【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~

みなづきよつば

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2.カゼひきサラマンダー

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 ぶわっくしょーい!
 またサラマンダーがくしゃみをした。
 溶岩がごぼりと盛り上がり、はじける。
「きゃああ!」
 火の粉が空から降ってきた。よけられない! と思った瞬間。
「せめて、自分の身は自分で守れるようになれ」
 わたしたちの頭上には、鈍く光る、薄い膜がはられていた。
 ヴァンが手をかかげているところをみると、防御魔法を使ってくれたのだろう。
 火の粉はバリアにあたり、そこではじけてこちらに向かってくることはない。
 金髪が淡く光ってを反射して、青い瞳が真剣に前を見すえていて……。
 バチバチとはじける火の粉に照らされるヴァンは、なんていうか、その、すごくカッコよかった。心臓がドキドキする。
「はー、こりゃ、管理人としては失格だな」
 火の粉が止み、バリアをといたヴァンはため息をついて言った。
 それに、さきほどとは違った意味で、心臓がドキッとする。
 そうだった! 
 これは、わたしの新たな人生への第一歩。
 マンションって建物じゃなくて、本物のダンジョンを管理するっていうのには驚いたけど……。
 ここで、あきれられて失格になるワケにはいかない!
 えーと、えーと、なんとかならないかな。
「あのさ、ヴァン。サラマンダーのカゼって、どうやって治すの?」
「あ? この解熱剤を飲ませるんだよ」
 そう言ってヴァンが背負っていたバッグから取り出したのは、でっかいガラス瓶。
 中には、どんより緑ににごった液体が入ってる。
 ぶっちゃけ、ものすごくまずそう。
「これ、めちゃくちゃ苦いけど、効くんだぞ。前も無理矢理飲ませた」
 やっぱり苦いんだ。てか、前回もそんなことがあったのね。
「でもさ、カゼって安静にしてたら、勝手に治っちゃうじゃない? 急いで治療しなくても……」
「カゼのせいで熱が上がって、コイツの攻撃の威力も上がりすぎてるんだ。冒険者の難易度を調節するためにも、早めに治したい」
 冒険者の難易度。そんな単語聞くとは思わなかった。
 でもここ、お試しダンジョンだもんね。
 そりゃ、強すぎるモンスターがいたら困るわ。
「それに、アイツ、『カゼのだるさでイライラしてるんじゃ』って必要以上に冒険者をいたぶったりしてるからな。しかも、わざわざ下の階に行ける階段の前で待ち伏せして。サラマンダーが強すぎて進めないって客からの苦情がきてる」
 お客さんの苦情は、営業にかかわるもんね。
「だから、蹴りいれて、口開けたとこにこの薬をどばっと入れてやれば……」
「急に力わざすぎない⁉」
 そっか、攻撃してたのは、口を開けさせるためか。
 だって、モンスターとコミュニケーションなんてとれないもんね。
 って、ん? 何かひっかかるような……。
「いいんだよ。あいつ、頑固者だから、『どうしてもそれを飲ませたいなら、わしを倒してみろ!』なんて言って……」
 あれ? やっぱり、そうだよね。変だ。
「ねえ、ヴァンってモンスターの言葉が分かるの?」
 変だと思ったことを、ズバリ指摘してみる。
 だって、モンスターはわたしたち人間の言葉を話さない。
 だからサラマンダーに何か言われても、分かるわけがないのだ。
「あ~……、職業柄分かるんだよ。だから、おまえも早くマオに職業鑑定してもらえ」
「えっ、マオに?」
 マオ、職業鑑定士だったんだ。もしかして、これが裏ワザ?
「とりあえず、いったんマオのところに戻るか」
 よかった、とりあえずはまだテストの結果は保留みたい。
「それでロクな職業じゃなかったら、おまえ失格だからな」
 なんですと⁉
「ヴァン~、お願い、見捨てないでよおおお!」
 わたしの声はむなしくダンジョンに響きわたった。
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