【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~

みなづきよつば

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10.ひとときの休息と大切な思い

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 わたしが両手を突き上げて、大声で叫んだ、そのあと。
 ぐらっと揺らぐ世界。体から力がぬける。
 やば、魔力切れだ……! と、思った瞬間、体をがしっと支えられた。
「ヴァン……、ありがと」
「無理してしゃべんな」
 そう言って、ヴァンはわたしを支えながら、ゆっくりと地面に横たえ……、なかった。
「え」
 横たえたには、横たえたよ。
 でもそれは、ヴァンの腕の中。
 わたしは、背中と膝裏を支えられて……。
 そう、いわゆるお姫様抱っこ状態!
「わ、あの、ちょ、ヴァン!」
 かーっと顔に熱がのぼる。いや、顔だけじゃなくて、全身が熱い。血がめぐりまくってる!
 ドッドッドって鼓動の音が、耳の奥で響きわたってじんじんしてる。
 なんで? なんでこんなにドキドキするの?
 ヴァンが美形で、近くに寄られると緊張するから?
「大丈夫だから! ひとりで歩けるから!」
 みじろぎすると、さらにぎゅうっと抱きこまれた。
 ヴァンの体温が、すっごく近くに感じられる。
 あったかくて、ずっとこの腕の中にいたいって思うくらい心地いい。
「あー、うるせー。だまって運ばれてろ!」
「わたし、重いから!」
「重くねーよ。むしろ軽い。……じゃなくて。あー……エート!」
「はいっ⁉」
「悪ぃ、肝心な時に力になれなくて。くそっ、なさけねえ……」
 ヴァンはくやしそうに顔をゆがめた。
 そのほほには、釣り針にひっかけられた傷。
「そんな、謝らなくてもいいよ! コズールのやつ、毒なんてつかってさ。卑怯すぎ!」
「いや、完全なおれのミスだ。相手を甘く見てた」
 そんなことない、という言葉をわたしはのみこんだ。
 きっと、これ以上なぐさめの言葉をかける方が、ヴァンにはつらいだろう。
 ヴァンがつらいと、わたしもつらくなる。
 ……、なんで? わたしの教育係として、尊敬してるから?
 ヴァンがわたしの顔をのぞきこみ、目と目が合う。
 ヴァンのキレイな青い瞳。普段は青空のように自由で強い色をしてるのに、今は優しい色をしていた。まるで、すべてを包んでくれる海みたいだ。
「毒にやられたのが、おまえじゃなくてよかった」
 胸の高鳴りが、どんどん大きくなる。
「おまえに、ケガがなくてよかった」
 いつもとは全然違う、甘い声。
「……よくがんばってくれたな、エート」
 名前を呼ばれて、心臓がぎゅうってなって、なんだか泣きそうになった。
 ああ、わたしの好きなほほ笑みだ。
 ……好き?
 ……、え、ちょっと待って。
 好きって、何?
 わたしが、好きなのは、ヴァンの、笑顔。
 笑顔、だけ? わたしが、好きなのは……。
 だんだん頭がぼーっとしてきた。だめだ、限界、かも……。
「だから、ちょっと休め。おれが、運んでやるから、な?」
「……ありがと、ヴァン」
 かろうじてお礼を言ったのと同時に、わたしは意識を失った。
 こうして、キヨコの帽子事件は幕を閉じたのだった。
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