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18.あらわれたのは……
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リングにあらわれたのは、金色の魔法陣。バチバチっと金の光が走る。
光に包まれながらあらわれたのは、ヴァン。
それは、コロッセオの照明になっているアカリ石の光とまじりあい、とても幻想的な光景だった。
まるで、おとぎ話に聞く、天使みたい……。
と、思ったのは最初だけでした。
魔法陣の光がおさまると、ヴァンの顔に浮かぶ、凶悪な笑み。
「てめぇら……、よくも好き勝手してくれたな」
ひえ。こ、こわい……! 笑ってるけど、背中にどす黒いオーラが見えるよ!
「また人型だ!」
「あれは、なんてモンスターだ⁉」
観客たちの声にはっとする。
危ない、大事なこと忘れるところだった!
「ヴァン!」
わたしは左手をすっと差し出す。
ヴァンはわたしの手をうやうやしくにぎり、ひざまずいた。
騎士が王女に忠誠を誓うように……。ちゅっと音を立てて、手の甲に口づける。
これは、ヴァンがヴァンパイアの本性をコントロールするための、ある種の「儀式」だ。
おのれの理性をたもち、ヴァン自身の意思でもって魔王化する。
「エートの手に口づけて、その血を飲む」=「理性をもって魔王化する」。
っていう風に、ヴァンの本能にすりこませるんだって。
これはマオの提案だ。ヴァンが暴走した事件の後からマオの監督のもとで練習を始めた。
さすがはヴァンというべきか、練習の時から一度も失敗したことはないんだけど……。
わたしはというと……、ひたすら緊張する!
もう、ヴァンがかっこよすぎて、見とれちゃうよ。
会場も、「おお……!」とどよめいてるし。
ちくっと走る痛み。今、牙を立てて、血を吸ったんだね。
「ありがとな、エート。これで……、あいつらを、ぶっとばせる」
ヴァンの耳と目が変化していく。よし、理性ものこってるし、無事に魔王化できたみたい。
「あと、危ないからこれはおれによこしとけ」
わたしが右手でぎゅうっとにぎりしめていた氷柱を、ヴァンは優しく取り上げて……。
ぶんっ! と、ケルベロスに向かって、思いっきり投げた!
まるで矢のように氷柱は飛んでいく。
ケルベロスは火を吹き、瞬時に氷柱は蒸発。
「さあ、勝負だ犬っころ!」
ヴァンはそう叫んで、バサッという音とともに背に翼をはやした。
黒い大きな翼は、コウモリの羽をもっとずっと大きくしたような形だ。
「あの翼は……、ヴァンパイアか⁉」
「すげえ! 上級モンスターだ!」
「そうか、だから日がある時は召喚できなかったのか!」
そんな人々の声を聞きながら、わたしはただ祈っていた。
お願い、ヴァン。負けないで!
ヴァンは空中に舞い上がった。それを追うように、ケルベロスが炎の息を吐く。
しかし、ヴァンの動きが早すぎて、ケルベロスはまるでついていけてない。
「ウオオオォォォン!」
ケルベロスが吠えると、あの大風の渦が発生した。
大風でみだれた空気で、ヴァンの体がぐらつく。
ヴァンは手を突き出して、バリアをはったが、その手は風の刃で傷ついているように見えた。
ぽた、ぽた、と、上空から血が……、血?
……違う。これは、血じゃない!
黒い、なにか。闇色をした何かが、うごめいている!
「ヴァンパイアは、体に闇を飼っている」
ぽつり、とヴァンはつぶやいた。
「見せてやるよ。これが、ヴァンパイアの力だ」
ヴァンが手をかざす。すると、ヴァンの手のひらから闇がぶわっとあふれ、槍のような形になった!
「くらいな!」
ヴァンは闇の槍を思い切り振りかぶり、ケルベロスに向かって、発射!
でも、これって、さっきの氷柱と攻撃パターンが一緒だよね?
ケルベロスは同じ対応をしてくるんじゃ……⁉
ああ、ほら! ケルベロスが炎を吹いた!
そう思った瞬間。
「はじけろ!」
一直線に走ってくる炎を前に、闇の槍がヴァンの声に合わせてばちんっとはじけた。
炎をうまくかわし、たくさんの粒にわかれた闇の塊たちが、八方からケルベロスに襲いかかる!
ドドドドッ! とにぶい音がした。
「ぎゃんっ!」
ケルベロスが悲鳴を上げて、ふっとぶ。
「ケルベロスッ!」
アンダーソンが青い顔をして叫んだ。
ヴァンがぱちんっと指をならすと、闇の塊たちはロープのように形を変え、ぎゅるっとケルベロスに巻きついた。それでもって、ケルベロスの体をしめつける。
「ぐるるるっ!」
ケルベロスは必死にもがくが、闇のロープははずれそうにない。
やった、動きを完全に封じたよ!
