……。
しかも、めちゃくちゃ分厚い鎧を着て、角の生えた兜をかぶって、立派な盾を持っている。
これ、まともに動けないんじゃない?
アンダーソンは観客に向かって、余裕で手を振っている。
……仲間がひとりやられたっていうのに、なんだろう、この感じ。
いけない、試合に集中、集中!
ここでムドーが動いた。戦士に向かって、しっぽでなぎはらう攻撃!
戦士はジャンプしてかわしたが、着地地点にあったのは、トゲトゲにとがった岩。
エルノックが、よけるのを見越して、あらかじめ呪文を唱えておいたのだ。
ナイスチームワーク!
さあ、このままじゃ、大ダメージは避けられないよ!
というところで、戦士の体がふきとばされた。
「ぐっ!」
戦士が苦しげにうめいた。
そうか、法力使いが、あえて味方である戦士に風のかたまりをぶつけたんだ!
とがった岩に落ちるよりは、少ないダメージで済むもんね。
あちらもなかなかのチームワーク。
ひとり倒したとはいえ、てごわい……!
戦士はごろごろとリングを転がっていったが、すぐ立ち上がるとムドーにむかって突進してきた。
「ふん、返り討ちにしてくれるわ!」
ムドーは戦士を相手に、しっぽ攻撃や、噛みつき攻撃を始めた。
しかし、戦士は避け続け、ついにムドーのしっぽにしがみついた。
ムドーの体にまとっている炎は、さっきの法力使いの防御呪文のおかげで平気みたいだ。
戦士は、急所があるムドーの体の中心にむかってよじ登っていく。
ムドーはしっぽを振り回し、たたきつけるが、戦士はしっぽを離そうとしない。
が、そこで、いきなりムドーのしっぽが落ちた!
「きゃああ、ムドー!」
わたしが思わず叫ぶが、ムドーはケロッとしている。
「エート、落ち着け。わしが自分で切り離したんじゃ。体に登ってこられたらたまらんからの」
え、そ、そうなの⁉
そういえば、とかげのしっぽ切りって、聞いたことがある……。
とかげは、敵から身を守るために、しっぽをつかまれた場合、そのしっぽを切って逃げるんだよね。
でも、この前、ヴァンがムドーに「火トカゲ」って言ってた時、「この王をバカにするか! わしはサラマンダーじゃ!」ってものすごく怒ってたのに……。
や、やっぱりおっきなトカゲさんだったの?
って、今は試合に集中だってば!
見ると、戦士は、しっぽと一緒に地面に落ちていた。
びちびちと跳ね回るしっぽにじゃまされ、なかなか起き上がれないようだ。
その戦士に向かい、ムドーはどしんとのしかかった。
で、しばらくして、ムドーが体をどかすと……。
ムドーと床にはさまれた戦士は、ぐったりと動かなくなっていた。
「防御魔法がかけられておったからの。死にはしとらんじゃろ」
ムドーの言葉に安心する。
さあ、これでふたりはやっつけた。あとは、法力使いだけ!
アンダーソンは……。
「はっはっは、やられてしまいましたな」
やっぱり、リングのすみっこで全然動かない。
……おかしいな、いつものアンダーソンだったら、「なにをやってるんだ、おまえたちは!」ってかんしゃくを起こしそうなのに。
にこにこしているアンダーソンとは対照的に、法力使いは、見ていてかわいそうなくらいうろたえていた。
だって、実質三対一だもんね。
わたしもこんな状況になったら、逃げだしたいよ……。
法力使いが呪文を唱えている最中に駆け出したのは、この中で一番素早いエルノックだ。
「これで終わりじゃよ!」
そう言って、つるはしの側面で、法力使いのすねをたたいた。
ひゃあ! 見てるだけで痛い!
「ぎゃあっ!」
法力使いは叫び、うずくまった。
その間に近づき、わたしの頼もしい三匹のモンスターは、法力使いをとりかこむ。
恐怖に震える法力使い。
「あ、あ……。こ、降参だ! 降参する! だから、攻撃はやめてくれぇ!」
やった! これで、三人ともやっつけたよ!
あとは、アンダーソンだけ……。
一斉攻撃されたら、終わりだよ!
それなのに、アンダーソンは、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ! おまたせいたしました、皆様! 今までのはあくまでも前座……。そう、前座であります!」
前座⁉ どういうこと?
じりじり、とムドーたちがアンダーソンに近づいても、アンダーソンは不敵な笑みを浮かべて話し続ける。
「ご安心ください。わたくしが負けることなど、絶対にありえないのです。……封印解除!」
アンダーソンの言葉と同時に、あの大きな鉄の箱に描かれていた魔法陣が消える。
その瞬間、鉄の箱が中からガゴンッ! とぶち破られた。
中から出てきたのは……、三つの頭を持つ、巨大な犬。
「ウオォォオンッ!」
そのモンスターは、大きな声でほえた。
そう、「地獄の番犬」とも呼ばれる、上級モンスター。
その名は――、ケルベロス。
それが、わたしたちの前にたちはだかっていた。
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