光に包まれながらあらわれたのは、ヴァン。
それは、コロッセオの照明になっているアカリ石の光とまじりあい、とても幻想的な光景だった。
まるで、おとぎ話に聞く、天使みたい……。
と、思ったのは最初だけでした。
魔法陣の光がおさまると、ヴァンの顔に浮かぶ、凶悪な笑み。
「てめぇら……、よくも好き勝手してくれたな」
ひえ。こ、こわい……! 笑ってるけど、背中にどす黒いオーラが見えるよ!
「また人型だ!」
「あれは、なんてモンスターだ⁉」
観客たちの声にはっとする。
危ない、大事なこと忘れるところだった!
「ヴァン!」
わたしは左手をすっと差し出す。
ヴァンはわたしの手をうやうやしくにぎり、ひざまずいた。
騎士が王女に忠誠を誓うように……。ちゅっと音を立てて、手の甲に口づける。
これは、ヴァンがヴァンパイアの本性をコントロールするための、ある種の「儀式」だ。
おのれの理性をたもち、ヴァン自身の意思でもって魔王化する。
「エートの手に口づけて、その血を飲む」=「理性をもって魔王化する」。
っていう風に、ヴァンの本能にすりこませるんだって。
これはマオの提案だ。ヴァンが暴走した事件の後からマオの監督のもとで練習を始めた。
さすがはヴァンというべきか、練習の時から一度も失敗したことはないんだけど……。
わたしはというと……、ひたすら緊張する!
もう、ヴァンがかっこよすぎて、見とれちゃうよ。
会場も、「おお……!」とどよめいてるし。
ちくっと走る痛み。今、牙を立てて、血を吸ったんだね。
「ありがとな、エート。これで……、あいつらを、ぶっとばせる」
ヴァンの耳と目が変化していく。よし、理性ものこってるし、無事に魔王化できたみたい。
「あと、危ないからこれはおれによこしとけ」
わたしが右手でぎゅうっとにぎりしめていた氷柱を、ヴァンは優しく取り上げて……。
ぶんっ! と、ケルベロスに向かって、思いっきり投げた!
まるで矢のように氷柱は飛んでいく。
ケルベロスは火を吹き、瞬時に氷柱は蒸発。
「さあ、勝負だ犬っころ!」
ヴァンはそう叫んで、バサッという音とともに背に翼をはやした。
黒い大きな翼は、コウモリの羽をもっとずっと大きくしたような形だ。
「あの翼は……、ヴァンパイアか⁉」
「すげえ! 上級モンスターだ!」
「そうか、だから日がある時は召喚できなかったのか!」
そんな人々の声を聞きながら、わたしはただ祈っていた。
お願い、ヴァン。負けないで!
ヴァンは空中に舞い上がった。それを追うように、ケルベロスが炎の息を吐く。
しかし、ヴァンの動きが早すぎて、ケルベロスはまるでついていけてない。
「ウオオオォォォン!」
ケルベロスが吠えると、あの大風の渦が発生した。
大風でみだれた空気で、ヴァンの体がぐらつく。
ヴァンは手を突き出して、バリアをはったが、その手は風の刃で傷ついているように見えた。
ぽた、ぽた、と、上空から血が……、血?
……違う。これは、血じゃない!
黒い、なにか。闇色をした何かが、うごめいている!
「ヴァンパイアは、体に闇を飼っている」
ぽつり、とヴァンはつぶやいた。
「見せてやるよ。これが、ヴァンパイアの力だ」
ヴァンが手をかざす。すると、ヴァンの手のひらから闇がぶわっとあふれ、槍のような形になった!
「くらいな!」
ヴァンは闇の槍を思い切り振りかぶり、ケルベロスに向かって、発射!
でも、これって、さっきの氷柱と攻撃パターンが一緒だよね?
ケルベロスは同じ対応をしてくるんじゃ……⁉
ああ、ほら! ケルベロスが炎を吹いた!
そう思った瞬間。
「はじけろ!」
一直線に走ってくる炎を前に、闇の槍がヴァンの声に合わせてばちんっとはじけた。
炎をうまくかわし、たくさんの粒にわかれた闇の塊たちが、八方からケルベロスに襲いかかる!
ドドドドッ! とにぶい音がした。
「ぎゃんっ!」
ケルベロスが悲鳴を上げて、ふっとぶ。
「ケルベロスッ!」
アンダーソンが青い顔をして叫んだ。
ヴァンがぱちんっと指をならすと、闇の塊たちはロープのように形を変え、ぎゅるっとケルベロスに巻きついた。それでもって、ケルベロスの体をしめつける。
「ぐるるるっ!」
ケルベロスは必死にもがくが、闇のロープははずれそうにない。
やった、動きを完全に封じたよ!
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